036 家族キャンプが終わった
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目が覚めたが、まだ薄暗い。スマホを確認すると、時刻は6時前だった。
「早すぎるだろ……」
昨日寝たのは確か日付が変わってからだ。それなのに頭は妙にすっきりしている。寝不足の感じもしない……むしろ体は軽かった。
最初の頃は、久々のキャンプだからだと思っていたが、ここまで続くと偶然とは思えない。
「やっぱりキャンプ設営の効果なのか?」
虫が近寄れなかったり、人や動物も入れないエリアを作れるなら、疲労回復とか快眠とか、そういう効果があっても不思議じゃない。確信は持てないが、可能性は高そうだった。
寝袋から抜け出し、テントの外へ出ると……
「にゃっ!」
待っていましたと言わんばかりにミミが走ってきた。
「おはよう」
だが撫でても反応が薄く、無視するような形で、そのまま歩き始める。後を付いていくと、ミミは荷物の置いてある場所まで移動した。
そして立ち止まる……目の前にはブラシや電動爪研ぎなど、ミミの手入れ用品が入ったケース。
「ああ……」
そういえばキャンプに来てから手入れしてなかったな。ミミはこちらを見て一鳴きし、尻尾を揺らしている。
どうやら要求はこれらしい。
「分かったよ」
ブラシと電動爪研ぎを持ち、父親のキャンプチェアーへ向かう。背もたれの高いチェアーへ深く腰掛けると、ミミは当然のように飛び乗って、膝の上へ着地。
そして、ごろんとして、お腹を見せた。
「お前、俺には滅多に見せないだろ」
「にゃ」
さらに前足と後ろ足を伸ばす。完全に準備万端だった。まずは爪の手入れをしろということらしい。
若返った今なら自分でも爪とぎできるだろうに……そう思うのだが、こうして甘えてこられると断れない。
ミミは昔は、自分で爪とぎをしていた。年を取ってから上手く研げなくなり、その対策として電動爪研ぎを購入している。
おかげでかなり楽になった。爪切りは嫌がるので、できるだけ綺麗に研いでやらなければならない。以前はかなり時間が掛かっていたが、今はミミの負担も少ない。
「ほら」
ウィーンという小さな音が響く。普通の猫なら嫌がりそうだが、ミミは気にしない。むしろ慣れた様子で肉球を開いていた。
「ご機嫌だな」
「にゃっ!」
1本ずつ丁寧に整えていく……前足の爪を全部研いだら、後ろ足の爪を……全部終わると、ミミも満足そうだった。
次はブラシだな。まずはお腹の柔らかい毛へブラシを通す。するりと抜け毛が取れていく。ミミは目を細め、完全に脱力していた。
「気持ちいいか?」
ごろごろごろ……返事の代わりに喉が鳴る。
しばらくすると、自分から体勢を変えた。今度は背中ってことだな……続いて首回り、尻尾の付け根と念入りにブラシを通していく。
そんなことをしていると、テントが開いた。
「おはよう」
母親だった。すると、ミミが即座に反応する。
「にゃ!」
俺の膝から飛び降りた。そのまま母親のところへ移動して、当然のように膝へ飛び乗る。
そしてこちらを見ながら一鳴きした。
「にゃ~」
「交代しろってことか」
「そうみたいね」
母親が笑った。俺はブラシを渡した……ミミが母親を選んだ以上、別の仕事がある。
「じゃあ朝飯作るか」
朝食のメニューは決めている。食パンを使う料理だ。ただ毎回ホットサンドというのも芸がない……から、今日はサンドイッチだ。
昨日のうちに茹で卵は作ってあるし、ハムもレタスも買ってある。
まずは卵サンドだ。茹で卵の黄身だけを取り出し、しっかりと潰し、そこへマヨネーズを投入する。ダマがなくなるまで混ぜ続け、さらに砂糖を少量加えると、舌触りがなめらかになる。
塩と胡椒で味を整え、最後に刻んだ白身を加えた。後はパンへ挟むだけ。
続いてハムレタスサンド……こちらはもっと簡単だ。レタス、ハム、マヨネーズを挟む……以上、それだけ。料理とは言えないほど簡単な工程だ。
完成した頃、ミミが母親の膝から降りて車へ向かって移動を始める。寝るのか? とか思っていたが、
「きゃっ!?」
車内から悲鳴が聞こえた。慌てて振り向くと、楓が飛び起きていた。
「ミミちゃん!」
「にゃー」
どうやら顔を何かされたようだ……起床担当だったようだ。
数分後、
「おはよ……」
眠そうな楓が出てきた。父親もいつの間にか起きており、キャンプチェアーでスマホを眺めている。ニュースを読んでいるらしい。
家族が揃ったところで朝食だ。
「いただきます」
卵サンドを一口……普通に美味い。
「これ好き」
楓も満足そうだった。
朝食を終えると、いよいよ撤収作業が始まる。持ってきた荷物は多いから、当然片付けも時間が掛かる。
まずはテント類から……乾燥状態を確認しながら畳み、収納袋へ入れ、車の荷室へ積み込む。
「にゃー」
「応援か?」
「にゃ」
たぶん応援だった。
ミミ用に持ってきていた氷も確認する。結局ほとんど使わなかったな……氷はほぼ溶けている。水を捨てて軽くしておいた。
作業は順調だった。テント、タープ、チェアー、テーブル、調理器具……少しずつキャンプサイトから物が消えていく。
全て終わる頃にはそれなりの時間が経っていた。後はチェックアウトまでのんびり過ごすだけ。そう思ったのだが……
「虫、多くない?」
楓が顔をしかめた。
確かにそうだった……テントとタープを片付けてから、一気に虫が増えた気がする。耳元を飛ぶ羽音、足元を歩く虫、今までほとんど気にならなかったのに。
「うっとうしいな」
快適さに慣れてしまったせいか余計に気になる。
結局……
「帰るか」
父親がそう宣言して、予定より早めに出発することになった。
帰り道の途中で昼食を食べ、家へ到着したのは15時少し前だった。
「早かったな」
「まだ時間あるね」
本来ならここで終わりだが、早く家についたので、キャンプ道具の手入れをすることになった。キャンプ道具は、使った後の手入れが重要だからな。
テントを乾かしながら、汚れを確認し、道具を整理していく。
そんな中、ふと気付いた。家の周囲にも普通に虫がいる。
「なんか気になるな……」
数日間快適な環境にいたせいだろう。試しに庭へテントを設営してみた。ついでにタープも張る。
「あれ?」
気のせいだろうか? 少しだけ涼しい。そして虫が減った。明らかにさっきより快適だった。
「やっぱりか」
キャンプ設営が、どう考えても関係している。そんなことを考えていると、母親がやって来た。
「翼、小さいタープでいいから、窓の近くに建ててくれないかしら?」
「窓?」
「夏は換気したいけど虫が入るでしょう?」
なるほど、確かにその通りだ。
「虫が入ってこないなら助かるのよ」
俺は言われた通り、風の通り道になる窓の外へ小型のタープを2ヶ所に設営した。
母親が窓を開ける。一応虫対策用品も置いてあるが……
「やっぱり入ってこないわね」
「みたいだな」
風が部屋を通り抜ける。本来なら夏の熱気も入るはずなのに、不思議と過ごしやすかった。
「少し涼しい?」
「俺もそう思った」
これも能力の影響なのだろうか。まだ断言はできないが、快適なのは間違いない。
窓際へ視線を向けると、そこには自分のクッションへ寝転がるミミがいた。
風通しのいい特等席で目を細めながら、気持ちよさそうにくつろいでいる。
「いい場所見付けたな」
「にゃー」
満足そうな返事だった。
こうして家族キャンプは終わった。
キャンプ設営というスキルは、謎に包まれている。他のスキルみたいにLvが上がったら何かしらの能力が追加されるのだろうか?
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