035 家族キャンプ3日目②
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楓とミミがおやつを食べ終えた時間なので、まだ夕食には早い時間だ。何をしようかと思っていると、母親が道の駅で買ってきた袋を広げ始めた。
「夕飯の下ごしらえしておくわね」
袋の中には野菜がぎっしり入っていた。トウモロコシ、ズッキーニ、ナス、パプリカ、ジャガイモ、どれも見るからに新鮮だ。
「手伝う?」
「まだ大丈夫。切るだけだから」
そう言って母親は慣れた手つきで作業を始めた。確かに今は2人でやるほどでもなさそうだ。
俺はチェアーへ腰を下ろし、本でも読もうかと思ったが、ふと別のことが気になる……キャンプ設営のことだ。
今回のキャンプでも色々な効果を実感している。虫が少なく、妙に快適で、疲れも残りにくい気がする。
ただ、疲労回復は今から試せるものじゃない。だったら別の部分だ。
「虫か」
立ち上がり、少しだけ周囲を歩いてみる。森の近くまで行くと、小さな赤い点が目に入った。テントウムシだ。
「ちょうどいいな」
指を差し出すと、テントウムシはゆっくりと乗ってきて、そのまま手のひらへ移動させる。逃げる様子もない。
俺はそのままキャンプサイトへ向かって歩き始めた。そして、
「おっと」
急にテントウムシが落ちた。地面へ落ちたテントウムシを拾い上げる。再びキャンプエリアへ向かわせようとするが、今度は途中で止まった。
前へ進まない?
「なんだ?」
指で軽く誘導しても駄目だ。ある地点から先へ行こうとしない。まるで見えない壁でもあるみたいだった。
試しに持ち上げて近付けてみると、足をばたつかせる。
「やっぱり何かあるな」
虫だけなのか? それとも他の生き物も対象なのか? でも家族は普通に入っている。人間は対象外なのかもしれない?
そんなことを考えながら、なんとなく思った。どうやってか入れられないかな?
その瞬間……
「あれ?」
テントウムシが普通に歩き始めた。そのままキャンプエリアへ入っていく……何事もなかったかのように。
「……もしかして」
俺の意思が影響している? そう考えた方が自然だった。
すると後ろから声がした。
「何してるの?」
振り返ると楓だった。足元にはミミもいる。どうやらいつの間にか見られていたらしい。
俺は今までの流れを簡単に説明した。
「へー」
「にゃー」
ミミが一声鳴くと、楓が腕を組んだ。
「念じたら、動物や人も入れなくなる? って言ってるのかな?」
「そんなこと言ってるのか?」
「たぶん」
本当に? まあいい、せっかくだし試してみるか。
「楓、一回外に出て」
「分かった」
楓はミミを抱いたままエリアの外へ出た。
俺は意識を集中する。楓を入れない……楓を入れない……そんな感じで念じてみる。
「じゃあ行くよ?」
楓が歩き出した。そして……
「うわっ」
途中で止まった。
「どうした?」
「なんかある」
「なんか?」
「壁みたいな感じ」
楓は空中を触るように手を動かした。
「痛くないけど、押される感じ?」
面白いな。本当に入れないらしい。
その一方で……
「にゃ」
楓の腕の中からミミが飛び降りた。そして普通にキャンプエリアへ入ってくる。
「入れるのかよ」
「にゃー」
得意そうだった。
楓だけを拒絶している状態らしい。
「じゃあ今度は入れる」
そう念じた直後、
「わっ!?」
楓が体勢を崩した。前にあった支えていた何かが消えたように、そのままエリアへ入ってくる。
「ちょっと!」
「悪い悪い」
「絶対面白がったでしょ!」
ばれたか、でも収穫は大きい。どうやら出入りの制御ができるらしい。虫は最初から入れないが、人や動物は入れるかもしれないけど、俺の意思で拒否できる。
「この辺は後でちゃんと調べないとな」
まだ分からないことだらけだ。すると別の疑問が浮かぶ。
外から入れないなら。中から追い出せるのか? 気になるが、楓やミミで試すのは少し怖い。
「そういえば」
さっきのテントウムシが、まだ手の上を歩いている。俺は何となく念じた。
出ていけと……
「あ」
消えた。本当に一瞬だった。手の上からいなくなったのだ。
外へ飛ばされたのか? 消滅したのか? 小さすぎて分からない。近くにテントウムシがいても、同じ個体かは分からない。
「どうなったの?」
「分からん」
本当に分からない。だがスキルの一端を知れたのは間違いない。今回のキャンプは家族旅行としても楽しいが、それ以上に収穫が多かった。
そんなことを考えていると。
「翼~」
母親の声が飛んできた。
「そろそろ手伝ってー」
どうやら夕食の時間が近付いているらしい。俺と楓は調理スペースへ向かった。
「楓も手伝いなさい」
「……」
無言でミミを抱き上げ、そのまま車へ向かって歩き始めた。
「逃げた」
「逃げたわね」
俺と母親は顔を見合わせて苦笑した。だが数分後、
「楓」
父親に呼び戻された。
「火起こし手伝え」
「えー」
「料理できなくてもそれくらいはできるだろ」
観念したらしい。楓は渋々戻ってきた。ミミは車の中で見学モードだった。
今日の夕食はシンプルだった。
ダッチオーブンへ夏野菜を投入する。
バター、塩、胡椒、以上。
「これだけ?」
「道の駅の人が言ってたのよ」
母親が笑う。
「清里の旬の夏野菜なら余計なことしなくても美味しいって」
確かに野菜はどれも立派だった。蓋をして蒸し焼きにする。
その間に別の準備だ。豚肉と鶏肉を串へ刺していく。既に切り分けてあるので簡単だった。
「楽だな」
「刺すだけだもの」
気付けば楓も火起こしを終えていた。
「終わった~」
後は焼くだけだ。やがてダッチオーブンからいい香りが漂い始めた。
「うまそう」
野菜の甘い香りが一気に広がり、それだけで腹が減る。
夕食が始まった。まずは夏野菜の蒸し焼きから一口食べる。
「甘っ」
驚いた……特にトウモロコシが凄い、野菜だけで十分美味い。
「本当ね」
「これは当たりだな」
両親も満足そうだった。
その間に串焼きも焼き上がっていく。肉の香ばしい匂いが混ざり始めるた。食事をしながら、楓が昼間の話を始めた。
「ねえねえ、お兄ちゃんのスキルなんだけど」
そして実験内容を説明をし始めた……虫が入れないこと、人間も拒否できること、疲れが取れやすいかもしれないこと。
「なるほどな」
父親が頷く。
「虫が入ってこないだけでも十分羨ましい」
「本当にね、夏のキャンプ最大の敵だもの」
2人とも自分のスキルについては棚上げだったが、気持ちは分かる。今回のキャンプの快適さは異常だった。
夕食を終える頃には空も暗くなっていた。片付けを済ませた後は、いつもの場所へ移動する……キャンプシアターだ。
今日も家族全員で映画を見る。
笑ったり、驚いたり、感想を言い合ったり、そんな時間を過ごしているうちに、あっという間に夜が更けていった。
「そろそろ寝るか」
映画が終わった頃には眠気も来ていた。昨日はミミに呼ばれて車で寝たが、今日は違う。
「テント戻るぞ」
「はーい」
「にゃー」
ミミも特に異議はないらしい。それぞれテントへ入り、寝袋へ潜り込む。
外では風が木々を揺らしていた。家族キャンプ最後の夜……楽しかったな。
そう思いながら目を閉じる……そして俺は、そのまま眠りへ落ちていった。
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