034 家族キャンプ3日目①
アクセスありがとうございます。
目が覚め、最初に視界へ入ったのは車の天井だった。そういえば、昨日はテントじゃなく、車の中で寝たんだったな。
体を少し動かすと、視界の端で何かが動いた。
「にゃー」
ミミだった。
俺と楓の間に陣取り、せっせと毛繕いをしている。楓はまだ熟睡中だ。ミミも起こさないようにしているのか、妙に静かだった。
「おはよう」
声を掛けると、ミミは一度だけこちらを見て、待っていましたと言わんばかりに立ち上がった。
「にゃ」
そのまま車の入り口へ移動して、開けてあった扉から当然のように外へ出ていった。
向かった先は母親のキャンプチェアーだ。ぴょんと飛び乗り、そのまま丸くなる。
「……もしかして待っててくれたのか?」
ミミは返事をしなかったが、タイミング的にはそうとしか思えない。ミミがいなくなると、車内には俺と楓だけが残る。
兄妹で同じ空間に寝ていても楓は気にしていないが、ミミなりに気を使ったのかもしれない。そう考えると少し面白かった。
楓を起こさないように静かに車を降り、スマホを確認すると6時を少し過ぎたところだった。
「早いな」
昨日はそれなりに夜更かししたはずなのに、頭は妙にすっきりしている。今までも、キャンプ中は寝起きが良かった。
最初は環境が変わったからだと思っていたが、ここまで続くと別の理由を考えたくなる。
「これもキャンプ設営の効果なのかな」
快適に眠れ、疲れが抜けやすい……あり得なくはない。そんなことを考えていると、両親のテントが開いた。
「おはよう」
出てきたのは母親だった。
「おはよう」
寝起きのはずなのに顔色がいい。
「よく眠れた?」
「びっくりするくらいね、疲れが残ってないのよ」
「母さんも?」
「翼も?」
やっぱり何かあるのかもしれないな。
母親はそのまま朝食の準備へ移った。ダッチオーブンを開けると、昨日の夕食で残った赤ワイン煮がまだ残っていた。
「朝はこれを使うわ」
再加熱しながらシチューのルウを投入する。さらに昨日ガルニチュールとして使った野菜も加えていく。赤ワイン煮だった鍋の中身は、少しずつブラウンシチューのような色へ変わっていった。
「美味そうだな」
「パンにつけて食べる予定よ」
しばらく煮込んだ後、母親はミミを抱き上げる。
「少し散歩してくるわね」
「行ってらっしゃい」
「にゃー」
こうして1人と1匹は出掛けていった。
残された俺は暇になる。読書でもしようかと思ったが、ふとクーラーボックスの中が気になった。
ミミ用に持ってきていた氷だ。
「意外と残ってるな」
かなり溶けると思っていたが、まだ十分残っていた。そこで少し思いつく。
鍋からシチューを少し取り分ける。スキレットへ移し、残っていたチーズを投入した。
火に掛けて混ぜ、チーズが溶け、濃厚な香りが広がった。
「これはこれで美味そうだな」
十分に混ざったところで火を止める。
今度は冷却だ。発泡スチロールに溜まった冷たい水をタッパーに移し、スキレットを置く。何度か水を交換し、最後は氷も投入して、じっくり冷やしていく。時間は掛かったが、その分しっかり固まっていった。
気付けば、8時近くになっていた。
「ただいま」
「おかえり」
母親とミミが戻ってくる。
父親も起きていた。団欒スペースでスマホを見ながらニュースを読んでいる。
「父さんも元気そうだな」
「昨日の酒が残ってない」
父親は、多少飲み過ぎていたはずなのに妙に元気だった。やっぱりキャンプ設営の影響を疑いたくなる。
しばらくすると母親が車へ向かった。
「楓、起きなさい」
数分後。
「おはよー……」
眠そうな楓が現れ、そして朝食が始まった。
俺は冷えて固まったチーズシチューをパンへ挟み、ホットサンドメーカーで焼き上げる。キャンプで何度も朝食にホットサンドを食べていたせいか、自然と作りたくなった一品だった。
「何それ?」
「シチューホットサンド」
「美味しそう!」
こんがり焼き上がったところで切り分け、一口食べる。
「うん、ありだな」
中からチーズとシチューが出てくる。カレーパンの親戚みたいな感じだった。
両親も食べたが、反応は普通だった。
「美味しいわね」
「悪くないな」
だが楓だけは違った。
「これ好き!」
かなり気に入ったらしい、結局2個目まで食べていた。
朝食後は出発準備だ。
今日の予定は観光。
昼食を食べて、道の駅で買い出しをして戻る。
本来なら買い出し中心だったが、ミミが色々見たがっているらしいので予定変更になった。
運転席には俺、助手席には楓、その膝の上にはミミが乗った。
出発すると、ミミは立ち上がり前足をダッシュボードへ乗せ、流れる景色を真剣な顔で見ている。
「そんなに楽しいか?」
「にゃー」
「楽しいらしいよ」
楓が当然のように通訳する。
いくつか名所を巡り、景色を見て、写真を撮って、少し歩く。
観光そのものは軽めだったが、ミミは満足そうだった。
昼はテイクアウトできる店で昼食を購入して、近くの公園へ移動する。
木陰のベンチで食事を広げる。
ミミも一緒だ。
「外で食べると美味しいね」
のんびり昼食を楽しんだ後、道の駅へ向かう。
母親が買い物へ行っている間、俺と父親は近くの温泉へ向かった。
「また温泉か」
「近くにあるなら入るだろ」
確かにその通りだ。温泉から戻ると今度は交代で母親と楓が温泉へ向かう。
俺はミミと散歩することにした。
最初は元気だったが、今日は色々見て回ったからか、途中から動きが鈍くなる。
「疲れたか?」
「にゃ」
結局抱っこした状態で戻ると、父親が笑った。
「過保護だな」
「疲れてるだけだ」
「俺が抱いてやろうか?」
父親が手を伸ばすが、ミミは即座に顔を背けた。
「ははは」
「何でだよ」
何度試しても駄目だった……楓がいないと嫌なのかもしれない。
そんなことをしているうちに時間は流れ、キャンプ場へ戻った頃には15時を過ぎていた。
車から降りた途端。
「お腹空いた」
「にゃー」
楓とミミがおやつを要求してくる。
「はいはい」
買っておいた食パンを取り出す。明日の朝用に多めに買ったものだ。そこへあんこを挟みこみ、ホットサンドメーカーで焼き上げる。
「やった!」
楓は嬉しそうだった。
一方のミミには猫が夢中になる例のやつを差し出すと、一瞬で食い付いた。
「現金だな」
「にゃー」
文句があるらしい。
そんな2人を見ながら、俺は苦笑した。
まだ夕食までは時間があるが、家族キャンプ最後の夜が、これから始まる。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや評価をしていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




