033 家族キャンプ2日目③
アクセスありがとうございます。
コメディー映画が終わると、キャンプシアターの中に動きが戻った。
「面白かったな」
「最後がよかったよね」
楓が満足そうに伸びをし、俺も立ち上がり、外へ出た。後から両親たちも出てきた。
夕方の空気は相変わらず涼しい。日が傾き始めているとはいえ、真夏とは思えない快適さだった。
俺がダッチオーブンの方へ向かうと、母親も一緒に移動を始める。
「仕上げをしましょうか」
炭火の熱は落ち着き、長時間煮込まれた赤ワイン煮からは濃厚な香りが漂っている。母親が蓋を開けると……
「いい感じね」
中では牛肉が赤ワインと野菜の旨味を吸い込み、濃い色へ変わっていた。
俺は隣で別の準備を始める。ガルニチュール……付け合わせ用の野菜だ。ニンジン、ジャガイモ、トマト、ブロッコリー……先に煮込んだ野菜は形を残すためではなく、ワイン煮の土台を作るためのものだ。
今から加えるのは主役を引き立てるための野菜たち、網の上へ並べ、炭火でじっくり焼いていく。直火だと焦げやすい……炭火なら火が柔らかく、野菜の甘味も引き出せる。
「そのまま食べても美味そうだな」
いつの間にか父親が近くに来ていた。片手にはハイボール……仕上げを始める前に、俺が作ったやつで、もう片手には開封済みのピリ辛おかき。
少し離れた場所では、楓とミミが遊んでいる。
「ほらほらー!」
猫じゃらしが左右に揺れると、ミミは年齢を感じさせない動きで飛びつき、前足で捕まえようとしていた。
「にゃっ!」
「惜しい!」
完全に食前運動だった。
そんな様子を見ながら調理を続ける。ニンジンに焼き色が付き始め、ジャガイモも香ばしい匂いを漂わせる。トマトは表面が少し柔らかくなり、ブロッコリーも綺麗な焼き色になった。
その頃には母親も味付けの最終段階へ入っていた。
塩を少し、胡椒を少し、味を確認する。
「うん、これでいいわ」
満足そうに頷いた。
そのタイミングで母親が周囲を見回した。
「翼のスキルの話は聞いていたけど、本当に快適に過ごせるわね。夏なのに虫に煩わされることもないし、なによりミミに暑さ対策をしなくても、問題なく過ごせているわね」
「ミミに関しては、清里だからだろ。でも、虫が寄り付かないのはマジで便利だな」
すると父親がハイボールを飲みながら言った。
「こんなに快適なら、休みを合わせてまたキャンプに来るのも悪くないな」
少し驚いた。九十八家は旅行をあまりしない、温泉は好きだし、外食も好きだ。
でも遠出して観光するより、自宅でのんびりしている方が好きな家族だった。そんな家族全員が同意するのだから、この快適さは本物なのだろう。
「っと、父さん。夕食後に温泉に行くんだから、飲み過ぎて寝ると置いてくぞ」
「大丈夫だって」
大丈夫じゃない顔で言われても説得力がなかった。
俺と母親は苦笑しながら調理を続け、そして完成する。
長時間煮込まれた牛肉は、スプーンの腹で軽く押しただけで崩れる。
「すご……」
楓が目を丸くする。
繊維がほろほろとほどけ、間違いなく成功だった。
盛り付けを終え、全員で席につく。
「いただきます」
牛肉を口に入れると、噛む必要がほとんどない。赤ワインの香りと肉の旨味が広がった。
「美味しい!」
「これは当たりね」
「酒に合うな」
父親の評価も上々だった。
ガルニチュールの野菜もいい仕事をしている。甘味が強く、濃厚なソースとよく合った。夕食は大成功だった。
そして案の定……父親が半分寝かけていた。
「温泉」
母親が一言。
「行くぞ」
父親が即座に復活した。
ミミは温泉の中には連れて行けないから、車内で待機だ。窓を少しだけ開け、アイス枕にハンドタオルを巻いて置く。
「これで大丈夫?」
楓が確認する。
「にゃー」
「十分だって」
通訳によると問題ないらしい。
車で温泉施設へ向かった。到着後、父親には意識的に水分を取らせる。
「酒飲んだ後だからな」
「分かってる」
本当に分かっているか怪しいが、一応飲んでくれた。
温泉は気持ちよかった……露天風呂もあったし、そしてサウナもあった。俺はしっかり堪能した……外気浴まで含めるとかなり満足度が高い。キャンプ中の温泉は反則級だった。
戻ると、車の中で楓とミミが待っていた。
「おかえり」
「早かったな」
「ミミちゃんが心配だったから」
その膝の上にはミミがいた。少しうんざりした顔をしていたが、尻尾はゆっくり揺れていたし、喉もゴロゴロ鳴っている。
機嫌はいいから、顔だけ不満そうなやつだ。
「少し車を空けてただけで、虫が何匹か中に入ってたよ。キャンプ場じゃ蚊帳がなくても虫入ってこなかったのにね」
外へ出ると普通に虫はいるのに、家のサイト周辺だけ快適だった。やっぱりキャンプ設営の効果なんだろうな。
キャンプ場へ戻ると、両親は再び飲み始めた。
もう放置でいいだろう……どうせそのまま寝るだろうし、俺は何をしようか考えていると、
「にゃー」
ミミが鳴いた。
「なるほど」
「何だ?」
「ミミちゃんは、旅行動画を見てみたいんだね? キャンプとか温泉とか、各地を巡ってるやつがいいのかな?」
意味が分からなかったが、本人は真剣だった。
俺と楓で動画を探し始め、見つけた動画をキャンプシアターに映し出し、全国の絶景キャンプ場などを紹介した動画……温泉地、旅番組、車中泊動画……
ミミは予想以上に真面目に見ていた。耳を動かしながら画面を見つめている。
「興味あるんだな」
「今回のキャンプで外の世界が気になったのかも」
しばらく見ていると、いつの間にか両親の声が聞こえなくなったので確認すると、案の定テントで寝ていた。
「やっぱりか」
「予想通りだね」
ミミには動画を見てもらいながら、俺と楓で2日目の片付けを進める。
一通り終わって戻ると、
「……何やってるんだ?」
ミミがタブレットを操作していた。
前足で画面をタップ……次の動画へ移動……またタップ……普通に再生……
「肉球でもタッチパネルって反応するんだな……」
変なところに感心してしまった。
その後もしばらく動画を楽しみ、満足したらしい。
「じゃあ寝るか」
俺が立ち上がり、テントへ向かおうとすると、
「待って」
楓に止められた。
「ん?」
「ミミちゃんが一緒に寝たいって」
見るとミミも当然のような顔をしていた。
俺と楓、その間にミミ……そういう配置らしい。兄と同じ空間で寝るのを嫌がる妹が多いと聞くが、楓は気にしていないようだった。
「まあ、ミミが間にいるならいいか」
「決まり!」
「にゃ!」
こうしてキャンプ2日目の夜は、更けていくのだった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや評価をしていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




