031 家族キャンプ2日目①
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目が覚めた。テントの天井越しに差し込む光は、すでに朝というより昼に近い明るさに見える。
「寝過ごしたか?」
そう思ってスマホを確認すると、表示された時刻は6時ちょうどだ。普段ならまだ寝ている時間だが、不思議と眠気は残っていなかった。
テントから出ると、ひんやりとした空気が流れ込んできた。
「やっぱり涼しいな」
真夏とは思えないな……まだ両親は起きていない。楓の方は……いつも通りだな。その代わり、先客がいた。
「にゃ~」
母親のキャンプチェアーの上で、ミミが毛繕いをしていた。
「お前は早く起きたんだな」
返事をしながらも毛繕いは続いていた。
俺はバーナーを取り出し火を付け、ケトルに水を入れ火にかける。お湯が沸くまでの間、ぼんやりと景色を眺める。
木々の間から差し込む朝日、風に揺れる葉の音、遠くから聞こえる鳥の声、家では味わえない時間だった。
「にゃ」
ミミがチェアーから降り、どこへ行くのかと思ったら、自分の水飲み皿の前で立ち止まる。 そして前足でチョイチョイと器を触った。
「水が飲みたいのか?」
「にゃー」
飲み皿を一度すすぎ、水筒から新しい水を注ぐと、ミミは満足そうに近寄り、そのままペロペロと飲み始めた。
満足したのか、再び母親のチェアーへ戻る。丸くなって落ち着く姿は、完全に自分の席だと思っているようだった。
その頃にはケトルのお湯も沸いている。ドリッパーにお湯を入れ、豆の香りが立ち始めた頃、
「おはよう」
母親がテントから出てきて、自分のチェアーへ向かった。そして当然のようにミミを抱き上げる。
「おはよう、ミミちゃん」
「にゃ~」
完全に甘えた声だった。ミミを膝の上に乗せ、そのままチェアーへ座る。
俺は自然とコーヒーを2人分淹れ、
「はい」
「ありがとう」
しばらくは何も話さず、コーヒーを飲みながら景色を眺める。
「朝ご飯、もう作り始める?」
先に口を開いたのは母親だった。
「お腹空いたから、ホットサンド作るか……寝てる2人の分は、起きてからでもすぐ作れるし、母さんはどうする?」
準備も簡単、後片付けは楽、しかも美味しいから、優秀なキャンプの朝食だ。
「キャンプの朝ってホットサンド多い気がするな、簡単だからこれからもお世話になりそうだな」
そう言いながら準備を始める。
ホットサンドメーカーを火にかけ、両面を焼いていく。こんがりと色付いた頃には食欲を刺激する香りが広がっていた。
「お、いい匂いだな」
父親がテントから出てきて、残っていたコーヒーを見つけると、タンブラーへ氷を大量に入れ、そこへコーヒーを注いだ。
「朝からアイス?」
「暑くなる前に飲むアイスコーヒーも美味いんだよ」
3人と1匹で朝食を始める。ホットサンドを頬張りながらのんびり過ごしていると、
「……おはよ」
「ようやく起きたか」
「ミミちゃんがいないから目が覚めた……」
ミミがいなくなったのは、少なくとも1時間は前なんだけどな。
楓はそのまま席へ加わり、父親のホットサンドの半分を受け取ると、一口かぶりつき「美味しい」と言って、完全に目が覚めたようだ。
ホットサンドメーカーを洗い終えた頃、
「じゃあ私、ミミちゃんと散歩してくる!」
楓が宣言し、足元にいるミミも行く気満々だった。楓がリードを持ち、森の方へ歩いていった。
父親が立ち上がった。
「何するんだ?」
「ちょっとな」
父親が、予備で持ってきていたタープを取り出し、昨日映画を見た場所の周辺で何やら作業を始めた。ロープを張り、ペグを打ち、タープを追加していく。
20分ほど経った頃。
「完成」
そこには昨日とは別物の空間が出来上がっていた。タープの周囲が覆われ、外光がかなり遮断されている。
「キャンプシアターだ」
父親が満足そうに言う。
「昼間でも大丈夫なん?」
「清里だからな。この気温なら余裕だ」
車を利用しているので、中は程よく暗く風通しも考えられていた。昼間でも十分使えそうだ。
「今日はここで映画とかドラマを見る予定、キャンプは快適性も大事だからな」
そう言うと父親はさっそく中へ入っていった。既に何を見るか決めているらしい。
母親も興味を引かれたようだ。
「私も後で行こうかしら」
「その前に夕飯の仕込みだろ」
「あ、そうね」
今日の夕食は時間がかかるから、朝から準備する予定だった。
メニューは牛肉の赤ワイン煮だ。
炭を起こし、ダッチオーブンを準備し、油を入れて熱する。そして巨大な牛肉ブロックを投入し、表面にしっかり焼き色を付けていく。
「いい色になったわね」
全面に焼き目が付いたところで一度取り出し、続いて野菜だ。
家で下処理しておいた、ごぼう、玉ねぎ、マッシュルーム、しめじ、ジャガイモ、セロリ、それらをそのまま鍋へ投入し、牛肉から出た脂とうま味を吸わせながら焼いていく。
香ばしい匂いが広がった。火が通ったところで牛肉を戻し、さらに赤ワインを野菜が浸る程度まで注ぐ。
「後は、ちょこちょこ確認しながら放置だな」
しばらくは放置だ……って、母親は早々にキャンプシアターへ行ってしまった。
残されたのは俺だけだった。
スマホでもいいけど、今日は違う! 持ってきていた文庫本を取り出す。
やっぱり紙の本はいい……ページをめくる感触も含めて好きだった。
時々ダッチオーブンを確認する。
しばらくすると、
「ただいま!」
もちろん、ミミも一緒だ、まずは足を拭いてやらないとな。ミミは大人しく受けていた。綺麗になったところで、
「にゃ~」
「クッション?」
楓が車にミミのクッションを取りに行き、ミミが前足をタシタシしている、俺たちの足元にクッションを置いた。
「ここでいいの?」
するとミミは当然のようにその上へ乗りくつろぎ始めたので、正解だったようだ。
「散歩どうだった?」
「楽しかった!」
「にゃ~」
「ミミも楽しかったって」
そこからは報告会だった。楓だけではなく、ミミまで参加している。聞いているのは俺なのに、楓とミミの会話が完全に成立していて、2人の世界になってしまっていた。
「何見てきたんだ?」
「川があったよ!」
「にゃ~」
「水が冷たかったって」
「にゃっ!」
「あとね、すごくいい匂いの場所もあったらしい」
足元ではミミも得意そうに鳴いている。そんな様子を見ながら、俺は少し笑った。キャンプ2日目の午前中は、まだまだのんびりと続いていくのだった。
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