026 思いがけぬ長丁場
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家族旅行の行き先が清里のオートキャンプ場に決まってからも、しばらく盛り上がりは続いていた。父親はスマホで周辺施設を調べ、楓はミミを抱きながら、どんな景色が見られるのかを想像している。
そんな中、父親が不意に口を開いた。
「せっかく行くならさ、3泊4日くらいしたいな」
一瞬、全員が固まった。
「3泊?」
母親が聞き返す。
「どうせ夏休みだしな。1泊や2泊だと慌ただしいだろ」
少し考える……せっかく清里まで行くのだから、ゆっくり過ごせるならその方がいい。この前の四尾連湖は、1泊でバタバタしてたからな。
「私は賛成!」
楓が真っ先に手を上げた。
「にゃー」
「ミミちゃんも賛成だって」
ただ、問題が一つあった。
「俺、バイトの調整が必要だな」
今のシフトのままだと、2日ほど入っている日があるので、交換してもらう必要がありそうだった。
「確認してみるか」
ピークの時間はもう少し後、今なら店長の手も空いているだろう。俺はスマホを取り出して電話を掛けた。
『おう、九十八か』
「お疲れ様です」
『どうした?』
事情を説明する。来週、家族旅行で3泊4日になりそうなこと。その関係でシフトの調整が必要なこと。2日ほど交換してもらいたいこと。
少し沈黙があった。
『あー、その件なら問題ないぞ』
「え?」
思ったより返事が早かった。
『先週から色々助けてもらったしな』
熱を出していたスタッフの穴埋め、開店準備。人手不足の日の応援をしていたこともあり、思いのほかすんなりいけたか?
店長は笑いながら続ける。
『行ってこい。予約も入ってないし、熱出してた奴も元気になった』
「復帰したんですか?」
『今日から普通に働いてる』
どうやら問題ないらしい。
『お前が入ってる場所と交換しとくから心配するな』
「ありがとうございます」
『家族旅行楽しんでこい』
電話が終わる。想像していたよりずっと簡単に話がまとまった。
「どうだった?」
「大丈夫だった」
「おお」
「交換してもらえるって」
「よかったじゃない」
これで俺の問題は解決である……だけど、ふと思った。
「母さんの仕事は?」
母親が笑った。
「お父さんと休み合わせてあるわよ」
「早いな」
「休みを合わせたのは、私だもの」
なるほど、どうやら俺たちが知らないうちに、両親は休みを合わせていたらしい。予定らしい予定もなかったから、父親が3泊4日のキャンプを提案をしたのか。
自然と話題はキャンプ中の食事へ移っていく。
「3泊4日だと食材どうする?」
「野菜なら何とかなるけど、肉と魚は厳しいな」
真夏なので、クーラーボックスがあっても限界はある。
「途中で買い出しだな」
「その方が安心ね」
まずは初日の献立から決める。
「キャンプと言えばカレー!」
「まあ定番ではある」
異論は出なかった。なんで定番かまでは知らないが、キャンプにカレーというイメージが何故かある。
初日はカレーに決定したが、母親が考え込む。
「2日目はどうしようかしら」
「時間かかる料理でもやる?」
「あ、それ楽しそうね」
母親が乗ってきた。
「ダッチオーブン使う?」
「献立は、明日考えましょう」
詳細は後日決めることになった。
「3日目は、買い出しの日だな。現地で見つけた食材を使って、適当に作るか」
その場で見つけた食材……地元の肉、地元の野菜、何が売っているか分からないので、献立は決まらないが何をするかは決まった。
これも旅行の楽しみだろう。
「3日目はそれで決まりね」
こうして献立も大まかに決定したあたりで、
「にゃー」
「どうした?」
ミミは真っ直ぐ楓を見ていた。楓が数秒ほど聞き役になる。
「なるほど」
「何だ?」
「高級猫缶」
全員が笑うが、ミミは真面目だった。
「にゃー」
「絶対忘れないって」
「食への執念が凄いな」
若返って食欲も増しているのか? むしろ元気になった今の方が、食べ物への執着が強い気がした。
「分かった分かった」
父親が苦笑する。
「高級猫缶も買おう」
「にゃー!」
すると今度は楓がミミを抱き上げた。
「ミミちゃん!」
「にゃ?」
「キャンプだよ!」
「にゃー」
「3泊4日だよ!」
「にゃー」
「森だよ!」
「にゃー」
だが楓は止まらない。
「ご飯作るんだよ!」
「にゃー」
「星も見るんだよ!」
「にゃー」
「いっぱい遊ぶんだよ!」
「にゃー」
途中から言葉になっていなかった。
「ふふふふふ」
「へへへへへ」
謎の笑い声まで出ている。ミミの方は、途中から少し呆れたような顔をしていた。
「完全にテンション上がってるな」
「昔からこうよね」
母親が笑う。
「楽しみなことがあると、止まらないのは変わらないみたいね」
結局その夜は、キャンプの話でかなり盛り上った。持っていく物、現地でやりたいこと、温泉、散歩コース……話題は尽きない。
そして数日後、週末になった。来週のキャンプへ向けた準備の日である。
朝食を終えたところで父親が言った。
「今日は、買い物行くぞ」
「おお~」
楓が元気よく立ち上がる。
「食材以外にも必要な物あるだろ」
「ミミ用品もだな」
「高級猫缶!」
楓が即答した。
「そこは忘れないんだな」
ミミも満足そうに尻尾を揺らしている。どうやら本人……本猫にとっても重要事項らしい。
こうして我が家は、来週のキャンプへ向けて本格的な準備を始めることになったのだった。
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