025 家族でのキャンプ先が決定
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母親は時計を見ながら立ち上がった。
「それじゃあ、行ってくるわね」
「いってらっしゃい」
「気を付けてね」
楓と俺が見送る中、母親は仕事へ向い、玄関のドアが閉まる音がして、家の中が少し静かになる。
「で、キャンプだけどさ」
俺が切り出すと、楓の目が輝いた。
「うん!」
さっきまでの話の続きをするつもりだった。猫連れキャンプに必要な物、暑さ対策、ミミ用のスペースなど、色々考えることはある。
「リードには慣らしておいた方がいいかもな」
「確かに」
そう言ったところで、楓のスマホが鳴った。
「あれ? えっ!?」
スマホの画面を見ると、楓が飛び上がる。
「やばい!」
「何がだよ」
慌ててメッセージを確認して、数秒後には立ち上がっていた。
「イベントのバイト!」
意味が分からない。
「売り子をする約束してたけど、集合時間が変更になったって!」
「急だな」
楓はすでに部屋へ向かって走り出していた。
「準備してくる!」
数分後、着替えを終えた楓が階段を駆け下りてくる。
「行ってくる!」
「何売るんだ?」
「知らない!」
「知らないのかよ」
「会場で説明するって!」
元気だけは十分あるが、何を売るのか分からないのによくやるな。
「気を付けろよ」
「はーい!」
そう言って家を飛び出していった。嵐みたいだったな……通り過ぎた家の中は、静かになった。リビングに残されたのは、俺とミミだけである。
「……行ったな」
「にゃー」
俺はソファへ座り、向かいに座るミミを見る。
「さて」
「にゃ?」
「お前、こっちの話は理解してるんだよな」
ミミは尻尾を揺らした。楓みたいに会話はできないが、理解しているなら方法はある。
「はいか、いいえで答えられる質問なら何とかなるだろ」
ミミがこちらを見る。
「キャンプ行きたいか?」
「にゃー」
やっぱり言葉を理解しているし、行きたいんだな……返事がいつもより早い。
「暑いのは嫌か?」
「にゃー」
やはり、猫だって暑いのは嫌だろう。
「だから涼しい場所を探すか」
ミミは満足そうだ。さらに質問する。
「ご飯はどうする?」
するとミミがじっと見てきた。
「いつもの猫缶でいいか?」
沈黙。そして。
「にゃ」
なんだろう……今のは、明らかに不満そうだった。
「高級猫缶がいいのか?」
「にゃー!」
元気な返事だった。
「分かりやすいな」
思わず笑う。せっかくの家族旅行だ、ミミも贅沢したいらしい。
「まあ、そのくらいはいいか」
最近は、カリカリもよく食べている。楓が帰ってくる前は年寄りということもあり、猫缶中心だったが、今は食欲もあるしカリカリもたくさん食べる。
だが高級猫缶は別腹らしい。
「父さんにも相談しないとな」
「にゃー」
しばらくするとミミは立ち上がり、そのまま軽やかにキャットタワーを登っていく。途中で止まらず、若い頃みたいな動きで、一番上へ到着すると、窓の外を眺めながらくつろぎ始める。
「本当に元気になったな」
気持ちよさそうだ。
今日はバイトがないから、スマホを取り出して、色々調べることにした。父親が帰ってきたらすぐ話せるように、キャンプ場候補をいくつかピックアップしておこう。
富士五湖周辺を調べるが、四尾連湖に比べると少し暑いらしい。避暑地としては有名だが、最近は8月ともなると暑さが抜けきらないらしい。
ならば、清里周辺はどうだ?
「富士五湖も悪くないんだけど、ミミのことを考えると少し心配になる……どのくらい涼しくなるのか、暑いままなのか……」
さらに調べる。
「清里の方が標高って高いんだな。湖がないけど、標高が高い分涼しいみたいだな。ミミにとっては悪くないかもしれないな」
メモを取りながら比較していく……気付けば昼になっていた。
「腹減ったな」
料理をするのは面倒だな、冷蔵庫を開くと野菜がちょっとあった。袋ラーメンがある。
「これでいいか」
麺を茹でている間にレンジで野菜を温める、少し長めに茹でた麺を冷水で締める。簡単な冷やしラーメンだ。一番の袋麺のスープは、冷水に溶かしてもダマにならないのが特徴だ。
皿へ盛り付けて食べる。
「美味いな」
俺の横でミミも昼食である。食事を終えると満足そうに水を飲んでいた。
「ん?」
何かを咥えている? ミミは、猫じゃらしを俺の足元へ置く。
「遊べと?」
無言の圧を感じる要求だった。
「元気だな」
仕方ない……猫じゃらしを振ると、ミミが飛び付く。
さらに振る、追いかける、跳ぶ、捕まえる、逃がす……そんなことを30分ほど続けた。
「はぁ……」
先に疲れたのは、俺だった……そんな様子を見たミミは満足したらしく、窓際の定位置へ戻る。
「獣医のいうように、本当に若返ってるだろ……」
そうとしか思えない。
やることも無くなったので自室へ戻り、棚に積んであった古いゲームを引っ張り出す。
懐かしいタイトルだった。結局クリアをせずに放置してしまったゲームだけど、久しぶりに遊ぶと意外と面白かった。気付けば時間はあっという間に過ぎていた。
階下から物音が聞こえる。母親が帰ってきたらしい。
「ただいまー」
「おかえり」
さらに夕方、玄関が開く音がする。
「ただいまー!」
楓だ。かなり疲れているが、妙に楽しそうだ。
「どうだった」
「売り子!」
「それは聞いた」
「いっぱい売れた!」
よく分からないが、いっぱい何かを売ったらしい。何を売ったか知りたかったけど、面倒になったのでもういいかな。
そして夕食の準備が進み、料理が完成する頃には父親も帰宅して、家族全員が揃う。夕食を食べながら、それぞれ今日の話をした。
そして食後、俺はまとめておいた資料をテーブルへ置く。
「キャンプ場候補な」
父親が身を乗り出す。
「富士五湖周辺と清里周辺か」
「どっちも良さそう!」
楓も興味津々だった。そこから検討会が始まる。
景色、施設、アクセス、周辺にある温泉……色々比較していく。
「やっぱり、清里の方が涼しいのね」
母親が言う。
「標高が高いからな」
「ミミちゃんには良さそう」
その時だった。
「にゃー」
ミミが鳴き、全員の視線が集まった。
「ミミちゃんも賛成だって」
「本当か?」
「たぶん!」
いつものことで、父親も笑う。
「じゃあ決まりだな」
「やったー!」
楓が両手を上げ、ミミも満足そうに尻尾を揺らしていた。
こうして我が家の家族旅行は、真夏の清里のオートキャンプ場に決定した。
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