024 まさかの事実、想定外の展開
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階下から母親の声が聞こえてきた。
「朝ご飯できてるわよー!」
その声で目が覚めた。薄く目を開き、天井を見る……身体が重いわけではないし、疲労感も少ないが、妙に眠かった。
スマホを見ると、普段ならとっくに起きている時間だった。
「寝過ぎたか」
昨日、一昨日と、いつもより長い時間のバイトだったので、さすがに気付いていない疲れでもあったのかな?
昨日一緒に寝ていたミミは、枕元からいなくなっていたので、ミミ用のネコ通路から出ていったのだろう。
ベッドから起き上がり、欠伸をしながら階段を下り、顔を洗い歯を磨く。
「仕事行ってくる」
父親の声が聞こえたので、行ってらっしゃいと声をかけた。
リビングへ入ると、食卓には朝食が並んでいた。
「おはよう」
「おはよう。珍しく寝坊ね」
「ちょっと疲れてたのかも」
「あれだけ働いてればね」
母親が苦笑する。
席へ座ると、コーンスープの香りが鼻をくすぐった。
今日の朝食は、食パンにベーコン、スクランブルエッグ、ボウルに盛られたサラダ、昨日と打って変わり洋食と言っていいか? キャンプで食べた朝食とメニューは近いが、全く違う味わいだ。
いただきますと言って箸を伸ばしたところで、2階から慌ただしい足音が聞こえてきた。
「おはよ!」
楓だった。髪を少し跳ねさせたまま、階段を下りてきたようだ。
「お前も寝坊か」
楓が朝弱いのはいつものことなので、確認する必要はなかったな。
そのまま席へ着き、食事を始める。
他愛のない話をしながら、食事を食べ終えるが、まだ朝食が半分以上残っている楓が残された。
俺は自分の食器と一緒に母親の食器も運んで、そのまま洗い始めた。皿を洗い、すすぎ、乾燥棚へ並べる。父親の分も置いてあったので、一緒に洗ってしまう。
「えっ」
楓が固まった。
「私のは?」
「まだ食べてるだろ」
「そんなぁ……」
当然、楓は自分の食器を自分で洗うことになった。
「ぶつぶつ……」
「聞こえてるぞ」
「お兄ちゃんが冷たい……」
文句を言いながら皿を洗っている足元には、ミミがいた。まるで応援しているように楓の周りを歩いている。
洗い終わる頃には、楓の機嫌も戻っていた。
「よし」
そう言うと、ミミを抱き上げてソファへ座った。
「ミミちゃん」
「にゃー」
「へぇ」
「にゃー」
「そうなんだ」
会話が成立していた。いや、正確には会話しているように見える。楓は自称ネコ語使いではない。鳴き声を翻訳しているわけでもない。本当に相手の気持ちを理解しているようだ。ミミも普通に返事をしているしな。
しばらく話していたと思ったら、突然楓が吹き出した。
「あははははっ!」
「何だよ」
「ふふっ」
まだ笑っている。しかし次の瞬間、今度は驚いた顔になった。そして俺を見る。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「ミミちゃんを連れてキャンプ行くって本当?」
一瞬固まった。
「……は?」
「本当に言ったんだ」
楓の目がきらきらしている。
ミミを見る。当たり前のような顔をしていた。昨日の話をしたらしい。
「お前、そんなことまで伝えられるのか」
「にゃー」
「ミミちゃん、行きたいって!」
完全に乗り気で、母親も興味深そうにこちらを見る。
「猫ってキャンプ大丈夫なの?」
「場所によるかな」
「どういうこと?」
「暑過ぎる場所は厳しいと思う」
真夏だ。人間でも熱中症に気を付ける必要がある。猫ならなおさらである。
「だから行くなら富士五湖みたいに、標高が高くて涼しい所かな」
「なるほど」
さらに考える。
「クーラーボックスはあるけど、足りないから発泡スチロールの箱をもらって、一緒に氷を大量に入れておけば2~3日は、緊急時にミミを冷やすのに使えるだろう。念のために瞬間冷却パックも買っていけば、車を冷やす間の繋ぎになるだろうしな」
「箱?」
「バイト先でもらえる。袋とかシートを使っているから、魚の匂いもしないキレイなのがいつもある。仕事終わりなら店長に氷も大量にもらえると思う」
「おお」
楓の目が輝いた。
「発泡スチロールに氷と保冷材を詰めておけば、ミミの暑さ対策になるんじゃないかな」
「ミミちゃんハウス!」
「いや、さすがに氷の中に入れるのは、動物虐待だぞ」
それでも、緊急時の対応には使えるはず。氷が解けても、保冷材は冷たいだろうし大丈夫だろう。
「ちゃんと袋に入れておけば、溶けた水も飲用に使えるしな」
「確かに便利ね」
母親も感心したようだった。
楓はすでに行く気満々である。
「リード付ければ大丈夫かな?」
「ミミが嫌がらなければな」
「にゃー」
「嫌じゃないって」
「便利過ぎるだろ、そのスキル」
思わず呟く……すると楓が急にニヤニヤし始めた。
「そういえばさ」
「何だよ」
「お兄ちゃん」
嫌な予感がした。
「ミミちゃんと話そうとして失敗したんでしょ?」
「……」
沈黙した。母親が吹き出す。
「ふふっ」
「お母さんまで」
「だって想像できるもの」
ミミを見ると、どこか得意げだった。
「お前、余計なこと言うなよ」
「にゃー」
「反省してないって」
「翻訳しなくていい」
完全に遊ばれている……話題を変えるため、俺は咳払いした。
「それでキャンプだけど」
「あっ」
楓の意識が一瞬で戻る。
「行くなら準備ちゃんとしないとな」
その時、母親が何か思い付いたように言う。
「だったら久しぶりに家族で行く?」
「家族で?」
「そう」
母親が笑う。
「せっかくだし」
確かに最後に家族全員で出掛けたのはかなり前だ。
楓が飛び上がり、
「行こう!」
その勢いのまま父親へ電話を掛ける。数分後……
「来週夏休みだって! その間ならいつでも大丈夫だって!」
とのことだ。まさかの即許可である。
「決まりね」
ミミ一匹を連れて行く話だったはずなのに、気付けば家族旅行みたいになっている。
「やったー!」
楓だけが1人で盛り上がっていて、その足元ではミミが尻尾を揺らしている。どうやらミミも満更ではないらしい。
「ミミ……俺の言葉というか、楓以外の言葉も理解してるんだな……」
俺の言葉を聞いて、何故か得意げな顔をしていた。
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