021 衝撃の事実
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「まだ何ができるか良く分かってないけど、なんとなくミミちゃんの気持ちが分かって、私の言葉もしっかりと理解してくれるみたい。今のところ、ミミちゃんが強くなったみたいな事はないけど、気持ちが通じるのはうれしい!
後、お父さんは構い過ぎるから嫌なんだって」
父親が固まった。
「……え?」
その表情は、割と本気でショックを受けている顔だった。
ミミは役目を終えたように父親の膝から降りると、のそのそと歩き、今度は楓の膝へ飛び乗る。丸くなりながら、満足そうに喉を鳴らした。
「だって、俺、頑張って世話してるぞ?」
「構いすぎなんだろ」
「そんなにか?」
自覚が無いらしい。母親は苦笑しながら鍋へ肉を追加していた。
「寝てる時に話しかけたり、抱っこしようとしたり、あの子嫌がってたじゃない」
「コミュニケーションだろ」
「ミミにはミミの距離感があるんだって」
父親がじわじわダメージを受けている。そのやり取りを聞きながら、俺はミミの様子を見ていた。
気のせいかもしれないが、以前より元気がある気がする。年寄り猫特有のゆっくりした動きはある。だが、どこか反応が軽い。耳もちゃんと動いている。楓が帰ってきてから、ずっと機嫌も良さそうだった。
「……なあ」
「ん?」
楓が顔を上げる。
「気のせいかもしれないけど、楓が帰ってきてからミミが気持ち元気になったか?」
一瞬、食卓が静かになる。母親が先に頷いた。
「実は、私も少し思ってた」
「え、ほんと?」
「最近は寝てる時間の方が長かったのに、今日は結構歩いてるのよね」
父親もミミを見る。
「……言われてみれば、元気だな」
ミミはそんな話など関係ないように、楓の膝の上でしっぽをゆっくり揺らしていた。ただ、嬉しいだけで終わらないのが家族だった。
母親が少し真面目な顔になる。
「元気なのはいいことだけど、急に変わるのも気になるわね。確か、猫とかって亡くなる前に元気になることがある……みたいな話なかったかしら?」
楓は、表情を硬くして、
「病院連れてく!」
父親も頷く。
「念のため看てもらおう」
楓は少し不安そうにミミを抱きしめた。
「悪い病気じゃないよね……?」
でも、スキルが関わっている可能性がある以上、良い変化の可能性もある。食事を終える頃には、明日病院へ連れて行く流れになっていた。片付けを始めようとすると、父親が立ち上がる。
「今日は俺もやるか」
「じゃあ、お父さん洗って。私が拭く」
「了解」
そんなやり取りを背中に聞きながら、俺は先に部屋へ戻った。ベッドへ座り、なんとなく今日のことを整理する。
キャンプ設営……トレーナー……どっちも意味不明スキルだと思っていた。でも、実際に効果がある気がすると、思っていたより特殊みたいだな。特に楓のスキル。単純な調教系ではない気がする。
そんなことを考えていると、部屋のドアが軽くノックされた。
「入るよ~」
楓だった。腕の中にはミミがいる。
「ちょっと話があった」
楓はそのまま部屋へ入り、床へ座った。ミミは自然な動きで楓の膝へ収まる。完全に定位置みたいになっていた。
「さっきさ、スマホで色々調べてたんだけど」
「トレーナーか?」
「うん」
楓は少し考えながら言葉を選んでいる。
「なんかね、直感だけど……トレーナーって、能力を強化するような物じゃなくて、一緒に何かをするって感じみたい」
「一緒に?」
「うん」
ミミを撫でながら続ける。
「似たようなスキルで、テイマーのことを調べてみたけど、強引に従わせる必要があるようで、自分のスキルとは全く違うみたいなの。なんとなく、パートナーみたいな感じがする」
「パートナーか……」
確かに、その方がしっくりくる。命令して支配する感じではない。さっきのミミも、嫌々動いている様子は全く無かった。むしろ、自分から楓へ合わせているように見えた。
「それなら、ミミが懐いてるのも分かるな」
「そうかな?」
「楓、昔から動物に好かれてただろ」
「それはあるかも」
本人にも自覚はあるらしい。公園の猫とか、妙に寄ってきていた記憶がある。楓はミミの耳を軽く撫でながら、小さく笑った。
「なんか、不思議なんだよね。言葉っていうより、感覚が分かる感じ」
「便利そうだな」
「でも、まだ全然分かんない」
「俺も同じだ」
スキルなんて、結局は手探りだ。ネットでも検証動画や掲示板は山ほどあるが、本当に正解かなんて誰も分かっていない。しばらく話したあと、話題は自然と明日の病院のことになった。
「で、明日どうする?」
「お父さん仕事だし、お母さんも昼までだって」
「じゃあ、俺が連れてくか」
どうせ昼間は暇だしな。楓は安心したように笑う。
「ありがと」
ミミはそのまま楓の膝の上で目を細めていた。
翌日。
昼前の動物病院は、それなりに混んでいた。待合室には犬や猫を連れた人が何人もいる。ミミはキャリーケースの中で大人しくしていた。
「珍しく静かだな」
「たぶん眠い」
楓は少し緊張していた。呼ばれるまでの時間、ずっとキャリー越しにミミへ話しかけていた。
そして順番が来る。診察室へ入ると、獣医はカルテを確認しながらミミを診察台へ乗せた。
「ミミちゃん、久しぶりですねー」
年配の獣医だった。昔から世話になっている。聴診器を当て、目を見て、口の中を確認し、身体を触っていく。だが、途中から獣医の表情が少しずつ変わっていった。
「……んん?」
「先生?」
楓が不安そうに声を出す。獣医はカルテとミミを何度も見比べていた。
「えっと……」
妙に言いづらそうな顔をしている。
「大変言いにくいのですが、ミミちゃん……体が若返っていますね。確か、12歳くらいだったはずですが、6~7歳くらいの体になっています」
一瞬、意味が理解できなかった。
「……は?」
俺の声が漏れる。楓も固まっていた。
獣医は困惑したまま続ける。
「普通ならありえませんが、筋肉量も、内臓の状態も、以前より明らかに若いんです」
楓の目がゆっくり見開かれる。
「……ミミちゃん」
その声が震えていた。次の瞬間、楓の目から涙がぽろっと零れ落ちる。
「よかったぁ……!」
ミミを抱きしめながら、楓は子どもみたいに泣き始めた。ミミは嫌がる様子もなく、楓の腕の中で静かに喉を鳴らしていた。獣医の表情から、最悪の結果を考えてしまったのだろう、その反動で泣いてしまったようだ。
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