017 キャンプ with 楓①
アクセスありがとうございます。
夜がまだ完全に抜けきらない時間に、家の中がわずかに動き始めていた。
「……よし、起きるぞ」
俺は、リビングの電気を最小限だけつけて、キッチンで水を一口飲む。時計はまだ4時前で空は暗いが、東の方はうっすらと色が変わり始めていた。
今日の出発は早い。四尾連湖は距離もあるし、荷運びの工程もある。明るいうちに設営まで終わらせるなら、これくらいがちょうどいい。
「楓、起きろ」
楓の部屋のドアをノックする。
「……むり」
返事が返ってきた。
「むりじゃない」
「まだ夜」
「夜じゃない」
もう一度ノックする。返事はない。ため息をついて、少し強めに声をかける。
「置いてくぞ」
「それはやだ」
布団が少し動いた気配はあるが、出てくる気配はない。そのやり取りを見ていた父親が、後ろから笑いながら出てきた。
「お前ら、昔から変わらんな」
「父さん、起きてたのか」
「まぁな。どうせ楓は起きないだろうから、準備は代わりに手伝うぞ」
何故か楽しそうな顔だった。父親に手伝ってもらい、荷物を積み込み終わると、そのまま楓の部屋の前に行き、軽く扉を開ける。
「楓、出発だぞ」
その声にようやく布団が大きく動き、楓がもぞもぞと出てきた。
「眠い……」
「知ってる」
俺は呆れながらキッチンへ戻る。母親はすでに朝食を準備を終えていて、味噌汁の匂いが部屋に広がっている。
「朝ごはん、食べちゃいなさい」
「助かる」
テーブルには軽めの朝食が並んでいた。ご飯と味噌汁、焼き魚と漬物。キャンプ前の食事としてはちょうどいい。その間に父親は、外へ出て荷物の最終チェックと、車の準備を進めてくれている。
しばらくして、楓がようやくリビングに現れた。髪は適当で、目は半分閉じていた。
「おはよ……」
「遅い」
「まだ5時じゃん」
「もう5時だ」
楓は椅子に座ると、味噌汁を一口飲んでようやく目が覚めたのか、いつも通りの顔に戻る。
「うま」
食事を終え車に向かうと、父親が荷室のバックドアを開け待っていた。
「どんだけ持っていく気だ」
「お父さん、これが楓基準の必要最低限」
「最低限の基準が違う」
父親は、楓に注意をしているが、関係ないような顔をしているな。
「はいはい」
母親は玄関から見守りながら、軽く声をかける。
「気をつけてね」
「大丈夫だって」
楓は片手を振る。
出発する頃には、すでに明るくなっていた。
最後に、両親へ目的地を伝える。
「四尾連湖のキャンプ場に行ってくる」
父親が軽く頷く。
「いい場所だな。気をつけて行けよ」
「うん」
母親も小さく手を振る。
「楓、ちゃんと手伝うのよ」
「はーい」
適当な返事だった。車に乗り込むと、楓は助手席に座った瞬間、そのまま枕を抱えて寝た。
「おい」
「……ん~」
完全に意識が戻っていない。
「まあいいか」
俺はエンジンをかけて車を発進させる。まだ朝の街は静かで、道路も空いていた。しばらく走ると、楓は少しだけ目を開ける。
「どこまで?」
「道の駅に寄る」
またすぐ寝た。
道中、山の方へ向かうにつれて景色が変わっていく。ビルが減り、代わりに緑が増えていく。
途中の道の駅で休憩を取ると、楓はようやく完全に目を覚ました。
「ここ好き」
「何もしてないだろ」
「空気がいい」
適当な感想を言いながら、ソフトクリームを買っている。再び車に乗り、山道へ入る。
家から約三時間、目的地の四尾連湖は、思っていた以上に静かな場所だった。湖の入口で車を止め、管理棟にいる係員にチェックインの手続きをしてもらい、案内のパンフレットをもらう。
「あそこからは、車入れません。荷物はリアカーでお願いします」
リアカーを借りて荷物を積み替える。
湖畔サイトまでは少し距離がある。リアカーは思ったより軽く、道は整備されているから、簡単に進んでいける目的地に到着すると、楓は荷物を次々と降ろしている。意外と真面目に働いてくれた。
静かで、風だけが通る場所だった。
「……いいな」
思わず声が出た。
「じゃあ設営するぞ」
「はい先生」
「誰が先生だ」
テント設営は、俺の指導で進める。楓は最初こそ雑だったが、昔のことを思い出したのか、指導しなくても丁寧に作業を進めていく。
「そこは、もう少し引け」
「こう?」
「そう」
少しずつ形ができていく。昼前には、テントとタープを張り終えた。タープは2枚張っていて、1枚は屋根用でもう1枚は、夜に映画を見るためのスクリーンにするやつだ。
「腹減ったな」
「ね」
昼食の準備に入る。母親にお願いして作ってもらった、おにぎりを取り出す。ごま油を多く使った、わかめの混ぜご飯と、塩こぶの混ぜご飯で作った2種類のおにぎりが3個ずつ。楓が2個で俺が4個かな?
それを軽く焼き網で炙ると、香ばしい匂いが広がった。
「焼きおにぎりってだけで反則だな」
「これ絶対うまいやつ」
もう一品は豚汁。コッヘルにゴマ油をたらし、豚バラ肉を軽く炒めてから、根菜のレトルトパックをコッヘルにいれ温め、味噌を梳かして完成。
「「いただきます」」
湖の涼しい風を感じながら食べる。焼きおにぎりの香ばしさと豚汁の温かさが、妙に合っていた。
楓を見ると、頬を膨らませながら食べている。
「毎回、これでいい」
「色々食べたいだろ?」
昼食を終えると、少しだけ休憩を取った。
「散歩するか」
「行く」
湖の近くまで足を運ぶ。水面は静かで、空をそのまま映していた。風が吹くたびに小さく波が揺れる。手を伸ばして水に触れると
「冷たい」
「そりゃそうだ」
「気持ちいい」
俺は隣に座り、しばらく何も言わずに湖を見た。静かすぎるほどの場所だった。
時間が流れていく感覚だけが、そこにあった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや評価をしていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




