表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

015 後片付けと次の予定

アクセスありがとうございます。

 昼食というには遅すぎる食事が終わった頃には、14時半を回っていた。


「ふー……食べた食べた」


 楓は満足そうにソファへ体を預けると、スマホを片手にだらっと横になる。さっきまでの勢いはどこへやら、完全に動く気配がない。


「おい、片付けは?」


「えー」


「えーじゃない」


 俺が言うと、楓はわざとらしく大きなため息をついた。


「はいはい、やりますよー」


 そう言いながらも、意外と素直に立ち上がる。こういうところだけは昔から変わらない。隙を見せると全部俺にやらせようとするが、やると決めたら動くのは早い。


 キッチンから水音が聞こえ始めるのを確認してから、俺は外へ出た。庭と言っても大層なものじゃない。家の裏にある、ちょっとしたスペースだ。そこにキャンプ道具を広げる。


「まずは……テントの乾燥だな」


 河原の湿気が残っている可能性がある。ポールを外し、布を広げて風を通す。ついでにペグも一本ずつ確認する。泥を落とし、曲がりがないかを見る。


 タープも同じように広げて、陰干しにする。川沿いのキャンプや軽井沢のような自然の中は気持ちいいが、その分こういう後処理が面倒だったりする。


「……まあ、これも含めてか」


 ふと視線を上げると、庭の向こうの方で扉が開く音がした。


「お兄ちゃん、外いた」


 楓がキッチンから出てきて、そのまま庭へ降りてくる。手には何も持っていない。片付けは終わったらしい。


「洗い物は?」


「終わりー。ちゃんとやったでしょ」


「信用してないわけじゃないけどな」


「信用してよ」


 そう言いながら、楓は適当な椅子に腰を下ろした。庭に出てきた理由は特にないらしい。ただ、なんとなく俺のいる場所を探して外に出たら、いたということらしい。


 俺はタープを裏返しながら、軽く返事をする。


「で、留学どうだったんだよ」


「いきなりそれ?」


「今聞くしかないだろ」


 楓は少しだけ考えてから、空を見上げた。


「うーん……忙しかった。ほんとそれ」


「雑すぎるだろ」


「いやほんとに。語学とかより生活が大変」


「向こうの飯とか?」


「まず水が違う。あと普通に日差しが殺しにくる」


「それは前も言ってたな」


 楓は笑いながら肩をすくめる。


 そんな他愛もない会話をしながら、俺は道具の手入れを続ける。ガスランタンのガラス部分を拭き、バーナーの汚れを落とし、ファスナーの動きを確認する。


 沈黙があっても気まずくならないのは、昔から変わらない距離感だ。



「でさ」


 楓がふと声を上げた。


「次のキャンプ、いつにするの?」


「もう決める気かよ」


「当たり前でしょ。私の予定合わせるんだから」


「勝手に主導権取るな」


 呆れながらも、俺はスマホを取り出す。


「一応、候補日はある」


 シフトと空き日を確認しながら、いくつかの日付を並べる。楓はそれを覗き込みながら、適当なことを言い始めた。


「えー、ここは無理。ここも微妙。ここは暑そう」


「全部感覚じゃねえか」


「女の勘」


「便利な言葉だなそれ」


 結局、俺が候補を整理する形になる。


「じゃあ、この週とこの週」


「どっちもあり」


「どっちもありじゃ決まらないだろ」


「じゃあ決めて」


「丸投げかよ」


 しばらくやり取りを繰り返したあと、楓はようやく少しだけ真面目な顔になる。


「……じゃあ、海はやめよ」


「暑いからな」


「山も前行ったし」


「じゃあ湖か川かだな」


「川は前行ったじゃん」


「なら湖畔か」


 俺がそう言うと、楓は一瞬だけ黙った。


「湖ってさ、なんか静かすぎて怖くない?」


「怖いってなんだよ」


「夜とかさ、音ないじゃん」


「キャンプ場だし人いるだろ」


「でもさー」


 不満そうに唸る楓を見ながら、俺は候補を1つに絞る。


「じゃあ湖畔キャンプ場。ここでいいだろ」


 スマホの画面を見せると、楓は渋い顔をした。


「うーん……まあいいけど」


「嫌そうだな」


「嫌じゃないけど、ちょっと静かすぎる」


「そこがいいんだろ」


「そういうこと言う」


 結局、しばらく押し問答のあと、楓は小さくため息をついた。


「……分かった。そこでいい」


「決まりな」


「条件ある」


「なんだよ」


「夜はBBQね」


「最初からそのつもりだったな?」


 楓はニヤリと笑い、こっちを見ている。


「はいはい」


 俺が呆れ気味に返すと、楓は満足そうに頷いた。


「じゃあ決定ね」


 その瞬間、庭の空気が少しだけ軽くなる。


 道具の手入れはほとんど終わっていた。俺は最後にタープを畳みながら、ふと空を見上げる。雲がゆっくり流れている。


 来週末……10日後か……


「……また行くのか」


「またって言うほどじゃないでしょ」


 楓の声に、少しだけ笑いが混じる。


 月一だったから、スパンが短く感じただけで確かにそうかもしれない。


 次のキャンプは少しだけ違う気がした。


 1人じゃないというだけで、何かが変わる訳がないのに、漠然とそんな気がした。


「じゃあ準備しとけよ」


「お兄ちゃんもね」


 軽く言い合いながら、午後の時間はゆっくり流れていった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

ブクマや評価をしていただけると幸いです。

これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ