015 後片付けと次の予定
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昼食というには遅すぎる食事が終わった頃には、14時半を回っていた。
「ふー……食べた食べた」
楓は満足そうにソファへ体を預けると、スマホを片手にだらっと横になる。さっきまでの勢いはどこへやら、完全に動く気配がない。
「おい、片付けは?」
「えー」
「えーじゃない」
俺が言うと、楓はわざとらしく大きなため息をついた。
「はいはい、やりますよー」
そう言いながらも、意外と素直に立ち上がる。こういうところだけは昔から変わらない。隙を見せると全部俺にやらせようとするが、やると決めたら動くのは早い。
キッチンから水音が聞こえ始めるのを確認してから、俺は外へ出た。庭と言っても大層なものじゃない。家の裏にある、ちょっとしたスペースだ。そこにキャンプ道具を広げる。
「まずは……テントの乾燥だな」
河原の湿気が残っている可能性がある。ポールを外し、布を広げて風を通す。ついでにペグも一本ずつ確認する。泥を落とし、曲がりがないかを見る。
タープも同じように広げて、陰干しにする。川沿いのキャンプや軽井沢のような自然の中は気持ちいいが、その分こういう後処理が面倒だったりする。
「……まあ、これも含めてか」
ふと視線を上げると、庭の向こうの方で扉が開く音がした。
「お兄ちゃん、外いた」
楓がキッチンから出てきて、そのまま庭へ降りてくる。手には何も持っていない。片付けは終わったらしい。
「洗い物は?」
「終わりー。ちゃんとやったでしょ」
「信用してないわけじゃないけどな」
「信用してよ」
そう言いながら、楓は適当な椅子に腰を下ろした。庭に出てきた理由は特にないらしい。ただ、なんとなく俺のいる場所を探して外に出たら、いたということらしい。
俺はタープを裏返しながら、軽く返事をする。
「で、留学どうだったんだよ」
「いきなりそれ?」
「今聞くしかないだろ」
楓は少しだけ考えてから、空を見上げた。
「うーん……忙しかった。ほんとそれ」
「雑すぎるだろ」
「いやほんとに。語学とかより生活が大変」
「向こうの飯とか?」
「まず水が違う。あと普通に日差しが殺しにくる」
「それは前も言ってたな」
楓は笑いながら肩をすくめる。
そんな他愛もない会話をしながら、俺は道具の手入れを続ける。ガスランタンのガラス部分を拭き、バーナーの汚れを落とし、ファスナーの動きを確認する。
沈黙があっても気まずくならないのは、昔から変わらない距離感だ。
「でさ」
楓がふと声を上げた。
「次のキャンプ、いつにするの?」
「もう決める気かよ」
「当たり前でしょ。私の予定合わせるんだから」
「勝手に主導権取るな」
呆れながらも、俺はスマホを取り出す。
「一応、候補日はある」
シフトと空き日を確認しながら、いくつかの日付を並べる。楓はそれを覗き込みながら、適当なことを言い始めた。
「えー、ここは無理。ここも微妙。ここは暑そう」
「全部感覚じゃねえか」
「女の勘」
「便利な言葉だなそれ」
結局、俺が候補を整理する形になる。
「じゃあ、この週とこの週」
「どっちもあり」
「どっちもありじゃ決まらないだろ」
「じゃあ決めて」
「丸投げかよ」
しばらくやり取りを繰り返したあと、楓はようやく少しだけ真面目な顔になる。
「……じゃあ、海はやめよ」
「暑いからな」
「山も前行ったし」
「じゃあ湖か川かだな」
「川は前行ったじゃん」
「なら湖畔か」
俺がそう言うと、楓は一瞬だけ黙った。
「湖ってさ、なんか静かすぎて怖くない?」
「怖いってなんだよ」
「夜とかさ、音ないじゃん」
「キャンプ場だし人いるだろ」
「でもさー」
不満そうに唸る楓を見ながら、俺は候補を1つに絞る。
「じゃあ湖畔キャンプ場。ここでいいだろ」
スマホの画面を見せると、楓は渋い顔をした。
「うーん……まあいいけど」
「嫌そうだな」
「嫌じゃないけど、ちょっと静かすぎる」
「そこがいいんだろ」
「そういうこと言う」
結局、しばらく押し問答のあと、楓は小さくため息をついた。
「……分かった。そこでいい」
「決まりな」
「条件ある」
「なんだよ」
「夜はBBQね」
「最初からそのつもりだったな?」
楓はニヤリと笑い、こっちを見ている。
「はいはい」
俺が呆れ気味に返すと、楓は満足そうに頷いた。
「じゃあ決定ね」
その瞬間、庭の空気が少しだけ軽くなる。
道具の手入れはほとんど終わっていた。俺は最後にタープを畳みながら、ふと空を見上げる。雲がゆっくり流れている。
来週末……10日後か……
「……また行くのか」
「またって言うほどじゃないでしょ」
楓の声に、少しだけ笑いが混じる。
月一だったから、スパンが短く感じただけで確かにそうかもしれない。
次のキャンプは少しだけ違う気がした。
1人じゃないというだけで、何かが変わる訳がないのに、漠然とそんな気がした。
「じゃあ準備しとけよ」
「お兄ちゃんもね」
軽く言い合いながら、午後の時間はゆっくり流れていった。
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