012 妹と一緒?
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「ん? 何そのスキル?」
楓が首をかしげながら、俺の顔と部屋の隅のキャンプ道具を交互に見た。
「キャンプ設営」
俺はさっきと同じ言葉を返す。
「いや、それは聞いたけどさ。具体的に何するやつなの?」
そう言われても、正直なところ説明できることはほとんどない。俺は少しだけ視線を上に向けてから、言葉を探す。
「そういわれてもな……3回生になって行き始めたって言っただろ? キャンプに行こうとしたのも、実はスキルの所為もあるかなってな」
「なにそれ?」
「何それって言われても、このスキルについては何もわかってないんだよ。今のところ、キャンプにかかわることを試しているけど、最終的にはテント張ってるだけだし」
楓は腕を組んで、ふーんと唸る。
「で、レベルとかは?」
「それも分からない。上がってる気配もない」
「じゃあさ、何を試したの?」
「一応いろいろはやってる。テントの張り方変えたり、場所変えたり、タープ広げたりとか」
「それで?」
「何も起きない。ちょっと居心地がいいだけ」
即答すると、楓は少しだけ笑った。
「うわ、私と同じじゃん」
「同じ?」
「私のスキルもさ、トレーナーってやつなんだけど」
楓は軽く肩をすくめる。
「最初、筋トレ手伝ってくれる系かと思ったんだよね。ほら、重さの調整とか、いい感じに追い込んでくれるみたいな」
「それっぽいな」
「で、実際試したの。友達のトレーニング付き合って、フォーム見たり、メニュー組んだり」
「それで?」
「何も起きない」
楓は俺と同じように即答した。妙な間が空いて、それから俺たちは同時に吹き出した。
「なんだそれ」
「いやほんと、それ」
笑いながら、どちらともなく視線を合わせる。
「変なところだけ似てるな、俺たち」
「ね。昔からそうじゃん」
楓はベッドの端に軽く腰掛けると、少しだけ真面目な顔になる。
「でもさ、こういうのってさ、たぶん地味に育つタイプなんじゃない?」
「地味に?」
「うん。いきなりドカンと出るやつじゃなくて、気付いたら便利になってるやつ」
「キャンプ設営で便利になる未来が想像できないんだけど」
「それ今言う?」
また少し笑いが起きる。
確かに、今の状態だけ見ればただの謎スキルだ。ダンジョンがどうこう言われている世界で、キャンプ設営はあまりにも場違いだ。
楓は話題を変えるように、俺の机の上を見る。
「でさ、夏休みどうするの?」
「キャンプ行こうかなとは思ってる。あとバイト」
「やっぱり」
楓は少しだけ苦笑いする。
「大学生っぽい予定ないね」
「そっちは?」
「私は逆に予定入れすぎてて死にそう」
「いつも通りだな」
そう言うと、楓は軽く肩をすくめた。
「でさ、そのキャンプさ、もしよかったら、私も行っていい?」
一瞬、部屋の空気が止まった。
「……は?」
「いや、普通に。久しぶりに外で遊びたいし。キャンプも最後にやったの小さい頃でしょ」
「まあ……そうだけど」
正直、断る理由は特にない。むしろ人手が増えるのは悪くない。料理も設営も、楽になる部分はある。
ただ、妹と2人でキャンプというのは、少しだけ想定外だった。
「荷物多いけどいいのか?」
「余裕。オーストラリアで鍛えられたから」
「それは関係ないだろ」
「とか言ってるけど、お父さんに車借りるなら、荷物は気にならないでしょ」
楓は楽しそうに笑う。
少しだけ考えてから、俺は頷いた。
「じゃあ、次のタイミングな。今週は1回行く予定だったけど、それは1人で行ってくるわ」
「了解。じゃあ次ね」
軽い返事だったが、楓は嬉しそうだった。
立ち上がると、部屋のドアへ向かう。
「あ、そうだ」
「ん?」
「キャンプってさ、結局何が楽しいの?」
その問いに、俺は少しだけ言葉を探した。
「……分からない」
「は?」
「分からないけど、落ち着く」
「なにそれ」
楓は笑いながらドアを開ける。
「まあいいや。私も体験してみる」
そう言って、部屋から出ていった。静かになった部屋で、俺はしばらくキャンプ道具を眺める。河原キャンプの予約画面は、まだ開いたままだった。
「妹と一緒にキャンプか……」
小さく呟いて、スマホを操作する。
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