125 意外な結果
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卒論の監督をしてくれる教員を探し始めてから、1時間ほど経った頃だった。
「……どうする?」
「どうするって言われてもな……」
俺と健司は、大学の一室で顔を見合わせていた……最初は、スキル関係の研究をしている教員を探して、その中から話を聞いてくれそうな人に声をかけるつもりだった。
ところが、いつの間にか話が妙な方向へ進んでいた。俺たちがダンジョンに関係する卒論を書こうとしている……そんな情報が、学生や、俺たちが直接話を聞きに行った教員たちから、いつの間にか教員全体へ回っていたらしい。
そして今、俺たちの前には15人ほどの教員が集まっている。
「いや、ちょっと待ってください。多くないですか?」
思わずそう聞いてしまった。
「まあ、そうなるよね。去年まで、こういう分野の卒論を本格的にやった学生がほとんどいなかったからね。せっかくなら、自分の研究分野と絡めてみたいと思って」
1人の教員が、代表して話すと、
「俺も」
「私も」
と、次々と声が上がる。
俺たちとしては、監督してくれる教員を1人か2人探すつもりだった……それが、まさかこんなことになるとは思わなかった。
「というか、皆さんの中に教授はいないんですか?」
俺が聞くと、何人かが苦笑した。
「ここにいるのは、助教と准教授だけだよ。教授は人気があるからね……同じような分野を研究している学生も多いし、そっちを優先すると、なかなか自分がメインで卒論を見る機会がないんだよ」
「だから、新しい分野で自分の研究テーマと組み合わせられそうな学生がいると聞いて、これは渡り船だと思ってね」
なるほど……どうやら俺たちが思っていたのとは、完全に逆だったらしい。誰も監督してくれないかもしれないと思っていたら、むしろ監督したい人が一気に集まってしまった。
「まだ大学が始まったばかりで、本格的に講義が始まるまで少し時間があるからね。手が空いている教員も多いんだ」
それで、こんなに……?
「ダンジョン関係の研究は、これから需要が増えるだろうしね」
俺は改めて周囲を見回した。スポーツ学、経済学、物理学、心理学……いろいろな分野の助教や准教授が集まっている。
確かに、俺たちがやろうとしていることは、1つの分野だけでは収まりそうにない。
健司は探索者の訓練について研究したい。そう考えると、スポーツ学は当然として、スキルによって身体能力が変化する以上、物理学的な研究もできる。探索者がダンジョンへ潜ることで精神面にどんな影響があるのかを考えれば、心理学も関係してくる。
俺の場合も同じだ。スキルによって身体能力が向上する以上、スポーツ学は関係するし、ダンジョンを封鎖できた場合、社会や経済にどんな影響が出るのかを考えるなら経済学だよな。
そして、キャンプ設営によって作られる安全な空間について研究するなら、物理学的な視点もあると面白いと思う。
ただ、俺のスキルについては、まだ会社を作っていないこともあって、詳しい話をするわけにはいかない。
少なくとも、今の段階では。
「それで、君たちは具体的にどんなテーマを考えているの?」
助教の1人から聞かれた。
「俺は、スキルが世界に与えた影響について考えています。かなり広い範囲になってしまうので、最終的には絞るつもりですけど」
「俺は探索者の身体作りですね。一般的なスポーツ選手とは違って、探索者には魔物との戦闘があります。探索者に適した身体の使い方やトレーニング方法を研究してみたいです」
本当は、スキルによる身体能力の変化もあるので、その部分も話したいのだが、世界のルールに引っかかるため、その部分を話すためには、ユニークスキルのレベルが上がっている必要があるんだよな。
「そういう方向なら、こちらの研究と組み合わせられそうだ」
教員たちが、それぞれ自分の研究分野との接点を話し始める。俺たちはそれを聞きながら、少しずつテーマを整理していった。そして、その途中で健司が俺の方を見た。
「そういえば、最低条件を確認しておいた方がいいんじゃないか?」
「最低条件?」
「スキルの話ができること」
「ああ……」
俺は頷いた。確かに重要で、俺も同じことを考えていた。ダンジョンやスキルに関する卒論を書くのに、スキルについて話せないのであれば、どうしようもない。
そこで、健司が集まった教員たちに質問した。
「皆さん、ダンジョンの話をするときに、激しい頭痛になったことはありますか?」
一瞬、部屋が静かになった。そして、4人が手を挙げた。
スキルの与える影響について話すためには、ダンジョンを作った存在の決めた世界のルールに従う必要がある。そのため、ユニークスキルのレベルが上がっていないと、話ができないのだ。
上がっていない人がその場にいると、激しい頭痛に襲われて話ができなくなるのだ。スキルについて話せる人間を探すなら、ユニークスキルのレベルが上がっていることは最低条件になる。
健司、グッジョブだ。結果として、その4人の助教や准教授と一緒に卒論を進めることになった。分野は、スポーツ学、経済学、物理学、心理学。
よくまあ、こんな都合のいい人たちが集まったものだ。もちろん、いきなり研究室を貸してもらえるわけではない。
卒論を書くために必要な部屋があれば、空いている部屋を申請して借りる……それくらいのことしかできない。
それでも、十分だった。
俺たちは、これから調べていく内容を大まかに決め、具体的な研究方法や範囲については、これから詰めていく。まだ大学が始まったばかりなのだから、急ぐ必要もない。
そうして、大学最後の1年が始まった。
18時になった頃、いつものメンバーが集まった。
「みんな、卒論どうだった?」
誰かが聞く。
「僕は決まったよ」
「私も」
「こっちも」
なんと、この1日で全員が卒論の監督をしてくれる教員を見つけることに成功したらしい。
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