121 一区切りつくが、まだ先がある……
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それから1週間ほどは、特に大きな出来事もなかった。大学が始まるまでの準備をしながら、以前と同じように居酒屋のバイトへ行く。レザークラフトの店にも何度か顔を出して、革紐を作ったり、簡単な作業を手伝ったりした。
怪我をした直後は、少し動いただけでも家に帰って横になるとすぐ眠くなったりしたけど、今ではほとんど気にならない。
大学の方も、必要な講義を再確認したり、卒業までに必要な単位を計算したりしているうちに時間が過ぎていった。
そんな生活を続けて、グランピング場で事件に巻き込まれてから2週間ほど経った頃だった。
昼過ぎ、スマートフォンに警察から電話がかかってきた。
「はい、九十八です」
『九十八さんでしょうか。先日、被害届を出された事件についてですが、捜査が一段落しましたので、ご連絡しました』
「はい」
『被疑者A、被疑者B、被疑者Cの3名について、傷害、脅迫、殺人未遂などの被疑事実で、検察庁へ送致することになりました』
「……そうですか」
『今後は検察の方で判断されることになります。何か進展がありましたら、改めてご連絡します』
「分かりました。ありがとうございます」
それだけ確認して、電話を切った。
「……送致、か」
言葉としては聞いたことがある。ニュースでも、よく聞く言葉だ。ただ、実際に自分が関係する事件で言われると、少し変な感じがする。
裁判について詳しく知っているわけでもないので、気になって調べてみることにした。
検索してみると、警察から検察へ事件を送ることを「送致」といい、一般的にニュースなどで使われている「書類送検」という言葉は、その中でも被疑者の身柄を拘束せずに事件を送る場合に使われることが多いらしい。
今回、相手側は身柄を拘束されているわけではない。だから、いわゆる書類送検というやつか。
逆に、逮捕されて身柄を拘束されている状態なら、身柄を付けたまま検察へ送られる「身柄送致」になるらしい。
言葉だけなら知っていた……書類送検、起訴、略式命令……ニュースで何度も聞いたことがある言葉だ。でも、それぞれがどういう意味なのかと言われると、意外と説明できなかった。
俺も今回、自分が当事者になったから調べただけだ。
そして、調べてみると、同じように「書類送検されたらどうなるのか」とか「起訴と書類送検の違いは何なのか」と質問している人がかなり多かった。
やっぱり、言葉は知っていても、詳しいところまでは知らない人が多いんだろう。
今回の件について言えば、警察での捜査は一段落した。ここからは検察が事件の内容を確認して、起訴するのか、不起訴にするのかなどを判断することになるらしい。
もし起訴されれば、そこから裁判へ進む。
ただ、罪名によっては略式手続というものもあるらしく、一定の場合には正式な公判を開かず、書面を中心に罰金などを命じる手続もある。
少なくとも、この件で俺たちが被疑者になることはなくなった。
それだけでも、かなり大きい。自分たちも何か悪いことをしたのではないかと疑われ続ける可能性がなくなったというだけで、精神的にはかなり楽になった。
俺はスマートフォンを手に取って、健司へ連絡する。
「警察から連絡があった。3人とも検察に送致するって」
『一段落したな。だけど、あの様子だと、略式命令には同意せずに、公判になりそうだな』
「そうなのか?」
『そもそも殺人未遂でも送致されてるからな。検察の起訴内容に殺人未遂が入ったら、略式では処理できないだろ』
「ああ、そこまでは調べてなかった」
『俺も今調べたところだけどな』
「なんだよ、それ」
どうやら、今回の事件では殺人未遂まで被疑事実に含まれている。略式手続で扱える事件には限りがあるため、殺人未遂のような重い罪については、通常の公判手続になるそうだ。
『まあ、暴行とか傷害、脅迫なんかなら、場合によっては略式手続になることもあるみたいだけどな』
自分が巻き込まれた事件だからこそ、今まで知らなかったことを妙に詳しく調べるようになってしまった。
「これで、他の5人は、面倒をかけさせないで済みそうだな。ただでさえ、就職活動に影響が出ているのに、これ以上この件で引きずってほしくないからな」
事件に巻き込まれた女子たちは、今も完全に元通りというわけではない。身体の怪我はないからいいというものではない。あの場所で起きたことを思い出してしまうこともあるだろうし、落ち着くまでは就職活動を控えた方がいいと医者の判断だったからな。
だからこそ、これ以上この事件に時間を取られることなく、少しずつでも元の生活へ戻ってほしいと思う。
『俺は就職が決まってるし、最悪、内定取り消しになっても、探索者として稼ぎながら就活できるしな』
「お前なら、ブートキャンプして、探索者育成に回った方が儲かりそうだけどな。お前の筋肉ならできるだろ」
『筋肉は、自前だから探索は関係ないぞ?』
「その鍛え方自体は間違ってないんだから、探索者向けに特化したトレーニングとか、需要あるんじゃないか?」
『ふむ……』
しばらく健司から返事がない。何か考えているらしい。
『俺も、翼を見習って、少し事業の立ち上げを考えてみるか?』
思わず声が出た。
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