119 革細工の沼にはまってしまうのか?
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ミミは、交代で1時間ほど職人さんたちに遊んでもらうと、さすがに満足したのか、楓に抱っこをされてくつろぎ始めた。
「……よく遊んだな」
楓の腕の中で、ミミは完全に力を抜いている。ここまで運動するのは、初めてなんじゃないだろうか……
最近は病院でもらったランニングホイールで、かなりの速度で走っていることもある。でも、前後左右に飛び上がるような運動をするのは、俺たち家族が猫じゃらしで遊ぶ時くらいだ。
それだって、普段は10分から20分程度……今日は1時間以上も続けていた。
「ちょっと心配になるな……」
ミミは身体能力が上がっているから、普通の猫と同じ感覚で心配するのもどうかと思う。そもそも、ゴブリンを簡単に行動不能にできる猫だ。
俺が心配しても『自分の身体の心配をしろ』とか言われそうだな。
「まあ、元気そうだから大丈夫か」
「にゃぁ……」
楓に抱かれたまま、ミミが小さく鳴く。どうやら本当に満足しているらしい。
俺は何本か革紐を作ったところで、少し休憩でもしようかと思った。そんな時だった……
「翼君、財布のこの部分の革紐を通してみるか?」
1人の職人さんが、手持ち無沙汰になっていた俺に声をかけてくれた。
「財布ですか?」
「ああ。ちょうど下準備が終わったところだからな」
職人さんが持ってきたのは、革で作られた財布だった。
よく見る革の財布には、縁の部分を紐で縫っているように見えるものがある。ただ、今回勧められた財布は、それとは少し違っていた。
財布の縁に沿って穴を空け、そこへ革紐を通していくもので、普通の紐をミシン目のように縫うのではなく、革紐が縁に巻き付くような形になる。
「こういう通し方もあるんですね」
「うちではたまにやるよ。ちょっと見た目が変わるだろ?」
普通の紐でも、細かく縫ってあると、それだけでおしゃれに見える。でも、これはそれとは違う。縁に革紐が巻き付いているように見えるから、全体的に少し力強いというか、別の種類のおしゃれさがある。
しかも、革紐が通る縁の部分には、ほんの少しだけ溝が作られていた。
「この溝って、革紐が引っかかるようになってるんですか?」
「そう。馴染ませる意味もあるし、革紐が浮かないようにする意味もある。これがあるだけで、財布の縁と革紐が一体になって見えるんだ」
なるほど……言われてみれば、確かにそうだ。完成品を見せてもらうと、溝があることで革紐が収まり、後から付け足したという感じがしない。
「普通の紐でミシン目みたいに縫うのと、革紐とでは、どちらが楽なんですか?」
「どちらが楽ということはないよ」
職人さんは苦笑する。
「適当でいいなら、どっちも楽だしな。手間をかけるなら、どっちも大変だ。革紐の場合は、普通の紐の時より、縁の部分の革と革をしっかりくっつけておかないといけない。それに、一体感を出すために少し削る必要もある。
だから工程は少し増えるかな。でも、普通の紐は革紐より縫い目が細かいから、縫うのに時間がかかる。だから、どっちが楽ってことはないんだよ」
作る物によって変えるらしい。
「作品が一辺倒にならないように、少し変化をつけたい時なんかにも使うんだ」
「確かに、同じ財布でも印象がかなり変わりますね」
職人さんが、縁を指差す。
「どっちも縫う前に革へ穴を空けるだろ? だから、その穴を空ける作業が重要なんだ」
「縫う方が難しいんじゃないんですか?」
「縫うのは、順番通りに正確に通していけばいいからな。もちろん雑にやれば失敗するけど、翼君でもできるよ」
「俺でも?」
「革紐なら、ある程度やり直しも利くからな。今の翼君にはいい練習になると思う」
「じゃあ、やってみます」
財布を受け取り、教えてもらった通りに革紐を通していく。穴はすでに空いているから、俺がやるのは革紐を決められた順番で通していく作業だ。
1つ通して、次へ。表側から通したら、次は裏側から引っ張り、革紐がねじれていないか確認しながら、表に持ってきてまた穴に通す……溝にもはまるように少しずつ進めていく。
「そこはもう少し強く引いて……そうそう、それくらいでいい」
職人さんに確認してもらいながら、作業を続ける。最初は少し緊張したが、やっていること自体は意外と分かりやすい。
そして、1時間ほど経った頃。
「できました」
「うん。綺麗に通せてる」
財布の縁を確認する。革紐が縁に沿って巻き付くように通っていて、思っていた以上に格好いい。
「これ、いいですね」
職人さんも満足そうに笑った。
昼までの1時間ほどで、財布の縁に革紐を通すことができた。紐を通すだけだったので、そこまで時間はかからなかった。
ただ、穴を空けたり、革同士を合わせて貼り付けたり、そういった下作業が特に大事なのが革細工らしい……料理も下拵えが大事だよな。
ふと、そんなことを思った。
料理も、材料を切ったり、下味を付けたり、煮込んだりと、最後の盛り付けに至るまでにいろいろな準備がある。
そう考えると、革紐作りも下準備の一つだ。店長さんや職人さんたちの作業を見ていても、それはよく分かる。製品にするための最後の作業そのものは、正直、そこまで長くない。
革を裁断して、切った後の処理をして、革を加工して、貼り合わせて……そういった細かい作業にかなりの時間を使っている。
たとえるなら、革細工の最後の仕上げは、料理の盛り付けに近いのかもしれない……もちろん、革細工と料理を同じものとして考えていいのかは分からない。
でも、見栄えをよくする最後の作業という意味では、料理の盛り付けと革細工の最後の仕上げは、少し似ている気がする。
「革細工の職人も料理人もそうだけど……モノづくりしている人たちって、やっぱりすごいんだな」
そんなことを考えながら、一息つく。
すると、楓が声をかけてきた。
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