118 ミミの体力は底なしか?
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ただ、あの事件に巻き込まれた女子たちは、そうもいかないらしい。事件の影響で就職活動が遅れている。
その中でも、唯一1人暮らしをしていた子が一番早く回復しているようで、母親も安心して実家へ帰ったらしい。
とはいえ、完全に元通りというわけではない。後遺症というか、トラウマのようなものは残っている。そのため、以前よりも事件で一緒だった友達が泊まりに来る回数が増えているそうだ。
しかも、泊まりに来る時には、いろいろなお土産を持ってくるらしい。おかげで、以前より食生活が豊かになっているとか……別に貧乏だったわけではない。
ただ、1人暮らしだと、ついつい食事を手抜きしてしまうそうで、友達が泊まりに来るなら、ちゃんと料理をしようという気にもなるのだとか。
友達の親が持たせてくれる食材のおかげもあるそうだけどな。
「今日は、レザークラフトの方に行ってくる」
朝食を食べ終えながら、今日の予定を話す。
「店長にも心配かけて、挨拶はしたけど、しっかり話してから、腕がなまってないか確認してくるよ」
母親は特に何も言わず、頷くだけだった。
「え? じゃあ、私も行く。見学だけど、ミミちゃんと一緒に行くね! あそこの店長さん、猫好きだから、ミミちゃんも可愛がってもらえるもんね!」
「にゃ」
ミミは、しょうがないなぁ、とでも言いたげな顔をして一鳴きした。
「じゃあ、一緒に行くか」
店に行くのは10時ころ。9時半に家を出れば、10分前くらいには着くだろう。 ミミが一緒なら多少寄り道するだろうし、ちょうどいいくらいだ。
そして、9時半になって家を出た。
リードをつけたミミは、最初こそ俺たちの横を歩いていた。だが、少しすると、興味を持った場所へ進んでいく。
「ミミちゃん、そっちは違うよ」
戻ってきたと思ったら、今度は別の場所へ。そんなことを繰り返しているうちに、結構な寄り道になった。
「……まあ、急いでないからいいけど」
「ミミちゃん、寄り道好きだね」
そして途中で子どもたちに出会った。
「ミミちゃんだ!」
「触っていい?」
どうやら以前にも会ったことがあるらしく、ミミの名前を知っていた。
楓が子どもたちと話している間、ミミは大人しく撫でられている。これが決定打で、店に到着したのは、10時を少し過ぎたころだった。
「こんにちは」
「おぉ、今日は妹さんにミミちゃんも一緒か!」
店長さんが嬉しそうに出迎えてくれる。
「九十八君も、もう大丈夫そうだな」
店長さんはそう言ってから、ミミを見る。
「最近は余裕があるから、端材で申し訳ないんだが、暇な時間で作った猫じゃらしで遊んでくれないかな?」
どこから取り出したのか、店長さんの手には革の端材で作られたと思われる猫じゃらしが握られていた。
「……にゃ」
ミミの目が光った……ような気がした。視線が完全に猫じゃらしへ固定されている。
「そんなに気になるのか?」
明らかにやる気だ……店内で遊ぶのは危ない。商品もあるし、職人さんたちも作業をしている。そこで、少し移動して、広い空間になっている場所へ向かった。
「よし、ここなら大丈夫だな」
店長さんが猫じゃらしを動かすと、ミミが反応した。
猫じゃらしを追いかける。
右へ左へ、軽く2mは跳んだ。
「おお……」
楓が楽しそうに見ている。俺も少しは見ていたが、そのうち、他の職人さんたちも集まってきて、みんな少し羨ましそうだ。
俺は店長さんを放っておいて、近くにいた職人さんへ声をかける。
「何か手伝うことありますか?」
職人さんが少し考えて、
「革紐が少なくなってきてるから、それを作ってくれ。勘を取り戻すにはちょうどいいだろ」
「分かりました」
革紐か……長い革紐を作る場合、それなりの大きさの革を渦状にカットして、1本の長い紐にすることが多いらしい。
ただ、俺はそこまで技量があるわけじゃない。だから俺の作っているのは、端材を使っている。革紐以外には使いにくいような端材を選び、できる限り同じ太さになるように切っていく。
長い革紐の方が便利なのは間違いない。でも、短いから使えないというわけでもない。
切った革の角を取るため、トリマーを使って削る。それから、柔らかくするために専用の道具を押し付け、何度も何度も伸ばしていく。
作業を続け、最後に薬剤などを塗って乾かす。
これで1回目……教えてもらった通り、1本ずつ作業していく。
久しぶりに革を触る。刃物を使い、厚みや形を確認しながら加工する。キャンプギアの手入れとは違うが、こうして手を動かしていると、やっぱり落ち着く。
しばらく作業を続けていると、満足そうな声が聞こえて、店長が戻ってきた。
「いやあ、久しぶりに思いっきり遊んだな」
店長さんがミミを見る。ミミは床に座りながら、まだ猫じゃらしを見ている。
「……まだ遊び足りないみたいだな」
明らかにそんな顔をしている。
「じゃあ、手の空いてる職人は遊んでいいぞ」
「マジですか!」
「やった!」
「俺から!」
その瞬間、職人さんたちの間でじゃんけんが始まった。
「最初はグー!」
全員が真剣だ。
「じゃんけんぽん!」
勝った人から順番を決めていく。後半になればなるほど、ミミの体力次第では遊べなくなる。だからなのか、みんな必死だった。
「そこまで本気になる?」
俺が呆れて見ていると、ミミはそんなことなど気にしていない。次はまだか、とでも言いたげな表情で座り込み、まだか? と言わんばかりに、肉球をぺろぺろと舐めて待っていた。
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