113 昨日の許可は、なんだったんだ?
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健康的な生活を続けていたせいか、その日の夜は、24時を回る前に眠くなってしまった。
いつもなら、バイトが終わった頃には日付が変わっていて、家に帰って風呂に入り、スマートフォンを少し触っているうちに、気付けば寝ている……という感じだ。
バイトから帰って風呂に入ってから寝ることを考えると、どうしても1時や2時くらいになってしまう。
でも、ここ数日は22時にはベッドに入る生活をしていた。
そのせいなのか……それとも、怪我が治ったばかりで身体がまだ休養を求めているのか。
「……眠いな」
時計を見ると、まだ23時にもなっていない。普段なら、これから寝るという時間でもない。
「まあ、明日からバイトだしな」
明日からは、またいつもの生活に戻る。まだ大学は始まっていないが、今日は早めに寝ておいた方がいいだろう。
ベッドへ横になり、目を閉じる。
「おやすみ」
誰に言うでもなく呟いた。そして、そのまま眠りについた……本当に、すぐだった。
翌朝……
「ん?」
腹に重さを感じて、目を覚ました。まだ寝ぼけている頭で、ゆっくりと目を開ける。
「……にゃ」
俺の腹の上に、ミミが乗っていた。しかも、今日はいつもと違い、俺の顔を見下ろしている。
……どういうこと? 状況がよく分からない。
ミミは俺の腹の上に座ったまま、じーっと俺の顔を見ている。
「「……」」
しばらく見つめ合う……何か言いたいのだろうか?
それとも、俺を起こしに来たのか? でも、起こすだけなら、いつものように鳴けばいい。
「ミミ?」
ミミは答えない。ただ、じーっと俺を見ている。そして、しばらくしてから、
「にゃ」
一鳴きして、そのまま、俺の腹から飛び降りた。
「うぐっ!」
腹の上から急に重量が消え、飛び降りる時の衝撃が加わったせいで、変な声が出てしまった。
「……お前なぁ」
ミミは何事もなかったように部屋の扉へ向かっていく。まあ……この程度なら、もう慣れてしまった。
ミミが俺の上に乗ることは、以前から度々あったからな。ただ、どうして俺のことを見下ろしていたのかまでは分からない。
「……何だったんだ?」
俺もベッドから出て、ミミの後を追い、階段を下りて1階へ行くと、台所からいい匂いがしてきた。
「おはよう、翼」
母親が朝食を作っている。俺の足音に気付いて振り返ると、そのまま俺のところまでやってきた。
「……」
母親が俺を見る。
顔、腕、身体全体……そして、少し考えるようにして、
「一応、大丈夫そうね」
「何が?」
「体調よ。ミミちゃんが朝、あんたの様子を見に行ったみたいだから」
なるほど……どうやら、俺を起こしに来たというより、寝起きの様子を確認しに来ていたらしい。
「心配してくれてたのか」
「そうみたいね」
俺がリビングを見ると、ミミはすでにソファーの上でくつろいでいた。
「ミミ」
俺が近づくと、ミミがこちらを見る。
「お前、朝から心配してくれたんだな」
そう言いながら抱き上げる。
「よしよし」
そのまま、ミミのお腹へ顔を近付ける。
「ちょっとだけ猫吸いを――」
瞬間、ミミの前足が俺の顔を押さえた。さらに後ろ足も俺の顔に当たる。
「……おい」
ぐいっぐいっ。
ミミは両手両足を使って、俺の顔を全力で遠ざけている。
「……そんなに嫌か?」
「にゃ」
明確な拒否だった。
「はいはい。分かったよ」
猫吸いを断念して、ミミをソファーの上に戻す。するとミミは、グテンと身体を倒した。そして、お腹をこちらへ向けて、俺を見る。
「……撫でろってこと?」
どうやら今度は許可が出たらしい。
「はいはい」
ミミのお腹をゆっくり撫でる。お腹の猫吸いはダメだけど、お腹を撫でるのはかまわんのか? 基準がよく分からんな。
「にゃぁ……」
気持ちよさそうな声を出している。撫でられるのはいいらしい。でも、顔を埋めるのは駄目。
猫の基準は、やはりよく分からない。
もっとも、ミミの場合は、こんな緩い感じなのに、ゴブリンくらいなら簡単に行動不能にしてしまうくらいには理不尽な動きをする。
普段はこんなに無防備なのにな。
「……本気で逃げられたら、俺じゃ絶対に捕まえられないだろうな」
「にゃ」
「何だよ、その返事」
ミミは俺の手に頭を押し付けてくる。撫でる場所を指定しているらしい。
「はいはい。今度は、そこですね」
頭を撫でると、また満足そうに目を細めた。そんなことをしていると、階段から足音が聞こえてきた。
「ふぁ……おはよ……」
「おはよう、楓」
眠そうな顔をした楓がリビングへやってくる。そして、俺とミミを見る。
「何してるの?」
「ミミが朝、俺の腹の上に乗って俺の顔を見下ろしてたんだよ。何でだったのか聞いてくれ」
「分かった」
楓がミミを見る。
「ミミちゃん、お兄ちゃんを起こした理由は何?」
「にゃ」
「……ふんふん」
「何だって?」
「お兄ちゃんのことが心配だったから、寝起きの様子を見に行っただけみたいだよ」
「母さんの言った通り、そういうことだったのか」
理由が分かって納得する。
「お父さんに言ったら、『ミミちゃんに心配してもらえるなんて、うらやましい!』とか言いそうだね」
確かに……父親なら言いそうだ。
別にミミも父親を嫌っているわけじゃない。ただ、父親はミミをかまいすぎる。撫でようと追いかけたり、抱き上げようとしたりするから、すぐに逃げられている。
その光景を思い出しながら呟く。
「まあ、父親はミミをかまいすぎなんだよな」
「えっ!?」
楓が突然、驚いた顔をして、こちらを見て、
「お兄ちゃん! ノンデリ!」
なんか、急に楓にディスられたんだが?
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