109 早く治っている理由の一端
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膝の上では、ミミが気持ちよさそうに丸くなっている。楓から解放されたミミは、俺の膝の上でくつろいでいる。
さっきまで俺の体調を確認するために、あれこれ質問していたくせに、今ではすっかりいつもの猫だ。
「……ところで楓」
「なに?」
「さっき、ミミに聞いた内容を確認してたって言ってたけど……それ、家族のグループチャットにも書いたのか?」
「うん。もう送ったよ。ミミちゃんから聞いたことと、お兄ちゃんが話してたことに差異はありませんでした、って」
「そこまで報告するのか……」
「だって、お母さんもお父さんも心配してるからね」
そう言って、楓はスマートフォンを操作する。
「それに、ミミちゃんに聞けば、お兄ちゃんが嘘をついてるかどうかすぐ分かるから」
ミミは俺の顔を見上げると、一鳴きした。
「『嘘つかないでね』だって」
楓は当然のように答えた。
「そもそも、お兄ちゃんって最近ミミちゃんに嘘ついて、何回も肉球パンチされてるじゃん」
思い出す……ミミに「キャンプに行かない」と言った直後に、肉球パンチを受けたこがある。ミミが寝た後にキャンプ道具を準備しようとしてたのがバレていたようで、肉球の痕がつくかと思うくらい押し付けられたっけ……
他にも、まだ寝ないといけない時間に「もう寝る」と言っておきながらスマートフォンを触っていた時は、どうせ寝ないだろうということがバレていたのか、いつの間にかミミが隣に来ていた。
そして、肉球。
「そういえば、今のところ100%なんだよな……ミミに嘘をついたら、必ずばれてる。どうやって判断してるんだろうな」
「さあ?」
楓も分からないらしい。
「でも、ミミちゃんが『何か話してないことがある』って言った時は、だいたい本当に何か隠してるよね」
「……それもあるな」
俺が話していないことを、ミミが楓に伝えて、そこから追及されたことも何度かある。別に悪いことをしているわけじゃない。ただ、わざわざ言わなくてもいいと思っていたことまで、ミミには見抜かれてしまう。
「……ミミにだけは嘘つけないな」
「最初から嘘つかなければいいんだよ」
「にゃ」
ミミまで同意されて……完全に包囲されている。
そんなことを話しているうちに時間が過ぎていった。やがて玄関が開く音がする。
「ただいま」
母親が帰ってきた。
「翼、体調は?」
「熱は?」
「ミミちゃん、この子、嘘言ってない? どう?」
「にゃー」
母親は靴を脱ぎながらミミを見る。
「……楓、何て言ってる?」
楓がミミの様子を見ながら答える。
「ちゃんと安静にしてたから大丈夫だって」
母親は俺を見る。
「本当に?」
「変なことしてない?」
「無理してない?」
「何か隠してない?」
母親の目が細くなる。俺も嘘はついていない……ただ、ミミがいるせいで妙な緊張感がある。
母親がミミを見る。
「ミミちゃん、本当に?」
「にゃ」
「大丈夫だって」
それから母親は、俺のところへやってきて、額に手を当てた。
「……まだ熱いわね」
「病院でも38度あった。今も熱っぽいけどわかんない」
「じゃあ、もう一回測るわよ」
体温計を渡され、測る。結果は……38度……
「朝から変わってないわね……」
母親が心配そうな顔をする。
「本当に大丈夫なの?」
「医者は問題ないって言ってたから」
「でも熱が下がってないじゃない」
「だから、身体が治ってる途中なんだって」
俺が説明すると、母親はまた疑うような目を向けてくる……その時だった。
「にゃ」
ミミが鳴いた。楓がミミを見る。
「お母さん、ミミちゃんが大丈夫だって」
「……本当に? 何か他に言ってない?」
「大丈夫。ちゃんと回復してるって」
母親はしばらくミミを見つめた後、小さく息を吐いた。
「分かったわ。でも、変な心配をさせないでよね。今は不調なんだから、言われた通りに休んでおきなさいよ」
「分かった」
そう言って、母親は台所へ向かった。どうやら夕食の準備を始めるらしい。
俺はソファーに座り直すと、ちょうどその頃に父親も帰ってきた。
「ただいま」
父親はリビングへ入ってくると、俺の顔を見た。
「その顔を見れば、楓にも母さんにもミミにも、いろいろ言われたんだろ? みんな、お前のことを心配しているから言っているんだぞ。それだけは理解しておけよな」
「分かってるよ」
父親はそれだけ言って、自分の部屋へ向かった。
……意外とあっさり終わったな。というか、楓が報告しているから、他に聞くこともないんだろう。俺が病院で何を言われたのかも、ミミから聞いている。俺の状態についても、さっき母親が確認している。
これ以上、俺に聞く必要はない。
そうしているうちに、少し遅めの夕食ができた。
「翼、今日はしっかり食べなさいよ」
テーブルに並べられた料理を見る。
「……なんか、いつもより健康的じゃない?」
「当たり前でしょ」
主菜はエビ入りの八宝菜……野菜もたっぷり入っている。さらに温野菜の中にはブロッコリー、ほうれん草のお浸しに、卵スープまである。
「打撲とか筋肉痛とか、身体が傷んでいる時に良いものをいろいろ入れてるからね。あんたが怪我人なんだから、これくらいするわよ。ちゃんと食べなさい」
「いただきます」
八宝菜を一口食べる……エビの食感と野菜の甘みがちょうどいい。温野菜も食べる。ブロッコリーは柔らかく、それでいて食感も残っている。ほうれん草のお浸しも美味しい。
卵スープまで飲むと、身体の中から少し温まるような感覚があった。
「……なんか、回復しそう」
「そういうものを作ったんだから、ちゃんと回復してもらわないと困るわ」
母親が満足そうに頷く。
夕食を終えると、また体温を測られる。
「……38度、まだ下がらないわね」
「さっき測ってから、まだ時間たってないよ……いくら食事食べたからって、マンガじゃないんだから、すぐには下がらないよ」
「本当に大丈夫なのかしら……」
母親が心配そうに俺を見る。すると、ミミが母親の足元へ近づいた。
「にゃ」
「ミミちゃん、何?」
楓がミミを見る。
「……え?」
「どうした?」
「ミミちゃんが、お兄ちゃんのスキルのキャンプ設営の範囲内にいれば、怪我の治りも早くなるって言ってる」
今、なんて?
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