108 信用のない翼
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ミミについていくと、リビングのソファーまで誘導された。
ミミはソファーへ飛び乗る。
そして、俺を見る。
「……床に座れって?」
「にゃ」
どうやら、そのようだ……俺が床へ座ると、ミミは俺の目の前に移動してきた。
「報告しろってことだな……」
なんとなく、そんな気がする。俺は母親や楓に話したのと同じように、今日の診察結果をミミへ話した。
熱は身体の回復による可能性が高いこと、怪我は順調に治っていること、1週間ほどで完治するかもしれないこと、2~3日はまだ熱が出るかもしれないこと、湯船やサウナは禁止されたこと。
「……こんな感じだった」
ミミがじっと俺を見る。
「にゃ」
どうやら満足したらしい。そして、ソファーを前足でタシタシと叩いて、俺を見る……もう一度、ソファーをタシタシ。
「座れってことか?」
「にゃ」
俺は言われるまま、ソファーに座り直すとミミが、俺の膝の上で丸くなった。そして、いつものように俺を見る。
「ブラッシングか?」
間違いない、ブラッシングしろという顔をしている。
家を出る前までは、俺のことを一応怪我人として扱っていたはずだ。それなのに帰ってきたら、床に座らされて、報告を要求されて、そしてブラッシングまで要求される。
「もう怪我人だと思ってないだろ……まあ、いいけど」
ブラシを取り出し、俺がブラッシングを始めると、ミミは満足そうに目を細めた。
「本当に自由な猫だな」
そんなところも可愛い。俺自身、身体が普通に動くし、調子が悪いわけでもない。だからミミも、構わず俺にブラッシングさせているのだろう。
ニュースを見ながら、ミミが満足するまでブラッシングを続けていると、玄関から音がした。
その瞬間、ミミが跳ね起きる。さっきまで膝の上で丸くなっていたのに、すぐに玄関へ向かっていった。
「ただいま~」
楓の声だ。
「おかえり」
「お兄ちゃん、どうだった?」
「医者が言うには……」
俺が話そうとすると、楓はミミを見る。
「ミミちゃん、どうだった?」
「にゃー」
「そっかそっか」
「……何を聞いてるんだ?」
楓が不思議そうな顔をする。
「昨日のこととか、今日の病院のこと」
「いや、ミミに聞いて分かるのか? 確かに、色々話してるけど……ニュアンスが変わらないか?」
「分かるよ」
楓はミミの話を聞きながら、器用にニュースを見始めた。
「ミミちゃんが、お兄ちゃんに話を聞いたっていうから、その話とこっちが聞いた話に差異がないか確認してるだけだよ」
俺って信用ないんだな……
「俺って信用ないんだなって顔してるね……あるわけないじゃん」
「即答かよ」
「熱が出ているのに、身体が動くからって気にもせずバイトに行こうとするくらいだから、信用なくてもしょうがないよね、ミミちゃん」
「にゃ」
ミミが一鳴きする。
「ほら、ミミちゃんも同意してる」
俺は苦笑するしかなかった……そのまま2人と1匹でニュースを見ていると、ダンジョン法についての話題が出てきた。
「適用できる法律がないからっていって、無罪放免だなんて、本当に信じられないよね!」
楓がぷりぷりと怒っていて、ミミも、
「にゃー、にゃー」
「ミミちゃんもそう思うよね!」
「にゃ!」
どうやら意見が一致したらしい。
「法律的な制裁は受けていないけど、本人だけじゃなくて家族も亡命するくらいには、身の危険を感じていたみたいだからな」
「それで留飲を下げろってこと?」
「まあ、そういうことなんだろうな」
俺は少し考える。
「今思えば、ネット民が煽っただけで、あそこまではならないだろ」
「そうかな?」
「良くて炎上するくらいじゃないか? それこそ、情報操作でもして、日本にいられないようにしたんじゃないかと思うくらいだ」
証拠がなければ犯罪じゃない……そういう発想で考えるなら、ダンジョン探査局や関係者が裏で動いた可能性も、完全には否定できない。
もちろん、本当のところは分からない。
「まあ、考えても仕方ないけどな」
ニュースを見ながら、そんな話をする。
それにしても……ぽっかりと1週間ほど暇な時間ができてしまった。
バイトは休み、大学も今はない、課題も特にない。
「……暇だな」
キャンプに行こうものなら、間違いなく母親に怒鳴られる。というか、父親や楓、ミミまで全員敵に回すことになるだろう。
スキルの実験もできない。今の状態でキャンプ設営のスキルを使って何かするのも、絶対に止められる。
「……本当に暇だな」
「当たり前だよ! 休むんだから」
楓に即答された。
「大人しくしてるの!」
ミミも俺の膝の上で、
「にゃ」
と鳴いた。
……どうやら、何もなくて自由なはずなのに、俺に自由はないらしい。
キャンプ好きの俺にとって、暇なのに1週間も何もせず家で過ごすというのは、思っていた以上に厳しい気がする。
でも、今だけは仕方ないか。完治するまでは、大人しくしていよう。
そう思いながら、俺は膝の上で丸くなっているミミの背中を、ゆっくりと撫でた。
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