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010 夏休み目前

アクセスありがとうございます。

 ゴールデンウィークが終わってから、気付けば7月も終わりに近づいていた。大学、バイト、帰宅、ここ数か月の生活は、ほとんどそれだけだった。


 朝は眠そうな顔をした学生たちと一緒に電車に揺られ、大学で講義を受け、空き時間を適当に潰し、夕方からは居酒屋で働く。帰宅する頃には日付が変わることも多かった。


 最初の頃は、周囲もダンジョンやスキルの話で騒がしかったが、それも徐々に落ち着いてきていた。もちろん話題自体は消えていない。ただ、みんな少しずつ現実を理解したのだと思う。


 命懸けだということを……


 だからこそ、以前みたいな浮ついた空気は減っているのだろう。その代わり、大学内の人間関係は微妙に変化していた。


 特に、俺が何となく一緒にいたゲーム好きのグループとは、完全に距離ができている。理由は単純だった。


 呼ばれなくなったのだ。


 最初は「今日どうする?」みたいな連絡もあった。だが、いつ頃からか、それがなくなっていた。別に喧嘩したわけじゃない。ただ、自然になくなった。


 向こうは向こうで、探索者登録だとか、実際にダンジョンへ行った話だとか、そういう話題で盛り上がっているらしい。俺はそこへ混ざれなかった。


 キャンプ設営なんてスキルでダンジョンへ行く気にはならなかったし、無理して話を合わせる気もなかった。結果として、気付けば1人でいる時間が増えていった。


 昼休みも適当にスマホを見ながら過ごし、講義が終わればそのまま帰るか、バイトへ向かう……少し前なら、そのままゲームセンターへ行ったり、ファミレスでだらだらしたりしていた気もする。


 でも今は、そういうことも減った。その代わり、金は残った。


「……なんか、普通に貯まってるな」


 月末、口座残高を確認した時は少し驚いた。


 バイト代自体はそこまで多くない。だが、付き合いで使う金が減ったせいで、以前よりかなり余裕ができている。昼飯も大学の学食で済ませることが多いし、遊びに行く頻度も減った。


 家へ帰れば、ゲームをしたり、小説を読んだりして過ごしている。元々インドア趣味は嫌いじゃない。


 新作ゲームを買って、冷房の効いた部屋でだらだら遊ぶ休日は普通に楽しかった。ネット小説を読み始めると、気付けば数時間経っていることもあった。


 ただ、それだけだと少し息が詰まる時もあった。そういう時は、近場のキャンプ場へ行く。


 ゴールデンウィーク以降も、月に1回くらいのペースではキャンプを続けていた。とはいえ、以前みたいに遠出するわけではない。


 せいぜい隣県くらいだ。1泊2日で、適当にテントを張って、飯を作って、ぼんやり過ごす……ただ、それだけ。でも、不思議と落ち着いた。やっぱり、キャンプが好きなんだろうな。


 テントを設営し、タープを張って椅子へ座ると、それだけで肩の力が抜ける感覚がある。虫も妙に寄ってこないし、夜もよく眠れる。


 最初は偶然だと思っていたが、何度行っても変わらなかった。周囲のサイトで蚊取り線香を焚いている人がいても、俺の周囲にはほとんど虫が来ない。だからといって、何か劇的な変化があるわけでもない。


 ただ、快適だった。


 それだけだ。でも、その「それだけ」が、今の俺にはかなり大きい。大学にいる時みたいな妙な息苦しさが、キャンプ場では綺麗に消える。誰かに気を遣う必要もなし、好きなタイミングでコーヒーを淹れて、好きな物を焼いて食べる。


 夜になればランタンを眺めながら、ぼんやり過ごす。そんな時間が、思っていた以上に俺には大事になっていた。




 そして、7月下旬。


 大学では、ようやく夏休み前の空気が漂い始めていた。試験期間が近付き、教室では珍しく真面目な話題が増えている。



「単位やばい」


「レポート終わってねえ」


「夏休み入ったら、ダンジョンに潜る予定なんだけど」



 そんな声を聞き流しながら、俺は講義ノートを閉じる。長かった前期も、あと少しだ。


 そして今年の夏休みは、予定がほとんどない。バイトのシフトは入っているが、それ以外は白紙だった。普通なら少しくらい焦るのかもしれない。


 旅行だとか、遊びだとか、大学生らしいイベントがあるわけでもない。でも、不思議と嫌な感じはしていない。むしろ、少し楽しみですらある。


 理由は単純だ。金がある。


 付き合いが減ったことで、想像以上に余裕ができていた。だから最近は、スマホでキャンプ用品を見る時間が増えていた。


 新しいタープ、コンパクトな焚き火台、少し高めのクーラーボックス、調理用の鉄板も気になっている。


「……夏休み、かなり遊べるな」


 思わず口元が緩む。連泊してもいいし、今までより少し遠くまで行くのもありだ。


 標高の高いキャンプ場で涼しく過ごすのもいいし、湖の近くも気になる。両親に車を借りられれば、荷物を積み込んで好きな場所へ行ける。


 考えているだけで楽しかった。


 講義が終わり、外へ出る。もう夕方だというのに、うだるような暑さがあり、夏本番になったらどうなってしまうのやら?


 蝉の声を聞きながら、俺はスマホでキャンプ場の予約サイトを開いた。


「さて……今年の夏は、どこ行こうかな」


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

ブクマや評価をしていただけると幸いです。

これからもよろしくお願いします。

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