009 変わりゆく世界、日本の方針
アクセスありがとうございます。
ゴールデンウィークが終わり、俺はいつも通り大学へ通っていた。
朝の電車は連休前と変わらず混雑していて、キャンプ場で聞いていた鳥の声とは正反対の世界だ。人の話し声、スマホの通知音、吊り革が揺れる音。数日前まで軽井沢にいたのが嘘みたいだった。
大学へ到着すると、ダンジョンの話題で騒がしくなっていた。
「お前、マジでスキルレベル上がったの?」
「スキル貰ったときみたいに音声が流れてな、そしたら身体能力やばいのなんのって。昨日測ったら、50メートル走の記録更新したし」
「探索者ギルドの配信見た? あの人たち、もう第3階層だって」
教室のあちこちでそんな会話が飛び交っている。世界中にダンジョンが現れてから、まだそこまで時間は経っていない。それでも、少しずつ変化が表に出始めていた。
特に戦闘系スキルを持っている人たちは分かりやすい。
剣術、槍術、格闘術、身体強化。そういうスキルを持つ人たちは、ダンジョンへ潜りスキルにあった武器を使い、戦うことでスキルレベルが上がり、その恩恵か身体能力まで向上しているらしい。
そんな大学だが、明らかに雰囲気が変わった奴がいた。連休前までは普通だったのに、今は妙に自信満々というか、体つきまで変わって見える。
「なあ、お前スキル何だった?」
同じ講義を受けている男子学生が、軽い調子で話しかけてきた。
「キャンプ設営」
「……え?」
「キャンプ設営」
「それって何するスキル?」
「俺も知らない」
「あ~……まあ、そういうのもあるんだな」
微妙な空気になった。
相手も反応に困っているのが分かる。俺だって困っている。キャンプ設営と言われても、どう考えても戦闘向きじゃない。というか、現状では何ができるのかすら分かっていない。
キャンプでテントを張っても特に変化はなかったし、説明も曖昧だった。スキルにはレベルが存在するらしいが、俺のスキルはレベルを上げる方法すら分からない。
大学内では、すでに探索者気取りの学生も増えていた。講義へ来なくなった奴もいる。
ダンジョンで稼げるらしい、という噂が広まり始めているからだ。魔石と呼称された宝石のような石はともかく、素材にはかなり高値が付くらしい。
もちろん、全員が成功しているわけではない。ネットでは毎日のように事故の話が流れていた。第2階層で魔物に囲まれただとか、連携ミスで大けがをしただとか、救助要請が遅れただとか。
最初の頃は、みんな少し浮かれていたと思う。
ゲームみたいだ、と。
スキルを手に入れて、ダンジョンへ潜って、魔物を倒して稼ぐ。そんな非現実が現実になったことで、変にテンションが上がっていたんだろう。
でも、実際は違う。ダンジョンで死ぬ。その事実が、少しずつ世界へ広がり始めていた。
1週間ほど経った頃には、ニュースでも死亡事故が普通に報道されるようになっていた。
『本日未明、〇〇県のダンジョンにて3名が死亡——』
『海外では大型魔物による被害も確認されており——』
『現在、政府は探索者制度に関する新たな規制を——』
スマホを開けば、そんな情報ばかり流れてきて、大学の空気も少し変わった。最初は夢を見ていた連中も、現実を理解し始めたらしい。
「いや、普通に危なくね?」
「第3階層から急に難易度上がるとか言われてるし……」
「死ぬとかシャレにならんだろ」
教室の会話にも、どこか緊張感が混ざり始めていた。そんな中でも、俺の日常はほとんど変わらない。大学へ行き、講義を受け、バイトに行き帰宅する。時々、キャンプ道具を眺めながら次はどこへ行こうか考えるくらいだ。
ただ、ひとつだけ違和感があった。
虫刺されだ。
連休中、あれだけ自然の中にいたのに、本当に一度も刺されていない。偶然かと思ったが、気になり調べてみたら、3泊4日もすれば60~70%くらいは虫に刺されていると判明した。
俺はキャンプ中、テントの付近では虫刺されどころか、虫に煩わされてもいないんだよな……何となく違和感が残った。
とはいえ、それだけだ。だから深く考えてはいなかった。
そんなある日、昼休みにスマホを見ていると、政府から正式な発表が出ていた。
『ダンジョン探索資格制度について』
ついに来たか……内容を確認すると、今後は許可を得た有資格者しかダンジョンへ入れなくなるらしい。
理由は単純で、死亡事故が増えすぎたからだ。加えて、無秩序な探索者によって、周囲の治安が悪くなっていた。
これからは、探索者登録のために講習を受け、最低限の装備を入手することで、一定条件を満たした者だけが正式にダンジョンへ入れるようになるようだ。
「まあ、そりゃそうなるよな……」
今までが無法状態すぎた。スキルを持っているだけの素人が、ろくな準備もなく命懸けの場所へ入っていたのだから。教室内でもすぐにその話題で持ち切りになる。
「資格ってめんどくさくね?」
「でも無いと入れないんだろ?」
「プロ探索者みたいなの作る気なのかな」
「企業が囲い込み始めてるって話もあるぞ」
世界は、少しずつ変わっていく。ゲームみたいな非現実が、制度として現実へ組み込まれ始めていた。
俺はスマホを閉じ、窓の外を見る。
ダンジョン。スキル。探索者。
世の中は大騒ぎになっていても、俺のスキルは、相変わらず何ができるのか分からないままだ。
「キャンプ設営、ねぇ……」
小さく呟く。今のところ分かっているのは、俺がキャンプへ行くと妙に落ち着くことくらいだ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや評価をしていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




