105 優秀な筋肉と体の変化
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数回の呼び出し音の後、すぐに繋がる。
「もしもし、健司?」
『翼か。どうした?』
「顧問弁護士に連絡しようと思ってる。今日、警察から相手側も被害届を出したって連絡があったから」
『ああ、それなら大丈夫だぞ』
「え?」
『顧問弁護士への連絡は、こっちでしておいた』
「……もう?」
『俺の親父にも手伝ってもらってるからな。今回の件は、ある程度こっちに任せてもらって構わないぞ。必要があれば、こっちから連絡する』
「いや、でも……」
『翼は翼で、しなきゃいけないことがあるんだろ? 俺の方は就職の内定ももらってるから、そこまで余裕がないわけでもないしな』
「……内定?」
『ん? 言ってなかったか?』
「初耳なんだけど」
こいつ、さらっと言いやがった。
ダンジョンに筋トレ感覚で潜っているから、大学生活の大半を筋トレとダンジョンに使っているような印象だった。
まさか就職先まで決まっていたとは。
「じゃあ、怪我したから就職活動が大変になるとか、そういう心配はないのか」
『まあな。だから、今回のことは俺に任せてくれればいい』
「分かった。助かる」
『それじゃ、何かあったら連絡するわ』
「ありがと」
通話を切る。
……さすが、頭の良い筋肉は違う。本当に頼りになるな、こいつ。
しかも、その直後だった。
スマートフォンに通知が入る。今回の被害届について、全員に連絡が入った……健司からだった。
被害届について、必要なことはしっかりと伝えている。ただ、女子たちが余計な不安を感じないように、細かい部分についてはあえてぼかしているようだった。
警察から何を言われたのか、これからどうなるのか、そのあたりを簡潔にまとめた上で、何かあれば共有するように書かれている。
……本当に頼りになる。
「それにしても……」
俺はスマートフォンを眺めながら呟く……健司って、就職の内定をもらってたんだな。ダンジョンで筋トレしているのは、本当に趣味でやっていたのか。
昨日は怪我をしていたから大丈夫なのかと思ったけど、あいつなら自分の身体の状態くらい、ちゃんと見極めているのだろう。
俺より明らかに頑丈そうだしな。1人で納得していると、父親から声がかかった。
「そういえば、今日テレビでやっていた裁判の話なんだが……」
「裁判?」
「ダンジョンの事件の件だ」
「ああ、それなら昼に健司と話してた」
俺は、テレビで見た内容を父親に説明した。
最高裁の判決……現行法ではダンジョン内の犯罪を裁けないこと。そして、ダンジョン法の制定へ向けて動いていること。
「なるほどな……」
父親は少し考え込んだ。
「一応、顧問弁護士の方に、こちらの弁護士の連絡先を教えておいてくれ」
「こっちの弁護士?」
「ああ。今後、何か連絡を取る必要が出てくるかもしれない。何もないとは思うが、必要になった時にすぐ連絡が取れるようにしておいた方がいい」
「分かった」
どうやら、俺が健司と電話している間に顧問弁護士の方から父親にも連絡があったらしい。
俺が思っていた以上に、周囲が動いてくれている。
俺も何かした方がいいんだろうけど、今は何をすればいいのか分からない……そんなことを考えているうちに、身体が妙に熱っぽくなってきた。
「ちょっと暑いな……」
まだ寝るには早い時間だったが、今日はもう休むことにした。水シャワーを浴びて、身体を冷やす。打撲した場所も、できるだけ熱を持たないように軽く冷やしておく。
そして部屋へ戻り、布団へ入る。
すると、しばらくして――カチャ……
「ん?」
部屋の扉が開いた……器用に扉を開けて入ってきたのは、ミミだった。
「今日も来たのか」
「にゃー」
ミミは俺のところまで歩いてくると、昨日と同じように添い寝を始めた。ただ、今日はお腹の上ではない。
枕元で丸くなり、顔を俺の髪の毛へ埋めている。
「……まあ、いいか」
ミミの体温を感じながら目を閉じる。
そして、そのまま眠りについた。
朝……
「……ん?」
目を覚ました……昨日とは明らかに違う。身体は普通に動くし、痛みも昨日と大きく変わっていない。でも、明らかに熱がある。
「……暑い」
枕が濡れていたし、Tシャツも若干湿っていた。汗をかいているのだから、身体が体温を下げようとしているのだろう。ただ、今回の発熱は打撲によるものだ。身体が頑張って熱を下げようとしても、簡単にはいかないのかもしれない。
「タオルケットも……湿ってるな」
これは洗った方がいいか……布団も干したい。
窓の外を見る。今日は綺麗に晴れているようだ。
「よし。布団も干そう」
ベランダに布団を出して、枕カバーを外した枕も置く。タオルケットと枕カバーを持って1階へ降りる。
「どうしたの翼?」
母親が不思議そうにこちらを見る。
「タオルケット、洗った方がいいかなと思って」
「この前洗ったばかりだけど……くさくなったの?」
「いや、汗で濡れたから」
「汗?」
母親の視線が俺へ向く。
「昨日から身体が熱っぽかったから、汗をかいたみたいで……」
「ちょっと座りなさい」
「え?」
「いいから」
有無を言わさずソファーへ座らされた。そして、体温計を腋に挟まれる。
「測るからじっとしてて」
「いや、本当に身体は普通に動くんだけど……」
「いいから」
しばらく待つ……体温計が鳴った。
「……あれ?」
母親が表示を見る。
「汗で正確に測れてないわね。ちゃんと拭いて、もう一度」
「そこまでしなくても……」
「いいから」
再び体温計を入れられる。そして、しばらくして……
「翼、あなた大丈夫だって言ってたじゃない!」
「いや、大丈夫だって」
「それなのに、38度も体温があるってどういうこと!?」
「熱はあるけど、本当に身体を動かすことには問題ないんだって」
「問題ないかどうかを決めるのは、あなたじゃないでしょう!」
「……はい」
反論できない……しかも、そこへ楓とミミまでやってきた。
「お兄ちゃん、熱あるの?」
「にゃ!」
「ミミちゃんも心配してるじゃん!」
「いや、だから――」
「寝てなさい!」
「にゃ!」
……ミミまで同意している。完全に逃げ道がなくなった。
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