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『君と出会った春に』  作者: ともり。


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文化祭

# 第九話 文化祭


九月。


高校に入って初めての文化祭。


校内は朝から騒がしかった。


廊下には飾り付け。


教室から聞こえる笑い声。


段ボールを運ぶやつ。


メイクをして騒いでる女子。


中学とは比べものにならないくらい、

学校全体が浮かれていた。


「高校生って感じ。」


ゆうまが呟く。


「今さら?」


隣で、

まさきが笑った。


朝、

昇降口で偶然会って、

そのまま一緒に教室へ向かっていた。


「お前のクラス何やんの。」


「お化け屋敷。」


「ベタ。」


「そっちは?」


「喫茶店。」


「似合わな。」


「うるさ。」


二人で笑う。


その時間だけは、

中学の頃と変わらなかった。


---


でも。


文化祭が始まると、

自然と別行動になった。


クラス。


準備。


友達。


それぞれ、

やることがある。


「高瀬ー!」


向こうから、

まさきのクラスメイトが呼ぶ。


「ちょっと手伝って!」


「今行く!」


まさきはゆうまを見た。


「ごめん、またあとで。」


「ん。」


軽く手を振る。


その背中を見送りながら、

ゆうまは少しだけ息を吐いた。


“またあとで”


高校に入ってから、

その言葉が増えた気がする。


---


喫茶店は思っていたより忙しかった。


「西條!

注文お願い!」


「今行く!」


文化祭独特の騒がしさ。


知らない人たち。


笑い声。


最初は面倒だと思っていたけど、

意外と楽しかった。


「西條って意外と接客できんじゃん。」


クラスメイトが笑う。


「失礼。」


「もっと静かなやつかと思ってた。」


そんな風に言われることも増えた。


高校に入って、

少しずつ自分の居場所ができ始めている。


それは、

良いことのはずだった。


でも。


ふとした瞬間、

まさきを探してしまう。


廊下。


中庭。


人混みの向こう。


無意識に、

姿を探している。


---


午後。


休憩時間。


ゆうまは飲み物を買おうと、

中庭へ向かった。


すると。


遠くから、

聞き慣れた笑い声がする。


まさきだった。


知らないクラスメイトたちに囲まれて、

楽しそうに笑っている。


女子とも普通に話していて、

みんな自然にまさきの周りへ集まっていた。


その光景を見た瞬間。


胸の奥が、

少しだけ冷たくなる。


「……何してんだろ。」


小さく呟く。


別に、

悪いことじゃない。


むしろ普通だ。


高校なんだから、

新しい友達ができるのは当たり前。


わかってる。


ちゃんとわかってる。


でも。


自分の知らない場所で、

まさきの世界が広がっていく感じがした。


その輪の中に、

自分はいない。


それが、

少しだけ苦しかった。


---


「あ。」


突然、

まさきがこちらに気づく。


「ゆうま!」


手を振りながら、

こっちへ来る。


その瞬間。


さっきまでの感情を、

慌てて隠した。


「何してんの。」


「休憩。」


「そっか。」


まさきは少し笑う。


「喫茶店見に行ったけど、

いなかった。」


その一言だけで、

胸が少し軽くなる。


「忙しかったし。」


「人気だったな。」


「まぁ。」


沈黙。


周りは騒がしいのに、

その瞬間だけ少し静かに感じた。


「あとでそっち行っていい?」


まさきが聞く。


「……別にいいけど。」


「なにその言い方。」


笑いながら、

まさきが軽く肩を叩く。


その触れ方が、

やけに自然で。


また胸が苦しくなる。


---


文化祭の終わり。


夕方の校舎は、

少し静かになっていた。


片付けの音。


遠くから聞こえる笑い声。


「疲れた……。」


ゆうまが机へ突っ伏す。


「お疲れ。」


いつの間にか、

まさきが教室へ来ていた。


「そっち終わったの。」


「今。」


まさきは近くの椅子へ座る。


中学の頃みたいな距離。


それだけで、

少し安心した。


「文化祭どうだった。」


「まぁ楽しかった。」


「だな。」


まさきが笑う。


その横顔を見ながら、

ゆうまは思う。


高校に入って、

変わったことはたくさんある。


クラスも。


友達も。


毎日も。


でも。


こうして隣にいる時間だけは、

まだちゃんと残っていた。


それが、

少しだけ嬉しかった。


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