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『君と出会った春に』  作者: ともり。


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既読

# 第十話 既読


十月。


少しずつ、

空気が冷たくなってきた頃。


高校生活にも、

すっかり慣れていた。


授業。


昼休み。


放課後。


毎日同じように過ぎていく。


でも。


気づかないうちに、

少しずつ変わっているものもあった。


---


「西條、今日帰りどうする?」


放課後。


クラスメイトに声をかけられる。


「ゲーセン行かね?」


「あー……。」


ゆうまは少し迷ってから、

スマホを見る。


通知は来ていない。


前なら。


放課後になる前に、

まさきからLINEが来ていた。


『今日帰る?』


その一言が、

当たり前みたいに。


でも最近は、

それが少なくなっていた。


「西條?」


「あ、ごめん。」


ゆうまは顔を上げる。


「今日は帰る。」


「りょー。」


クラスメイトは、

軽く手を振った。


---


教室を出る。


廊下は騒がしかった。


部活へ向かう声。


笑い声。


その中に、

聞き慣れた声が混ざる。


「高瀬ー!」


向こうの廊下。


まさきが友達に囲まれて笑っていた。


その顔は、

楽しそうだった。


ゆうまは少しだけ立ち止まる。


目が合えば、

きっと普通に話す。


でも。


なんとなく、

声をかけられなかった。


「……。」


そのまま、

静かに視線を逸らす。


別に、

嫌いになったわけじゃない。


でも。


“前みたい”では、

なくなってきていた。


---


帰り道。


一人で歩く住宅街。


夕方の空。


少し冷たい風。


中学の頃は、

毎日一緒に帰っていた。


高校に入ってからも、

最初はそうだった。


でも。


クラス。


友達。


新しい環境。


少しずつ、

お互いの時間が増えていく。


それは普通のことだ。


ちゃんとわかってる。


なのに。


胸の奥が、

少しだけ苦しかった。


---


夜。


机に教科書を広げながら、

ゆうまはスマホを見る。


LINE。


一時間前に送ったメッセージ。


『明日の課題って英語ある?』


既読は、

まだついていなかった。


前なら、

すぐ返ってきたのに。


「……何やってんだろ。」


小さく呟く。


別に、

大したことじゃない。


忙しいだけかもしれない。


友達といるのかもしれない。


わかってる。


でも。


既読がつかないだけで、

こんなに気になる自分が嫌だった。


---


二十分後。


ようやく通知が鳴る。


『あるっぽい』


短い返信。


それだけなのに、

胸の奥が少し軽くなる。


ゆうまは思わず笑ってしまった。


『遅』


送ると、

すぐ返信が来る。


『風呂入ってた』


『女子かよ』


『失礼』


そのテンポに、

少し安心する。


まだ、

ちゃんと繋がってる。


そう思えた。


でも。


『最近忙しい?』


送ろうとして、

指が止まる。


重いかもしれない。


面倒だと思われるかもしれない。


そう考えると、

送れなかった。


結局、

画面を閉じる。


聞けなかった。


---


翌日。


昼休み。


廊下の窓から、

グラウンドをぼんやり見ていると。


「ゆうま。」


後ろから声がする。


振り返ると、

まさきだった。


「何してんの。」


「別に。」


「昼行かね?」


自然な声。


いつも通りの顔。


そのことに、

少しだけ安心する。


二人で並んで歩く。


でも。


前より、

少し会話が減っていた。


沈黙が増えた。


気まずいわけじゃない。


でも。


どこか、

距離を感じる。


「最近クラスどう。」


ゆうまが聞く。


「んー、

まぁ楽しい。」


まさきが笑う。


「文化祭以降、

なんか仲良くなった。」


その言葉に、

胸が小さく痛む。


「そっか。」


ゆうまは笑った。


ちゃんと、

笑えたはずだった。


---


昼休みの終わり。


教室へ戻る途中。


「じゃ、また。」


まさきが軽く手を振る。


「ん。」


短い会話。


短い時間。


それだけなのに。


離れていく背中を見ていると、

胸が苦しくなる。


“また明日”


その言葉が。


少しずつ、

遠くなっている気がした。


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