卒業
# 第六話 卒業
三月。
教室の後ろに貼られていた
『卒業まであと○日』の紙は、
もうなくなっていた。
代わりに黒板には、
誰かが描いた大きな文字。
『三年間ありがとう』
その文字を見るだけで、
少しだけ胸が苦しくなる。
「卒業とか実感ない。」
ゆうまが机に頬杖をつきながら言う。
「わかる。」
前の席で、
まさきが笑った。
受験が終わってから、
クラス全体の空気は変わっていた。
ピリついた感じは消えて。
みんな、
どこか安心した顔をしている。
授業もほとんどなくて、
自習か、
映画を見るか。
そんな毎日。
「高校入ったらさ。」
クラスメイトが騒ぐ。
「彼女作るわ。」
「無理だろ。」
「お前こそ。」
周りが笑う。
その声を聞きながら、
ゆうまはぼんやり窓の外を見た。
春の風が、
少しだけ暖かい。
もうすぐ、
この教室とも終わりなんだと思った。
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昼休み。
「ゆうま。」
まさきが近づいてくる。
「写真撮ろうぜ。」
「まだ早くね?」
「卒業式絶対バタバタする。」
確かに、
そんな気がした。
「ほら。」
まさきがスマホを向ける。
「もっと寄れって。」
「近い。」
「入んない。」
肩が触れる。
その距離に、
ゆうまの心臓が少し速くなる。
「撮るぞ。」
カシャッ。
シャッター音。
画面の中には、
笑っている二人が映っていた。
「なんか普通に楽しそう。」
まさきが笑う。
「普通に楽しいし。」
ゆうまが言うと、
まさきは少しだけ嬉しそうに笑った。
その顔を見るたび、
胸の奥が熱くなる。
でも。
この気持ちは、
まだ言えなかった。
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卒業式当日。
体育館には、
静かなピアノの音が流れていた。
卒業証書。
校長先生の話。
泣いている女子。
笑っている男子。
全部が、
“最後の日”だった。
ゆうまは何度も、
まさきの背中を見ていた。
同じ制服。
同じ教室。
同じ日常。
それが今日で終わる。
でも。
終わる気がしなかった。
高校でも、
また会えるから。
また一緒に帰って。
また笑って。
きっと、
今までと変わらない。
そう思っていた。
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式が終わると、
教室は一気に騒がしくなった。
「寄せ書き書いて!」
「第二ボタンくれ!」
笑い声が飛び交う。
まさきは友達に囲まれながら、
困ったように笑っていた。
やっぱり、
誰とでも話せる。
そういうところ、
すごいと思う。
「ゆうま!」
呼ばれて顔を上げる。
「最後に撮ろ。」
まさきがまたスマホを持っていた。
「また?」
「最後だから。」
窓際へ並ぶ。
夕方の光が、
教室をオレンジ色に染めていた。
「高校入っても、
絶対遊ぼうな。」
まさきが言う。
「当たり前じゃん。」
ゆうまは笑う。
その時は、
本気でそう思っていた。
離れる未来なんて、
想像もしていなかった。
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校門を出る頃には、
空が少し赤くなっていた。
春の風が吹く。
制服の裾が揺れる。
「終わったな。」
まさきが言う。
「だな。」
少し寂しい。
でも。
嫌な終わりじゃなかった。
むしろ、
始まりみたいだった。
「高校楽しみ?」
まさきが聞く。
「まぁ、
少しは。」
「俺も。」
そう言って笑う顔は、
中学で初めて会った時と、
少しだけ変わっていた。
でも。
隣にいると落ち着く感じは、
あの頃のままだった。
「ゆうま。」
「ん?」
「高校でも、
よろしくな。」
その言葉に、
胸がぎゅっと締めつけられる。
ゆうまは少しだけ笑った。
「……こちらこそ。」
春の風が吹く。
桜の花びらが、
ゆっくり舞っていた。
その時はまだ。
この“当たり前”が、
ずっと続くと思っていた。




