受験
# 第五話 受験
十二月。
空気が、
急に冷たくなった。
朝の教室には、
白い息と、
小さな緊張感が混ざっている。
「寒っ……。」
ゆうまはマフラーに顔を埋めながら、
自分の席へ座った。
ストーブの前には、
すでに人が集まっている。
「そこずる。」
「早い者勝ちな。」
そんなやり取りを聞きながら、
ゆうまはぼんやり窓の外を見た。
冬の空は、
やけに白かった。
「ゆうま。」
顔を上げると、
まさきがカイロを差し出してきた。
「手冷た。」
「……神。」
「大袈裟。」
まさきが笑う。
その笑顔を見ると、
少しだけ安心した。
最近、
ずっと落ち着かなかったから。
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受験が近づくにつれて、
教室の空気も変わっていった。
休み時間。
問題を出し合うやつ。
志望校の話をするやつ。
「模試どうだった?」
そんな会話が増えていく。
ゆうまは、
そういう空気が苦手だった。
点数。
順位。
判定。
数字で比べられるたび、
息が詰まりそうになる。
「西條、
志望校変えんの?」
クラスメイトに聞かれて、
ゆうまは少し肩をすくめた。
「まだわかんね。」
「東ヶ丘だっけ?
大変じゃね?」
「まぁ。」
曖昧に笑う。
本当は。
不安だった。
落ちたらどうしよう。
まさきと別々になったらどうしよう。
考えれば考えるほど、
怖くなった。
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放課後。
教室には、
数人しか残っていなかった。
窓の外は、
もう暗くなり始めている。
まさきは問題集を開きながら、
静かにシャーペンを動かしていた。
カリカリ、
という音だけが響く。
ゆうまはその横顔を、
ぼんやり見つめる。
「……まさき。」
「ん?」
「怖くないの。」
まさきの手が止まる。
「受験?」
「うん。」
少し沈黙。
それから。
「怖いよ。」
まさきは小さく笑った。
「普通に。」
その答えが、
少し意外だった。
まさきは、
もっと平気そうに見えていたから。
「でも。」
まさきがゆっくり言う。
「ゆうまいるし。」
心臓が、
大きく鳴る。
「……なにそれ。」
「いや、
なんか安心する。」
また。
そういうことを、
普通に言う。
ゆうまは視線を逸らした。
こんなの。
好きにならない方が無理だ。
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受験前日。
夜。
机の上には、
開いたままの参考書。
でも、
全然頭に入ってこなかった。
スマホが震える。
『明日やばい。』
まさきからだった。
ゆうまは思わず笑う。
『お前でも緊張するんだ。』
『するだろ普通に』
すぐ返信が来る。
数秒後。
また通知が鳴った。
『落ちたらごめん』
その一言に、
胸が苦しくなる。
“離れる”
その可能性を、
初めてちゃんと現実として感じた。
ゆうまはスマホを握りしめる。
『受かれよ』
打ってから、
少し迷う。
それから、
もう一文付け足した。
『同じ高校行くんだから』
既読。
少し間が空く。
『……うん』
その短い返信だけで、
胸がいっぱいになった。
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受験当日。
高校の校門前。
知らない制服の人たち。
張り詰めた空気。
冷たい風。
「無理、
帰りたい。」
ゆうまが呟く。
「昨日も聞いた。」
隣で、
まさきが笑った。
「でも緊張する。」
「まぁな。」
少し沈黙。
それから。
まさきが小さく言う。
「終わったら、
遊ぼうな。」
その言葉に、
少しだけ肩の力が抜けた。
「……約束な。」
「うん。」
試験開始のチャイムが鳴る。
二人は顔を見合わせて、
小さく笑った。
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合格発表の日。
高校の掲示板前には、
たくさんの人が集まっていた。
歓声。
泣き声。
ざわめき。
ゆうまは震える手で、
受験番号を探す。
「あ……。」
あった。
自分の番号。
その瞬間。
後ろから、
強く肩を掴まれる。
「ゆうま!」
振り返る。
まさきだった。
「受かった!」
珍しく、
子どもみたいに笑っていた。
「お前は!?」
「俺も!」
次の瞬間。
まさきが思いきり抱きついてくる。
「うわっ。」
「やば、
ほんとによかった……!」
周りの声なんて、
もう聞こえなかった。
ゆうまは、
まさきの制服を少しだけ掴む。
胸の奥が、
苦しいくらい熱かった。
「高校でも、
よろしくな。」
まさきが笑う。
ゆうまも、
小さく笑った。
「……こちらこそ。」
その時はまだ。
ずっと一緒にいられるって、
本気で思っていた。




