進路
# 第四話 進路
九月。
夏休みが終わった教室は、
少しだけ空気が変わっていた。
焼けた肌。
伸びた髪。
「夏休み終わるの早すぎ。」
「宿題終わってない。」
そんな声が飛び交う中、
ゆうまは机に突っ伏していた。
「無理。」
「何が。」
前の席で、
まさきが笑う。
「学校。」
「初日から?」
「だるい。」
「通常運転じゃん。」
そう言って笑う顔を見て、
ゆうまも少し笑った。
夏休み中も、
二人はほとんど毎日話していた。
ゲーム。
通話。
どうでもいいLINE。
『起きてる?』
『暇。』
『通話する?』
そんなやり取りが、
当たり前になっていた。
だから。
夏休みが終わって、
また普通に学校で会えることが、
少し嬉しかった。
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六時間目。
進路説明会。
体育館には、
重たい空気が流れていた。
前では先生が、
受験の話をしている。
「これから本格的に、
進路を決めていきます。」
「高校はゴールではありません。」
周りでは、
真面目にメモを取っているやつもいる。
でも、
ゆうまは全然集中できなかった。
ただ。
隣に座るまさきの横顔を、
ぼんやり見ていた。
真剣な顔。
少し伏せた目。
シャーペンを動かす手。
“ちゃんと考えてるんだな”
ふと思う。
自分だけ、
置いていかれそうな気がした。
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説明会の帰り。
体育館から教室へ戻る途中。
「なぁ。」
ゆうまが小さく言う。
「ん?」
「高校、
ちゃんと決めてんの。」
まさきは少し驚いた顔をした。
「まぁ。」
「すげぇな。」
「兄ちゃんいるし、
なんとなく想像つくから。」
まさきの兄は、
県立高校へ通っていた。
家でも、
進路の話をよくしているらしい。
「ゆうまは?」
「まだ。」
「そっか。」
少し沈黙が落ちる。
廊下の窓から、
秋の風が入ってきた。
「……でも。」
まさきがゆっくり言う。
「同じ高校行けたらいいなとは思ってる。」
その言葉に、
胸が大きく鳴る。
ゆうまは思わず立ち止まりそうになった。
「……え。」
「いや、
楽そうじゃん。」
まさきは笑う。
「ゆうまといると。」
また。
そんなことを、
普通に言う。
本当にずるい。
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放課後。
教室には、
夕日が差し込んでいた。
「ここ難しくね?」
ゆうまが問題集を見ながら唸る。
「どれ。」
まさきが隣へ来る。
肩が近い。
ノートを覗き込む横顔。
少しだけ伸びた髪。
近づくたび、
心臓がうるさくなる。
「ここ。」
「あー、
それこう。」
まさきがノートへ式を書く。
字が綺麗だった。
「……なんでそんな頭いいの。」
「勉強してるから。」
「それが無理。」
「受験どうすんの。」
その言葉に、
ゆうまは少し黙る。
正直、
怖かった。
もし落ちたら。
もし、
別々になったら。
その未来を想像すると、
胸が苦しくなる。
「ゆうま?」
「……いや。」
誤魔化すように笑う。
「頑張る。」
すると、
まさきも少し笑った。
「一緒の高校行こ。」
その言葉は。
ゆうまが思っていたより、
ずっと特別に聞こえた。
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帰り道。
空はもう、
秋の色になり始めていた。
夏ほど暑くない風。
少し長くなった影。
二人で並んで歩く。
「受験終わったらさ。」
まさきが言う。
「遊び行きたい。」
「どこ。」
「わかんない。」
「適当すぎ。」
「でもさ。」
まさきが少し笑う。
「今よりもっと、
自由じゃん。」
高校生。
その響きだけで、
少し未来が楽しみになる。
「高校入ったら、
制服変わるな。」
「だな。」
「ゆうま絶対ネクタイ曲がってそう。」
「なんでだよ。」
「なんとなく。」
二人で笑う。
そんな未来の話が、
嬉しかった。
まるで。
高校へ行っても、
ずっと一緒にいられるみたいで。




