夏
# 第三話 夏
六月の終わり。
教室の窓は開いているのに、
風はほとんど入ってこなかった。
「暑……。」
ゆうまは机に突っ伏したまま呟く。
「まだ六月なんだけど。」
前の席で、
まさきが笑う。
「もう無理。
溶ける。」
「体育のあとだからだろ。」
五時間目は体育だった。
グラウンドを走らされて、
制服に着替えた今でも汗が引かない。
教室には、
汗拭きシートの匂いと、
騒がしい声が混ざっていた。
「西條、顔死んでるぞ。」
クラスメイトが笑う。
「生きてる……。」
「ギリじゃん。」
周りが笑った。
その中で、
まさきも楽しそうに笑っている。
その顔を見ると、
なんだか安心した。
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昼休み。
「今日の給食当たりじゃね?」
まさきがトレーを持って、
ゆうまの前に座る。
「冷凍みかんある。」
「そこ?」
「テンション上がるだろ。」
「子ども。」
「うるさ。」
ゆうまはストローを刺しながら笑う。
周りでは、
みんなが騒いでいる。
誰かが牛乳をこぼして。
誰かが笑って。
先生が怒って。
そんな何でもない昼休み。
でも。
ゆうまは、
この時間がずっと続けばいいと思っていた。
「そういやさ。」
まさきが箸を止める。
「夏休みどうする?」
「寝る。」
「もったいな。」
「暑いし。」
「じゃあ通話するか。」
「毎日?」
「嫌?」
その聞き方がずるい。
嫌なわけない。
「……別に。」
まさきが笑う。
その笑顔を見るだけで、
胸の奥が少し熱くなる。
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放課後。
教室には、
オレンジ色の夕日が差し込んでいた。
部活へ向かう声。
廊下を走る音。
夏前独特の、
少し騒がしい空気。
「ゆうま。」
「ん?」
「アイス食いたくね?」
「食いたい。」
「帰りコンビニ寄ろ。」
「いいよ。」
そんな会話をしながら、
二人で学校を出る。
夕方の空は、
少しだけ夏の色になっていた。
セミの鳴き声。
熱を持ったアスファルト。
制服のシャツが、
少しだけ肌に張りつく。
「暑すぎ。」
ゆうまが言う。
「夏だからな。」
「嫌い。」
「俺わりと好き。」
「なんで。」
まさきは少し考えてから、
笑った。
「なんか、
夏って楽しくね?」
その言い方が、
子どもみたいだった。
ゆうまは思わず笑う。
「なにそれ。」
「いや、なんとなく。」
コンビニに入る。
冷房の冷たい空気に、
二人同時に「涼し……」と声を漏らした。
アイス売り場の前で、
まさきが言う。
「どれにする。」
「ソーダのやつ。」
「安。」
「うるさ。」
「夢ないなー。」
「じゃあまさきは。」
「これ。」
まさきが少し高めのアイスを持ち上げる。
「高校生みたい。」
「いや中学生だから。」
二人で笑う。
そんな時間が、
やけに楽しかった。
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帰り道。
夕焼けが、
ゆっくり街を染めていた。
「なぁ。」
まさきがアイスを食べながら言う。
「ん?」
「高校入っても、
こうやって帰れんのかな。」
ゆうまの胸が小さく鳴る。
「帰れるだろ。」
「クラス違ったら?」
「……それでも。」
まさきは少し笑った。
「ならよかった。」
その一言だけで、
胸がいっぱいになる。
最近、
ずっとそうだった。
まさきの言葉一つで、
嬉しくなって。
期待して。
苦しくなる。
でも、
嫌じゃない。
むしろ、
もっと一緒にいたかった。
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その日の夜。
ベッドに寝転びながら、
ゆうまはスマホを見る。
『今日はありがと』
まさきからLINEが来ていた。
たったそれだけ。
なのに、
自然と顔が緩む。
『今度は奢れよ』
送ると、
すぐ既読がついた。
『じゃあ夏休みな』
夏休み。
その文字を見ただけで、
少し嬉しくなる。
“夏休みも一緒にいる”
それが当たり前みたいに感じて。
ゆうまは小さく笑った。
まだこの時は。
この時間が、
ずっと続く気がしていた。




