放課後
# 第二話 放課後
五月。
新しいクラスにも、
少しずつ慣れてきた頃。
最初はぎこちなかった教室も、
今では笑い声が増えていた。
休み時間になれば、
誰かが騒いでいて。
先生が来れば、
慌てて席に戻る。
そんな普通の毎日。
その中で、
ゆうまは気づけば、
まさきと一緒にいる時間が増えていた。
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「ゆうまー。」
昼休み。
机に突っ伏していた背中を、
軽く叩かれる。
顔を上げると、
まさきが立っていた。
「なに。」
「移動教室。」
「あ。」
次の授業は理科室だった。
「また忘れてたの。」
「めんどくさい。」
「遅れるぞ。」
そう言いながら、
まさきはゆうまの教科書を持ち上げる。
「ほら。」
「ありがと。」
二人で廊下を歩く。
周りには、
同じように移動する生徒たち。
窓から入る風が、
少しだけ気持ちよかった。
「そういやさ。」
まさきが前を向いたまま話し出す。
「土曜日ヒマ?」
「多分。」
「ゲームしない?」
ゆうまは少し目を瞬かせる。
「通話?」
「うん。」
「いいよ。」
その返事に、
まさきが少し嬉しそうに笑った。
その顔を見ると、
胸の奥が変にざわつく。
最近、
こういうことが増えていた。
まさきが笑うたび。
名前を呼ばれるたび。
近くにいるだけで、
落ち着かなくなる。
でも、
嫌じゃなかった。
むしろ、
その時間が楽しみだった。
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放課後。
教室には、
数人しか残っていなかった。
窓の外は、
少しずつ夕焼けに染まり始めている。
「はぁ……。」
ゆうまは机に突っ伏した。
「無理。
数学わからん。」
向かい側で勉強していたまさきが笑う。
「どこ。」
「全部。」
「終わってるじゃん。」
「だから教えて。」
まさきは椅子を引いて、
ゆうまの隣へ移動する。
距離が近い。
肩が少し触れそうになる。
「ここ。
これ公式。」
ノートを指差す指。
近くで聞こえる声。
シャンプーの匂いまでわかる距離。
ゆうまは急に落ち着かなくなった。
「……近い。」
「え?」
「いや、なんでも。」
まさきは不思議そうな顔をする。
その無自覚な感じが、
余計にずるかった。
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「そういえば。」
まさきがノートを見ながら言う。
「この前の英語のテスト、
ゆうまの方が点高かった。」
「あれは奇跡。」
「絶対違う。」
「いやマジ。」
「じゃあ今度教えて。」
「えー。」
「嫌?」
そう言って、
まさきが少しだけ首を傾ける。
ゆうまは視線を逸らした。
そういう顔、
反則だろ。
「……別に嫌じゃない。」
「やった。」
嬉しそうに笑う。
その笑顔を見ると、
胸の奥が変に熱くなる。
自分だけがおかしくなってるみたいだった。
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その時。
教室のドアが開く。
「うわ、お前らまた一緒にいる。」
クラスメイトが笑いながら入ってきた。
「仲良すぎじゃね?」
その言葉に、
ゆうまの心臓が一瞬止まりそうになる。
でも。
まさきは普通に笑った。
「たまたま。」
自然な声だった。
何も気にしていないみたいに。
そのことに、
少し安心して。
少しだけ、
寂しかった。
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帰り道。
空は少し暗くなり始めていた。
住宅街を並んで歩く。
コンビニの灯り。
遠くから聞こえる犬の鳴き声。
そんな何でもない夜。
「今日、ありがと。」
ゆうまが言う。
「なにが。」
「勉強。」
「別に。」
まさきは少し笑う。
沈黙。
でも、
気まずくない。
その空気が、
ゆうまは好きだった。
「ゆうまってさ。」
「ん?」
「なんか放っとけない。」
ゆうまは思わず足を止めそうになる。
でも、
まさきは前を向いたままだった。
悪気なんて、
きっとない。
だからこそ、
困る。
「……それ、
他のやつにも言ってんの。」
「言わない。」
即答だった。
その返事に、
胸が強く鳴る。
「なんで俺だけ。」
ゆうまが小さく聞く。
まさきは少し考えるように黙ってから、
困ったように笑った。
「わかんない。」
その“わかんない”が、
ずるかった。
期待してしまう。
特別かもしれないって。
そんなわけないのに。
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家に帰ったあと。
制服のまま、
ベッドへ倒れ込む。
スマホが震えた。
『数学ちゃんと復習しろよ』
まさきからだった。
ゆうまは少し笑う。
『お前が教えろ』
すぐに返信が来る。
『しょうがねーな』
たったそれだけのやり取りなのに。
画面を見るだけで、
嬉しくなる。
ゆうまはスマホを胸の上に置いて、
小さく息を吐いた。
最近ずっと、
頭の中にまさきがいる。
それが何なのか。
まだ、
ちゃんとわからなかった。




