受験
# 第十七話 受験
夏が終わった。
高校最後の夏。
気づけば、
制服も少しだけ窮屈に感じるようになっていた。
教室の空気も変わっていた。
前みたいな騒がしさは減って。
代わりに、
問題集をめくる音が増えている。
「模試どうだった?」
そんな会話ばかりが聞こえる毎日。
高校三年の秋は、
静かに息苦しかった。
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放課後。
窓の外は、
少し赤く染まり始めていた。
「……無理。」
ゆうまは机に突っ伏す。
「何回目それ。」
隣で、
まさきが笑った。
三年になってからも、
二人は自然と一緒にいた。
でも。
“終わり”が近づいていることを、
お互い少しずつ感じていた。
「受験嫌すぎ。」
ゆうまが呟く。
「わかる。」
「逃げたい。」
「それもわかる。」
まさきが笑う。
その声を聞くだけで、
少し安心する。
でも同時に。
この時間が、
いつか終わることも思い出してしまう。
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「高瀬、
願書出した?」
クラスメイトに聞かれて、
ゆうまの手が止まる。
「来週出す。」
「やっぱ県外?」
「うん。」
まさきは自然に答える。
その言葉を聞くたび、
胸が少し痛む。
県外。
その二文字は、
まだ慣れなかった。
「西條は?」
「県内。」
「そっかー。」
周りは普通に会話を続けている。
でも。
ゆうまだけ、
その空気から少し取り残されていた。
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帰り道。
秋の風が、
少し冷たい。
並んで歩く影も、
前より長くなっていた。
「なぁ。」
まさきが小さく言う。
「ん?」
「卒業したらさ。」
その続きを、
ゆうまは聞きたくなかった。
でも。
聞かないわけにもいかなかった。
「……会えなくなるかな。」
その言葉に、
胸が締めつけられる。
去年の冬。
少しずつ離れていった日々。
もう、
あんな思いはしたくない。
「……知らん。」
ゆうまは視線を逸らす。
「でも、
県外行ったら忙しくなるだろ。」
少しだけ、
声が冷たくなる。
自分でも、
嫌になるくらい。
まさきは少し黙った。
「ゆうま。」
「なに。」
「怒ってる?」
その聞き方が、
優しすぎて苦しい。
「怒ってない。」
嘘だった。
怒ってるわけじゃない。
でも。
怖かった。
置いていかれる気がして。
「……ごめん。」
まさきが小さく言う。
その瞬間。
胸の奥が、
限界みたいに痛くなった。
「なんで謝んの。」
気づけば、
立ち止まっていた。
夕方の住宅街。
静かな道。
遠くで犬の鳴き声が聞こえる。
「まさきが、
やりたいことあるならいいじゃん。」
言葉とは裏腹に、
声が震える。
「でも俺……。」
そこで、
言葉が止まった。
離れたくない。
その一言だけが、
喉につかえて出てこない。
まさきは、
静かにゆうまを見ていた。
「ゆうま。」
名前を呼ばれる。
それだけで、
胸が苦しくなる。
「俺さ。」
まさきが小さく笑った。
でも。
その笑顔は少しだけ寂しそうだった。
「離れて終わるくらいなら、
ここまで一緒にいないよ。」
その言葉に、
息が止まりそうになる。
「……え。」
「俺、
ちゃんと繋がってたい。」
夕方の風が吹く。
制服の裾が揺れる。
「去年、
めちゃくちゃ後悔したから。」
まさきが少し困ったように笑う。
「だから、
今度はちゃんとしたい。」
その“ちゃんと”が、
何を意味しているのか。
聞きたかった。
でも。
怖かった。
期待してしまいそうで。
「……ずるい。」
ゆうまが小さく言う。
「何が。」
「そういうこと、
普通に言うとこ。」
まさきは少し笑った。
その笑顔を見た瞬間。
もう、
誤魔化せないと思った。
好きだ。
離れたくない。
ずっと一緒にいたい。
その気持ちが、
胸いっぱいに溢れていた。




