表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『君と出会った春に』  作者: ともり。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/18

受験

# 第十七話 受験


夏が終わった。


高校最後の夏。


気づけば、

制服も少しだけ窮屈に感じるようになっていた。


教室の空気も変わっていた。


前みたいな騒がしさは減って。


代わりに、

問題集をめくる音が増えている。


「模試どうだった?」


そんな会話ばかりが聞こえる毎日。


高校三年の秋は、

静かに息苦しかった。


---


放課後。


窓の外は、

少し赤く染まり始めていた。


「……無理。」


ゆうまは机に突っ伏す。


「何回目それ。」


隣で、

まさきが笑った。


三年になってからも、

二人は自然と一緒にいた。


でも。


“終わり”が近づいていることを、

お互い少しずつ感じていた。


「受験嫌すぎ。」


ゆうまが呟く。


「わかる。」


「逃げたい。」


「それもわかる。」


まさきが笑う。


その声を聞くだけで、

少し安心する。


でも同時に。


この時間が、

いつか終わることも思い出してしまう。


---


「高瀬、

願書出した?」


クラスメイトに聞かれて、

ゆうまの手が止まる。


「来週出す。」


「やっぱ県外?」


「うん。」


まさきは自然に答える。


その言葉を聞くたび、

胸が少し痛む。


県外。


その二文字は、

まだ慣れなかった。


「西條は?」


「県内。」


「そっかー。」


周りは普通に会話を続けている。


でも。


ゆうまだけ、

その空気から少し取り残されていた。


---


帰り道。


秋の風が、

少し冷たい。


並んで歩く影も、

前より長くなっていた。


「なぁ。」


まさきが小さく言う。


「ん?」


「卒業したらさ。」


その続きを、

ゆうまは聞きたくなかった。


でも。


聞かないわけにもいかなかった。


「……会えなくなるかな。」


その言葉に、

胸が締めつけられる。


去年の冬。


少しずつ離れていった日々。


もう、

あんな思いはしたくない。


「……知らん。」


ゆうまは視線を逸らす。


「でも、

県外行ったら忙しくなるだろ。」


少しだけ、

声が冷たくなる。


自分でも、

嫌になるくらい。


まさきは少し黙った。


「ゆうま。」


「なに。」


「怒ってる?」


その聞き方が、

優しすぎて苦しい。


「怒ってない。」


嘘だった。


怒ってるわけじゃない。


でも。


怖かった。


置いていかれる気がして。


「……ごめん。」


まさきが小さく言う。


その瞬間。


胸の奥が、

限界みたいに痛くなった。


「なんで謝んの。」


気づけば、

立ち止まっていた。


夕方の住宅街。


静かな道。


遠くで犬の鳴き声が聞こえる。


「まさきが、

やりたいことあるならいいじゃん。」


言葉とは裏腹に、

声が震える。


「でも俺……。」


そこで、

言葉が止まった。


離れたくない。


その一言だけが、

喉につかえて出てこない。


まさきは、

静かにゆうまを見ていた。


「ゆうま。」


名前を呼ばれる。


それだけで、

胸が苦しくなる。


「俺さ。」


まさきが小さく笑った。


でも。


その笑顔は少しだけ寂しそうだった。


「離れて終わるくらいなら、

ここまで一緒にいないよ。」


その言葉に、

息が止まりそうになる。


「……え。」


「俺、

ちゃんと繋がってたい。」


夕方の風が吹く。


制服の裾が揺れる。


「去年、

めちゃくちゃ後悔したから。」


まさきが少し困ったように笑う。


「だから、

今度はちゃんとしたい。」


その“ちゃんと”が、

何を意味しているのか。


聞きたかった。


でも。


怖かった。


期待してしまいそうで。


「……ずるい。」


ゆうまが小さく言う。


「何が。」


「そういうこと、

普通に言うとこ。」


まさきは少し笑った。


その笑顔を見た瞬間。


もう、

誤魔化せないと思った。


好きだ。


離れたくない。


ずっと一緒にいたい。


その気持ちが、

胸いっぱいに溢れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ