春
# 最終話 春
三月。
高校の卒業式。
春の風は、
まだ少し冷たかった。
体育館には、
静かなピアノの音が流れている。
卒業証書。
校長先生の話。
泣いているやつ。
笑っているやつ。
全部が、
終わりの空気だった。
ゆうまは何度も、
隣の列を見てしまう。
そこには、
まさきがいた。
高校三年間。
中学から合わせれば、
六年近く。
気づけば、
人生のほとんどに、
まさきがいた。
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式が終わる。
教室へ戻ると、
一気に騒がしくなった。
「写真撮ろー!」
「寄せ書き書いて!」
笑い声が飛び交う。
でも。
ゆうまの胸の中だけ、
妙に静かだった。
卒業したら。
まさきは県外へ行く。
もう、
毎日会えなくなる。
“また離れる”
その現実だけが、
ずっと胸に引っかかっていた。
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「ゆうま。」
振り返る。
まさきだった。
「外行こ。」
小さく笑う。
ゆうまは黙って頷いた。
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校舎裏。
春の風。
遠くから、
みんなの笑い声が聞こえる。
でも、
ここだけ少し静かだった。
「卒業したな。」
まさきが言う。
「だな。」
沈黙。
でも、
嫌な沈黙じゃなかった。
高校二年の春から、
また少しずつ戻ってきた距離。
去年の冬みたいに、
もう離れたくないと思った。
でも。
卒業したら、
また変わってしまうかもしれない。
その不安が、
ずっと消えなかった。
「まさき。」
気づけば、
名前を呼んでいた。
「ん?」
心臓がうるさい。
逃げたくなる。
でも。
今言わなかったら、
たぶんまた後悔する。
「俺さ。」
声が少し震える。
「去年、
めちゃくちゃ嫌だった。」
まさきが静かに聞いている。
「離れてくの。」
春の風が吹く。
桜の花びらが、
ゆっくり落ちていく。
「また、
あんな風になるの嫌で。」
喉が苦しい。
でも、
止まれなかった。
「だから……。」
ゆうまは視線を落とす。
怖かった。
もし。
この先の関係が壊れたら。
でも。
それ以上に。
伝えず終わる方が、
もう嫌だった。
「好き。」
その一言が、
静かな空気に落ちる。
風の音だけが聞こえた。
ゆうまは顔を上げられない。
心臓の音が、
うるさいくらい響いている。
数秒。
沈黙。
それから。
小さく笑う声がした。
「……やっと言った。」
ゆうまが顔を上げる。
まさきが、
少し困ったように笑っていた。
「え。」
「俺、
ずっと待ってた。」
頭が真っ白になる。
「は……?」
まさきは少し照れたみたいに視線を逸らす。
「中学の頃から、
たぶん特別だった。」
春の風が吹く。
桜が舞う。
「でも、
壊れるの怖くて。」
その言葉に、
胸が熱くなる。
同じだった。
ずっと。
「ゆうま。」
まさきが小さく笑う。
「もう、
自然消滅とか嫌だから。」
その瞬間。
張り詰めていたものが、
全部ほどけた気がした。
ゆうまは思わず笑ってしまう。
「……俺も。」
声が少し震える。
でも。
今はそれすら、
嫌じゃなかった。
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帰り道。
卒業式のあと。
二人で並んで歩く。
中学の頃と同じ道。
高校の頃と同じ夕焼け。
でも。
少しだけ違う。
「県外行っても、
ちゃんと連絡する。」
まさきが言う。
「既読無視すんなよ。」
「お前もな。」
二人で笑う。
春の風が、
優しく吹き抜ける。
終わるわけじゃない。
きっと。
ここからまた、
始まっていく。
中学三年の春。
あの日出会った時から続いてきた時間が。
今、
やっと一つの形になった。




