進路
# 第十六話 進路
四月。
高校三年生になった。
校舎も。
制服も。
隣にいるまさきも。
何も変わっていないはずなのに。
“最後の一年”
その言葉だけが、
妙に重かった。
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「三年とか早すぎ。」
朝の教室。
ゆうまは机に突っ伏しながら呟く。
「去年も同じこと言ってた。」
隣で、
まさきが笑った。
三年になっても、
二人は同じクラスだった。
クラス表を見た瞬間、
二人とも少し笑ってしまったくらいには。
「また一緒じゃん。」
「腐れ縁すぎる。」
そう言いながら。
内心、
嬉しかった。
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でも。
三年になってから、
周りの空気は少し変わった。
「オープンキャンパスどうする?」
「推薦考えてる?」
そんな会話が増える。
進路。
将来。
卒業後。
みんな、
少しずつ“その先”を見始めていた。
「まさき、
大学どこ考えてんの?」
昼休み。
クラスメイトに聞かれて、
ゆうまの手が止まる。
まさきは少しだけ考えてから、
口を開いた。
「県外かな。」
その瞬間。
胸が、
大きく鳴った。
「え。」
思わず声が漏れる。
まさきが振り返った。
「あ。」
気まずそうに笑う。
「まだ決定じゃないけど。」
周りは普通に会話を続けている。
「すげー。」
「一人暮らし?」
そんな声が聞こえる中、
ゆうまだけが言葉を失っていた。
県外。
つまり。
離れる。
今までみたいには、
会えなくなる。
頭では理解しているのに、
胸がうまく追いつかなかった。
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放課後。
夕焼けの教室。
クラスメイトたちは、
ほとんど帰っていた。
「……なんで言わなかったの。」
気づけば、
そんな言葉が出ていた。
まさきは少し黙る。
窓の外から、
運動部の声が聞こえる。
「まだ決まってないし。」
「でも考えてたんだろ。」
「……うん。」
沈黙。
ゆうまは視線を落とす。
別に、
怒ってるわけじゃない。
ただ。
怖かった。
また、
離れてしまう気がして。
「ゆうま。」
まさきが小さく呼ぶ。
「俺さ。」
少しだけ困ったように笑った。
「去年みたいになるの、
嫌なんだよね。」
胸がぎゅっと締めつけられる。
「だから、
ちゃんと言おうと思ってた。」
その言葉が、
やけに優しかった。
ゆうまは何も言えなかった。
“嫌だ”
その一言だけが、
喉まで出かかっていた。
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帰り道。
春の夜風が、
少し冷たかった。
二人で並んで歩く。
でも今日は、
会話が少ない。
「県外、
行きたいの。」
ゆうまが小さく聞く。
まさきは少し考える。
「……わかんない。」
正直な声だった。
「でも、
挑戦したい気持ちはある。」
その答えが、
余計に苦しかった。
まさきは、
ちゃんと前を見ている。
未来を考えている。
その横で。
自分だけが、
“離れたくない”ばかり考えていた。
「ゆうまは?」
「え。」
「将来どうしたいの。」
急に聞かれて、
言葉に詰まる。
考えていなかったわけじゃない。
でも。
まさきがいる未来ばかり、
考えていた。
「……まだわかんない。」
小さく答える。
まさきは笑わなかった。
「そっか。」
それだけ言って、
前を向く。
沈黙。
でも、
嫌な沈黙じゃなかった。
ただ。
“未来”が、
少しだけ怖かった。
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別れ道。
「じゃあまた明日。」
まさきが言う。
「ん。」
いつもの会話。
いつもの距離。
なのに。
“いつか終わる”
その現実だけが、
急に近づいてきた気がした。
まさきが手を振る。
ゆうまも小さく振り返す。
離れていく背中を見ながら、
胸が苦しくなる。
好きだ。
離れたくない。
でも。
その言葉を伝えたら。
今の関係が、
終わってしまいそうで怖かった。




