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『君と出会った春に』  作者: ともり。


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夏祭り

# 第十五話 夏祭り


七月の終わり。


夕方になっても、

空気はまだ暑かった。


駅前には、

浴衣姿の人たちが増えている。


屋台の匂い。


遠くから聞こえる祭り囃子。


夏独特の、

少し浮ついた空気。


『先着いた』


スマホに通知が来る。


ゆうまは急いで顔を上げた。


鳥居の近く。


まさきが手を振っている。


私服姿。


黒いTシャツに、

ラフなパンツ。


見慣れているはずなのに、

なぜか少しだけ緊張した。


「待った?」


ゆうまが近づく。


「今来た。」


絶対嘘だ。


まさきは昔から、

待ち合わせに早い。


「暑。」


「夏だからな。」


「その返し好きだな。」


二人で笑う。


その瞬間だけ、

胸の奥が少し軽くなる。


---


祭りは、

思っていたより人が多かった。


「やば。

人多すぎ。」


「はぐれんなよ。」


まさきが笑う。


その言葉に、

ゆうまの胸が少し鳴る。


“はぐれんなよ”


ただそれだけなのに。


妙に嬉しかった。


屋台が並ぶ道を歩く。


焼きそば。


かき氷。


金魚すくい。


子どもの笑い声。


夏の匂いが、

街中に広がっていた。


「何食う?」


まさきが聞く。


「なんでも。」


「一番困る。」


「じゃあ焼きそば。」


「ベタ。」


「うるさ。」


そんな会話をしながら、

二人で屋台に並ぶ。


並んでいる時間さえ、

少し楽しかった。


---


神社の階段へ座る。


人混みから少し離れて、

風だけが静かに通り抜けていく。


「疲れた。」


ゆうまが呟く。


「人多かったな。」


まさきが笑う。


焼きそばのパックを持ちながら、

二人でぼんやり境内を見る。


「なんかさ。」


まさきが小さく言う。


「高校入ってから、

時間経つの早くね?」


「わかる。」


「もう二年だし。」


その言葉に、

胸が少しざわつく。


もう二年。


つまり。


あと少しで、

また終わる。


「来年、

受験だもんな。」


ゆうまが言う。


「だな。」


少し沈黙。


夏祭りの音が、

遠くで鳴っている。


「ゆうま。」


「ん?」


「卒業したら、

どうなんだろうな。」


その言葉に、

心臓がゆっくり重くなる。


卒業。


その先。


今まで、

なんとなく考えないようにしていた。


でも。


高校は、

いつか終わる。


「……どうって。」


「大学とか、

就職とか。」


まさきは少し笑った。


「また離れたりすんのかなって。」


その一言が、

胸に刺さる。


去年の冬を思い出す。


少しずつ離れていった時間。


話せなくなった日々。


あんな風になるのは、

もう嫌だった。


「……嫌だな。」


気づけば、

口から出ていた。


まさきが少し目を丸くする。


「え。」


「また離れんの。」


言った瞬間、

急に恥ずかしくなる。


ゆうまは視線を逸らした。


「……別に、

深い意味じゃなくて。」


誤魔化そうとすると。


まさきが、

小さく笑った。


「俺も嫌。」


その声は、

思っていたより優しかった。


胸の奥が、

熱くなる。


苦しいくらい。


---


その時。


遠くで花火が上がった。


夜空に、

大きな光が咲く。


周りから歓声が上がる。


「始まった。」


まさきが空を見上げる。


花火の光が、

横顔を照らしていた。


ゆうまは、

その顔を見つめる。


好きだ。


たぶん、

ずっと前から。


でも。


言ったら、

壊れてしまいそうで怖かった。


「ゆうま。」


「ん?」


「来年も、

一緒に見れたらいいな。」


まさきが笑う。


その言葉だけで、

胸がいっぱいになる。


夜空に花火が広がる。


その音に紛れるように、

ゆうまは小さく息を吐いた。


言えなかった。


“好き”の二文字が。


まだ、

怖かった。


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