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『君と出会った春に』  作者: ともり。


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後悔

# 第十四話 後悔


六月。


雨の日が増えてきた。


窓を叩く雨音。


湿った空気。


教室の中には、

ぼんやりした眠気が漂っている。


「眠……。」


ゆうまが机に突っ伏す。


「また?」


隣で、

まさきが笑った。


高校二年になってから。


二人は、

また自然に一緒にいるようになっていた。


昼休み。


帰り道。


放課後。


去年、

失っていた時間を取り戻すみたいに。


でも。


ゆうまは気づいていた。


前とは少し違うことに。


---


「高瀬ー。」


休み時間。


まさきが友達に呼ばれる。


「次移動教室行こ。」


「おー。」


まさきは立ち上がって、

そのまま教室を出ようとする。


でも。


途中でふと振り返った。


「ゆうまも行く?」


その一言が、

嬉しかった。


ちゃんと、

置いていかないでいてくれる。


そんな小さなことが、

前より胸に刺さる。


「行く。」


ゆうまが立ち上がると、

まさきは少し笑った。


---


廊下。


雨の匂い。


窓の外は灰色だった。


「去年さ。」


まさきが前を向いたまま言う。


「俺、

結構後悔してた。」


ゆうまの胸が少し鳴る。


「何を。」


「んー……。」


まさきは少し考えてから、

困ったように笑った。


「ゆうまと、

あんま話さなくなったこと。」


その言葉に、

足が止まりそうになる。


「……。」


「なんか、

気づいたら離れてたじゃん。」


雨音だけが響く。


「俺、

話しかけようとは思ってたんだけど。」


まさきが小さく笑う。


「変に久しぶりすぎて、

タイミングわかんなくなった。」


その気持ちが、

痛いほどわかった。


ゆうまも同じだったから。


話したかった。


戻りたかった。


でも。


“前みたい”にできないのが怖かった。


だから、

少しずつ距離ができて。


気づけば、

一年が終わっていた。


「……俺も。」


ゆうまが小さく言う。


まさきが振り返る。


「俺も、

話しかければよかったって思ってた。」


数秒。


まさきは何も言わなかった。


それから。


少し安心したみたいに笑った。


「そっか。」


その笑顔を見た瞬間。


胸の奥が、

ぎゅっと苦しくなる。


好きだ。


もう、

誤魔化せないくらい。


---


放課後。


雨はまだ降っていた。


教室には、

ゆうまとまさきだけ。


窓の外は暗くて、

雨音だけが静かに響いている。


「傘ある?」


まさきが聞く。


「ある。」


「よかった。」


そんな何気ない会話。


でも。


去年、

こういう時間がなくなった時。


ゆうまは思っていた。


もう戻れないかもしれないって。


それなのに。


今また、

隣にいる。


「ゆうま。」


「ん?」


「今年同じクラスで、

ほんとよかった。」


心臓が大きく鳴る。


「……急になに。」


「いや、

なんとなく。」


まさきが笑う。


その顔を見るだけで、

胸がいっぱいになる。


もし。


去年みたいに、

また離れたら。


そう考えるだけで、

怖かった。


---


帰り道。


一つの傘。


狭い距離。


肩が何度も触れる。


「近い。」


ゆうまが小さく言う。


「濡れるだろ。」


まさきが笑う。


その声が近い。


近すぎる。


「高校ってさ。」


まさきが前を向いたまま言う。


「中学みたいにはいかないな。」


「……まぁ。」


「クラス違うだけで、

全然変わるし。」


雨がアスファルトを叩く。


「だから。」


まさきが少しだけ笑った。


「今年は、

ちゃんと一緒にいような。」


その言葉が、

胸の奥へ静かに落ちていく。


ゆうまは傘を握る手に、

少しだけ力を入れた。


「……うん。」


雨音の中。


隣を歩く温度だけが、

やけに近く感じた。


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