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第七小節〜白い部屋〜



 コジュンの意識は、今まで聴いたことがない連続音によって夢から現へと引き戻された。


 ピッ……ピッ……ピ……、と一定のリズムを刻む音、朦朧とする意識から瞳を開けると、部屋全体が真っ白な空間。


「あ……?」


 天上も白く、見たこともない魔導ランプの様な物が白い光を放っていた。


「あれ……?白い光って……。神様の光じゃ……?」


 ゆっくりと手足の感覚を取り戻す。手のひらを開閉し、両足首を回転させる。


──大丈夫、五体は満足だ。


 上体を起こすと、そこには信じられない光景が広がっていた。


 部屋全体が白に統一され、木材では無い布の様な壁。横たわるベッドは何かしらの金属の枠組みに、まるで貴族が使う様な、絹の様な肌触りの布団。


 枕元にはよくわからない箱が置かれ、謎の波長が絶え間なく表情されていた。


 さらに壁の窓には、透明な板が外の風景と光を透過している。



「何だこれ!?」


 謎の連続音はそのテンポを速める。


 コジュンが状況を理解出来ずに、両手で頭を掻きむしろうとした時だ。


 両腕に無数の管の様な物が取り付けられており、あろうことかその一つの管の先の金属は、彼の左腕に突き刺さり、管を辿ると吊り下げられた透明な袋から、ポタリ、ポタリと透明な液体が自身の腕に送り込まれていたのだ。


「ひぃっ!」


と、情けない声を上げたコジュンは、その全ての管を無理矢理取り払う。


 するとどうだ、謎の連続音はピーと言う一定の音となり、波打っていた表示が線になった。


「何だこれ、何だこれ、何だこれ??」


 コジュンは呼吸を乱し、瞳を右往左往させながらその『無機質に白く、四角い部屋』から逃げ出そうとする。


 だが、立ち塞がるのは見たこともないドア、開け方が解らない。


「何だよ!?どうなってんだよ!?誰か説明してくれよ!」


 コジュンはそのドアの前で立ち尽くし、腹の底から叫ぶ。


 するとドアの向こうから、複数の足音が聞こえたと思えば、そのドアはスライドして開く。


 目の前には、全身淡い桃色の見たこともない半袖長ズボンの女性と、紳士服の上に白いローブの様な物を羽織った老年男性が立っていた。


「;"%+な)(%%=^`§ね!」

「¢]{}π¶∆∷で√`~!」


 矢継ぎ早に話す二人の言語が聞き取れない。が、所々聞こえる。


「あんた達何言ってんだよ!?ここどこだよ!?何がどうなってんだよっ!?」


 コジュンも早口で責め立てるが、二人は何かを言い合いながら頭に疑問符を浮かべていた。


 すると、老年男性が手に持った筆のような物で、小さな手帳に何かを書いてコジュンに見せた。


『この じ が よめる ?』


 その文字を見た瞬間、彼の背筋は凍るように冷え、身体中に悪寒が走る。


 ──読めてしまった。さらには、その意味さえも『解った』。


 すると男性は柔らかな笑顔で語りかける。


「だいじょうぶかい? ゆっくりはなすと、きこえるかな?」


「あ……。あああああ……。」


 全身の震えが止まらない、その男性の『言葉』さえも聞き取れてしまったからだ。


 呼吸が浅く、速くなる。


 そして、混乱する意識、言語がコジュンの精神を蝕み、激しい嘔吐の後、彼は意識を失った。





──コジュンは夢を見た。



 自分の身体が幼くなり、顔はボンヤリしているが、執拗に自分の手を引く同い年位の男の子。


 背後からは優しく、温もりに溢れた成人女性の声。そして、自らとその少年は一人の成人男性の背中に同時に体当たりをする。


 男性はノイズの掛かった顔、そして同じくノイズの掛かった声で何かを発した後、二人の頭を優しく撫でた。


 心通わせ、愛に満ちた日々。コジュンはこの夢が嫌では無く、安らぎを感じた。

 

 が、その三人が、ある日突然居なくなる。


 その直後、はっきりと目視出来るある男の笑顔と声が響く。


 ジルウスだ。


「ガハハ!コジュン!俺がお前の父ちゃんだぜ?」


 その刹那、涙を湛えたルーティの顔……。





「うわぁぁぁ!」



 目覚めたコジュンは息絶え絶え。寝汗も酷く、下着がべっとりと身体に張り付く。


 そしてまた、謎の連続音が耳に入った。


「クソ……。何だよこれ、何処なんだよこれ!?」


 コジュンは孤独感によって溢れる涙を堪えながら、上体を起こしその膝を抱く。


 すると、彼のベッドの横で眠りこけっていた男性が目を覚ました。


 暗闇でよく見えなかったが、男はゆっくりと、


「めがさめた? いま あかるくするよ」と、言い、壁のボタンを押した。


 目が眩むほどの白い光、『ここは神様の領域か?』と、思う程の明るさだった。


 その男性は癖のある黒髪に黒い瞳、黒縁の眼鏡を掛けた中年男性だった。


「めがさめて よかった ぼくの ことば わかる?」


 コジュンは恐怖に恐れながらも、ベッドのシーツを甘噛みしながら首を縦に振る。


 男性はさらに笑顔になり、コジュンの肩を撫で、頭も撫でる。


「おはなし しよう。 どうぐ つかっても いい?」


 その言葉にコジュンは身構えたが、今居る状況が把握したい、その一心で首を縦に振った。



すると男性はコジュンの首と耳の裏に何かを取り付けた。



「あっ……。あー、聴こえるかい?」


 はっきりとした言語として聞こえてきたのだ。


「聴こえた!なぁ、これどうなってんだよ!?意味やかんねーよ!」


 コジュンが矢継ぎ早に話す言語も、彼には通じていた様だ。


 その時だ、この白い部屋の外から女性の声が響く。


「ウエダさーん!そろそろ面会時間が終わりですよー」


「あ、ありがとうございます看護師さん。また明日出直します!」


 全て意味を持って聴こえる。


「そろそろ時間の様だから、明日また来るね。あ、僕はコウサク=ウエダと言う名前なんだ。君は?」


 コウサクは終始笑顔を絶やさない、それどころか彼の瞳には涙が浮かんでいるではないか。


「俺は……、コジュン=ハルバート。おっちゃん、何で泣いてるんだ?」


「泣いていたかな!?ゴメンね。でも、僕は君と会いたかったんだ。明日、また来るね!」


 そう言葉を残し、コウサクは去っていった。




──翌日、目覚めたコジュンの目の前には昨日に会ったばかりのコウサクが、何かしらの果実の皮を剥いていた。


「あれ?おかしいな、ヤヨイちゃんはスルスル剥いてるのに?」


「あ、ウエダさん。おはよう」


 コジュンのその一言が引き金となった。


 コウサクは手を滑らせ、その指をペティナイフで切ったのだ。


「いって!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、コジュンの

身体は即座に動く。真っ先に切り口を咥え、鬼の形相で血を吸い出したのだ。


「ウエダさん、大丈夫だ。毒の味はしねぇ。」


「え?大げさ過ぎじゃないかい?」


 コウサクは首を傾げた。


「ちょっとナイフでかすっただけじゃないか、どうしたんだい?」


 笑顔のコウサクにコジュンは一言。


「それで逝ったジジババ共を腐るほど見てるんだよ!アンタ、言葉通じるし、逝かれちゃ俺が困るんだよ!」


 鬼の形相のコジュンに対し、コウサクは一言。


「まぁ、今は抗生物質もあるし……。そこまで気にしてくれなくても」


「知らねーよ、『こうせいぶっしつ』なんてもんは! 大人が血を流したら、焼くか舐めるかだろーが!」


 コウサクは一瞬驚いたが、直ぐに安堵の顔を浮かべた。


「コジュン君、大丈夫だよ。この国、いや、この世界は余程のことがない限り、これぐらいじゃ死なないよ」


 その後、コウサクは手に持った紙を眺めながらポツリと呟く。


「『ウエダさん』って呼ぶんだな……悲しいな」


 そのコウサクの沈んだ表情を見たコジュンは、心配そうな顔で問いかける。


「大丈夫かよ?顔、真っ青だぜ?」


 無言で項垂れるコウサクに対し、コジュンは彼を励まそうと意気揚々に握り拳を作り、矜持を語る。


「ウエダさん、凹んだときは、『気合と根性』だ!父ちゃんの受け売りだけど、コレでどうにでもなるぜ!」


 白い歯をニカッと剥き出し笑うコジュン。


 だが、コウサクが絶望的な感情に苛まれた、その手に持った書類。



 『〜DNA鑑定結果〜


 今回ご提示頂いた、少年A(仮)の染色体構造は、依頼主様からご提示頂いたご子息。


 コウジ=ウエダ様と完全に一致した事をここに証明致します。』



 その無機質な文字が綴られた紙は、ハラリと病室に、舞い散る花弁のように落ちた。

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