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三十九、 ミサンガル大監獄長のレイロウ

ミサンガル大監獄の監獄長の交代について、かの"世界実報"が大々的に報じました。

監獄長の交代自体がおよそ三十年ぶりのことであり、

また歴代最強と謳われ"絶対的強者"であった超人(サイコ)族の天才児・ゼゼクル氏が、

昨今評判の"竜牙刀(ドラゴニアファング)"を持つ不死人(アンデッド)"・レイロウに敗れたことを、

これ以上ないほど衝撃的に書き立てたのでした。

そして世間ではその決着の付け方にも是々非々があり、

その後何号にもわたって紙面を賑わせたのでした。


「なんて汚い手を使うのだ、剣士の風上にも置けない。これは正当な決闘ではない」

「いや規則に則って闘っている、勝ちは勝ちである」

「それならば鉄球をとばして攻撃するゼゼクル氏は剣士ではない」

「強いことが条件であり剣士である必要はない」

「そもそも"竜牙(ファング)"は真っ当な剣と捕らえてよいのか?」

「命を賭して闘う者が一度だけ使うことを許される魔剣だ

 それを不死人(アンデッド)が持つのは反則ではなかろうか?」

「レイロウ氏自身は、それを"運命"だとしている」

「しからば鉄球を"念動力(サイコキネス)"で飛ばすのも反則である」


こんな激論が王国中の酒場や盛り場、仕事場や家庭内までも交わされました。


また"ミサンガル大監獄"はアーガンド王国の王様直属の組織であります。

その監獄長になるには王様が直々にお認めになり、任命書を賜る必要があります。

『世界で最も怠惰で卑しい種族』と言われる不死人(アンデッド)族を、はたして王様がお認めになるのか?

これついても世間の批評は割れ、世間はこの話題で持ち切りなのでした。


しかし今生の王様はとても寛大な方でありました。

ミサンガル大監獄の監獄長は世界で一番強い人間である必要があり、

その出自は厭わない、とはっきり名言されたのです。


こうしてレイロウは晴れて、ミサンガル大監獄の新監獄長となったのでした。

レイロウより上の立場の人は、もうアーガンド王国の王様しかおりません。

かつて師匠から言われて長く心に銘じて来た言葉、

『誰よりも強く、偉くなれ』

をレイロウは正に実現させたのでした。


ミサンガル大監獄の監獄長に就任してからというもの、レイロウは大忙しでありました。

まず自身で壊した建物の外壁や屋上の床をすっかり直す必要がありました。

その修復作業を"百足(むかで)"の建築部門に依頼しましたが、これは丁寧に断られてしまいましたので、

他の職人たちを雇いました。


そしてチシン氏は自ら大監獄の任務から離れるという申し出があったので、次の警備兵隊長はダイラーとなりました。

それからも前監獄長・ゼゼクル氏への忠誠か、それとも不死人(アンデッド)族の配下に就くのが嫌なのか、

大監獄から現職の離任希望者が多発したので、警備兵や囚人監視は"白刃会"の面々が多く入り組織内が一変されたのでした。


白磁(はくじ)遣いの部門も健在で、以前は巨大ギガム二匹を守護獣として飼っていた為に脱獄も侵入も試みる者がほぼ居なかったのですが、今は小型の白磁(はくじ)に乗った警備兵が複数上空から襲い掛かることになり、またいざとなると監獄長による"竜牙(ファング)"での攻撃が行われる為、大監獄の警備は以前強固なままなのでした。


新監獄長の職務の引継ぎが少し落ち着いた頃から押し寄せたのが、レイロウへの決闘の申し込み、つまり監獄長の座を掛けた勝負の依頼でした。

前監獄長の時はその超常の力・念動力(サイコキネス)の噂の為に決闘を挑むものが数十年もなかったのに、

監獄長がレイロウとなった途端に、我先にと国中の剣客や腕に覚えのある者達がやってきたのです。


それと言うのも、レイロウが決闘に関して新たな決まりを設けたからです。

それは


『決闘に持ち込む剣の数に制限は設けないが、敗者は勝者に持ち込んだ剣を全て譲渡すること』

『挑戦者は決闘中に負けを申し出て剣を受け渡せば、首を斬られることはない』


というものです。

これは剣の蒐集家であるレイロウにはとても愉快な決まりでした。

挑戦者にとって、監獄長への決闘は生涯をかけた一大勝負です。

その為に己の持つ最上級の剣や武器類を持ち込みます。これは剣士の矜持です。

そしてもし分が悪くなっても、先に負けを申し出て剣を受け渡す旨を申し出れば、殺されることはないのです。

以前は決闘をするからにはどちらかの首を斬るしか決着方法がなかたのですが、

こと挑戦者だけは負けを申し出れば斬首は免れることが出来るのです。

これならば、かつての王様がお決めになった

『新たに監獄長になる者は、前監獄長の首を斬り、自分の頭の位置より高く掲げるべし』

という掟に抵触しないのです。


この新たな規則が、監獄長への挑戦者を増大させたのです。

そしてまた、挑戦者たちは確実にレイロウを過小評価していました。

なぜならば、かの世界実報が伝えたレイロウが前監獄長との決闘の勝ち様、つまり"竜牙(ファング)"の柄を騙すように相手に握らせて勝ったことに加え、

いくら伝説の剣を持つと言っても、その"力"を使う前に攻撃をしかければ勝ち筋はあるだろう、と考えた剣士がたくさん居たからでした。


しかし、その見立てはとてもとても甘いものでした。

レイロウはただ"竜牙"の力に頼るだけの凡庸な剣士でなく、剣の腕も確かなのです。

それもそのはず、普通の人間が寝る時間を全て剣術の稽古に費やし、

敵に斬られることを厭わない攻撃に特化した独特な剣術を持つ剣士です。

そして、伝説の暗殺者である"人斬りオロチ"の認めた最期の直弟子でもあります。

このレイロウが弱いはずもありません。


それに挑戦者はいずれも、『超人(サイコ)族の天才には適うまいが、不死人(アンデッド)には勝てるであろう』と考える"強者"とは呼べぬ者たちです。

どんな手を使おうと監獄長を倒そうとして、八年も前から準備を進めていたレイロウとはそもそもの"心意気"から違います。


だからレイロウは決闘の際、常に"竜牙"を腰に差してはいますが、それを使うまでもなく挑戦者たちを次々と圧倒しては降参させ、

挑戦者の持つ刀剣を没収していったのでした。

そしてその様子を世界実報が毎号にて詳細に伝え、これが大評判の記事となりました。


その日の挑戦者の名前と出身地と経歴、

持ち込んだ刀剣の種類、

決闘への意気込み、

決闘の様子、

そして敗者の弁、


までを軽妙な文体で伝えたのでした。

この『ミサンガル監獄長の決闘連記』に大人から子供までもが夢中になり、

世界実報の発行部数は飛躍的に伸びたのでした。


このように刀剣をはく奪された挑戦者の数が百を超えて少し経った頃、

遂に、待望されたある"剣士"が挑戦者として現れました。

それは、かつてレイロウが訪れて悶着を起こした"聖都(セント)剣術指南所"の若先生でした。


ここまで王国中の名のある剣士達が監獄長に挑戦し、"竜牙(ファング)"を使わせることもなく打破されました。

残るはもう、聖都(セント)いちの道場の主である若先生しか居ないであろうと世間のもっぱらの噂なのでした。

そこへ世界実報が遂に若先生が挑戦者として立ちあがったと伝えたものですから、これは大騒動となりました。


そしてある日、若先生はくだんの師範の三人を引き連れて、レイロウに決闘を申し込みに大監獄へとやって来ました。

もっとも子供の頃とはいえ、ダダリ師範に全く相手にならなったレイロウであれば充分に勝機はあると見込んでの挑戦です。

しかし結果は、若先生の刃はレイロウに全く届くことなく、それどころか逆に終始圧倒され続けました。

若先生は聖都(セント)剣術指南所の正式な型を持ってレイロウを打とうとしましたが、

攻撃に特化した特殊な型を持つレイロウにはまるで通じません。

終始、大人が子供をあやすような形でレイロウが若先生をもてあそぶような形になったのです。

これは若先生は勝つことができない、と誰の目から見てもあきらかなのでした。


「これ程までの差があるとは……これは降参だ」


若先生がそう申し出て、手にした剣の刃先を下ろしたその刹那、

レイロウは素早く足を踏み出したと同時に剣を水平に振りぬき、若先生の首を斬り落としました。

その切っ先のあまりの速さにまず若先生の身体が後ろにバタンと倒れ、

それから宙に残っていた若先生の頭部がまっすぐ下に落ちて、ドチャッと床に立ったのでした。


「あえ?」


と、首だけになった若先生が口から最後の言葉を発しました。

この様子に、立ち合ってている若先生のお付きの師範たちはおろか、世界実報の記者や大監獄の警備兵たちまでもが驚愕して声を失いました。

それもそのはず、これまでレイロウが有無を言わさず挑戦者の首を斬ったのはこの時が初めてなのでした。

首だけになった若先生、苦悶の表情を見て、三人の師範たちが我に返ったように叫び出しました。


「約束が違う!」

「これは酷い」

「なにも殺すことはないだろう!」


そうやいやい言う師範たちを、レイロウが一括しました。


「何を言うか!先に約束を反故にしたのはそちらの方であろう!」


すると三人の師範は押し黙りました。

そうなのです、今を遡ること13年前、当時11歳のレイロウが聖都(セント)剣術指南所への入門をかけて、

ここに居る大柄なダダリ師範と決闘をしたのです。

結果、幾度も倒されながらもレイロウは決して"参った"をせずに立ち上りダダリ師範を倒したのに、

若先生のひとこえでそれが無碍にされたのでした。

その約束は、レイロウの師匠から最期に預かった大切な大切な託(ことづけ)であったのにです。

その報復を、今レイロウは果たしたのでした。


それにもうひとつレイロウを怒らせたのは、若先生の用いた刀剣です。

若先生は、自身の剣術道場の門下生用に作らせた"独自の剣"を持ってきました。

道場での真剣の使用はかたく禁止していましたが、剣士たるもの"本物"の剣を一振りは持っておくべきだとの精神論から、

それ用に作った剣・"聖都(セント)精練剣"を門下生全員に購入させていたのでした。


「聖都(セント)剣術指南所の道場主として、私は勿論この剣を持って決闘に臨む!」


それが若先生の言い分でしたが、刀剣蒐集家のレイロウからしてみれば、それは安物の大量生産品の剣にしか見えません。

同じ大量生産だが質の高い"アーガンド王国軍・官給剣"のような歴史も実績も無く、剣としては雲泥の差なのです。

それに、道場の受付となる執務室内の壁に立派な剣が幾本も掛けてあったことをレイロウは見ています。

てっきりそれらを持ってくるとレイロウは思っていたのですが、実際はそうではありませんでした。


 聖都(セント)剣術指南所の道場主ともあろう者が、

 初めから負けを見越して手放しても何の影響もない玩具のごとき安い剣を用いて、

 このミサンガル大監獄の監獄長の座をかけた崇高な決闘に臨んだ。


これは、現監獄長であるレイロウにとって、これ以上ない侮辱なのでした。


「こんな下らぬ剣、要らぬわ!!汚らわしい、返してやる!」


そう言うと、レイロウは若先生の亡骸の持つ安物剣を拾い上げ、

それを床にある若先生の生首の頭頂部から突き刺したのでした。

剣先は見事に頭蓋を貫通し、レイロウが柄から手を離しても安物剣は若先生の首を土台に立ったままなのでした。

これは何ともおぞましい光景です。


「早く首ごと持ち帰れ!」

「何という蛮行!信じられぬ!」

「やはり卑しい不死人(アンデッド)か!」

「許せん!」


そう師範たちはレイロウを罵りました。

その言葉にレイロウは冷ややかに笑いながら返しました。


「許せないか。では誰でも良い、主(あるじ)の敵討で私と決闘しますかな?」


三人の師範は全員、押し黙りました。

三人の師範はそれぞれ剣の力量はたいしたものですが、しかし若先生には適わなかったのです。

そしてその若先生が子供扱いされたレイロウに、まったく勝てるはずもないのです。


「どうです、やりますか?ダダリ師範、でしたかな?13年前の遺恨を今果たせますぞ」

「……いや、遠慮しよう」


そうして師範たちは若先生の亡骸をそそくさと回収して、ここミサンガル大監獄を去ったのでした。


そしてこの一連のやりとりを、また世界実報が詳細に伝えました。

大注目された聖都(セント)剣術指南所の道場主の決闘記事なだけに、この結果に王国中がざわついたのでした。


~つづく~

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