三、 夕焼け街の子供たち
ボタ山を出たレイロウは、そのてっぺんから臨んだ遠くの街影が見える方角へとテクテク歩みを進めました。
途中で拾った良い塩梅の木の枝を剣に見立て、ヒュンヒュンと振り回しながら赤茶けた荒れた大地を二日ばかり歩き続けると、
何やら地面が踏み締められた、人の気配がある場所へと辿り着いたのでした。
するとレイロウの視線の先に、大きな石材の周りに群がっている、十名ほどの小柄な人影を見たのでした。
「子供だ!」
レイロウは思わず躍り出しました。
間違いない、あれは人の"子供"です。ボタ山の中で不死人族の子供はレイロウだけであり、たまに来る保護局の人たちも大人ばかりです。
レイロウはこれまで自分以外の"子供"を見たことがなく、一度でよいから出会ってみたいと考えていたのでした。
それがどうでしょう、ボタ山を出て最初に出会った人間が子供で、しかもこんなにたくさん居るとは。
子供たちは大きな石材に縄を結び付け、その下に木の丸太を幾つも敷き、縄を引っ張って石材を動かしているのでした。
縄を引っ張る係、石材を押す係、石材に丸太を敷く係と、子供たちの連携は見事なものです。
その十人程の子供の先頭に、他の子たちより少し年上であろう少年皆を率いていました。
「行くぞー!」
「はい、ランド兄ちゃん!」
「そーれ!そーれ!」
「そーれ!そーれ!」
年上の少年はランドと呼ばれているのでした。
レイロウは石材の後ろの方にる子たちに駆け寄りました。
「ねえ、何をしているの?」
いきなり声を掛けられて驚いたのは子供たちです。
石材を後ろから押していた女の子はそのままレイロウの方を見ました。
レイロウと同じくらいの年頃の子です。
その女の子の目線がレイロウのはだしの足元に向きます。
「……あなた、どこの子?どこから来たの?」
「僕はずっとあっちから来たんだ」
「あっち?ここから向こうには何もないよ」
「あるよ。僕のおうちがあるんだ」
「なに?変な子ね」
「僕はレイロウと言うんだ」
「へえ、私はアビィよ」
「アビィか!面白い名前だな」
そう言うレイロウにアビィは怪訝な目を向けました。
ここは既に夕焼け街の相当はずれであり、ここいらで知らない子供に会うなど思ってもいなかったのです。
「ねえ何してるの?」
「見れば分かるでしょう、磐を運んでいるのよ」
「磐を?何で?」
「何でって、それが私たちの"しょうばい"だからよ」
「しょうばい?」
「しょうばいしないと、おまんま食べれないじゃないの」
「おまんま?」
「こいつ、妙な奴だな」
アビイの前で同じく石材を押している少年・タンタも言いました。
「ほっとこうぜこんな奴」
「そうよ、邪魔するくらいなら手伝って頂戴」
「手伝う?これを押せばいいの?」
「そう、うんと重いのよ」
「よしきた!」
そう言うと、レイロウは石材の真後ろについて、えいやと石を押し始めました。
これは、レイロウにとって初めての"労働"でした。
しかも同じ年ごろの子供たちに混ざっての力を合わせた労働であり、それに何だか特別な心持ちになるのでした。
「変わった子ね」
でも少しでも助かるからいいか、とアビィとタンタは目を合わせました。
どうやら悪い奴ではなさそうです。
やがて子供たちの運ぶ石材は上り坂道のふもとへとたどり着きました。
「いいか、ここからは登りになるぞ!気を付けて運べ!」
「あいさー」
ランドの叱咤に続き、子供たちが気焔を上げました。
レイロウも石材の後ろで真似してあいさーと叫びました。
子供たちは足をグッと踏み締め、懸命に縄を引き石を押します。
そして石材はじょじょにじょじょに、斜面を登って行きました。
やがて坂の中頃に差し掛かった頃でしょうか、左側で石を押していた少年のひとりが足を滑らせました。
ズルッ!
その瞬間、石材が大きく傾き、ズズーっと左側へ地滑りを起こしたのです。
「わあ!」
「危ない!」「よけろ!」
子供たちは口々に叫びました。
勢いよく石が滑った先には、何とアビィが居ます。
「きゃあ!!」
アビイも足がもつれ、その場に座り込んでしまいました。そこに地滑りをした石材がズズズと迫ります。
もうダメだ!
みんながそう思ったその刹那、勢いよく駆け出したレイロウが、恐怖でうずくまるアビィを突き飛ばしました。
アビィはゴロゴロと横へ転げ、そしてレイロウはアビィの代わりに巨大な石の下敷きとなり圧し潰されたのです。
ベキベキベキ!!
とても嫌な音が、地滑りの音と共に石の下から聞こえます。
それは生き物が、残酷にも磨り潰される音なのでした。
あまりのできごと子供たちは言葉を失いました。
そしてこれに一番に真っ青になったのは、先頭に居た引率の少年・ランドでした。
「どうした、誰か巻き込まれたのか!?」
石材が滑り落ちた方向には、実の妹であるアビィが居たはずです。
「アビィ?アビィか!?」
ランドは狂気のように叫びました。
しかしその石材の向こうに、呆然とした面持ちで地面に座り込むアビィの姿が見えたのです。
アビィは無事だ!しかし安堵してもいられません、ランドは急いで班の子供たちの数を数えます。
一、二、三、四……八人。全員居ます。
「……あれ?誰が潰れたんだ」
「兄ちゃん、知らない奴だ」
「知らない奴?」
「ついさっき、声を掛けてきた知らない子がいるの」
「そいつがアビィを向こうに突き飛ばして、代わりに下敷きになったんだ」
子供たちが口々に報告します。
しかしこの辺りに自分たち以外に子供など居るはずがありません。
しかし、確かに"人間の子供"が潰された跡はあるのでした。
「誰だこいつは?」
すると、全身をペシャンコになった子供の身体がジュクジュクと音を立て、みるみる再生していきます。
そして段々と、また元の子供の姿へと肉片や骨が戻っていくのでした。
その恐ろしく不気味な光景に、子供たちはおろか年上のランドすら愕然としました。
それはこの世の物とは思えません。
「兄ちゃん……こいつ、不死人だ」
タンタのその言葉に、全員が息を飲みました。
~つづく~




