三十一、 世界実報とレイロウの帰還
アーガンドいちの大新聞・"世界実報"がノートデール地方沖の海中大爆発を報じました。
それが国中に伝わり、それはそれは大きな騒ぎとなりました。
やれ海底火山が爆発しただの、いや空から星が降ってきただのと、いろいろな憶測が飛び交いました。
しかしその内、どうやら世界有数の大富豪・ウインロウ氏の帆船がその付近の海上に居て、爆発に巻き込まれたのだと報じられました。
確かにその日からウインロウ氏にその息子キンバル氏、そしてその側近たちも行方不明となってウインロウ家は大変困っていたのです。
やがてこの件について更にいろいろな情報が飛び交うようになりました。
ウインロウ氏の遣いの者がこの辺りの漁師たちに沈没船の話を聞いて回っていたり、
昔話や伝承に詳しい長老を訪ねて歩いていたり、
ウインロウ氏所有の立派な帆船が頻繁にこの辺りの海上に現れたりしていたからです。
そして遂に真実を語る者が現れました。
それはあの港と沖の帆船を繋いでいた、渡し船の船頭です。
船頭は自分の知る全ての情報を"世界実報"に売ったのでした。
ウインロウ氏は、伝説の剣・"竜牙刀"を探し求めていた。
それが数百年前に沈没した船の中にあることを突き止めた。
その探索の為に大きな帆船を用意し、潜水夫を何人も集め、超人族を三人を雇い入れた。
そしてついには"百足"に居る不死人族の少年まで呼び入れた。
そして不死人が乗船した二日後、海上であの大爆発が起きて帆船も巻き込まれて跡形もなく"消え去って"しまったのだ、と。
恐らく帆船に乗っていた人間は全員死んでしまったのでしょう。
しかし不死人だけはまだどこかで生きているのではないか。
不死人の少年だけが事の真相を知っているのではないか。
伝説の剣・"竜牙刀"は、持つ者に竜の強大な力を授けると言います、
あの大爆発も"竜"の力ではないのか。
船頭の発言により、こんな情報が世界を巡ったのでした。
実際はあの大爆発の中で、一人確実に生き残った者が居ました。それはカルラです。
カルラはあの日、船室内で異変を感じ取るとすぐに甲板に出て"笛"を吹きました。
そして飛んできた白磁に飛び乗って海上を離れ、間一髪で難を逃れたのでした。
大爆発の後の海はまさに地獄の様相を呈していました。
海にぽっかりと大穴が開き、海底が丸見えになる程の威力でした。
そしてカルラは白磁に乗って空からレイロウたちを探して周りましたが誰の姿も見えず、
やがて大穴に海水が流れ込み何も見えなくなったので、仕方なく百足のアジトへと戻ったのでした。
カルラは一部の幹部に、レイロウがノートデール地方沖の大爆発に巻き込まれて亡くなったかもしれないことを話しました。
いくら不死人でも、海の中で粉々になれば助からないだろう、と思ったのです。
そしてその事をルユールはじめ白刃の会の皆にはどう伝えようかと考えあぐねていたのでした。
まだ彼らはレイロウがウインロウ氏の依頼から戻ってないと思っているのです。
そんなある時、レイロウがひょっこりとアジトに戻ってきたのです。
なんとあの大爆発に巻き込まれ、海の彼方に流されるもなんとか岸まで泳ぎ付き、ここまで歩いて帰って来たのだと言います。
レイロウ帰還の知らせを受けてカルラはアジトの地上の入り口に急ぎましたが、そこに居るレイロウの姿を見てたいへん驚きました。
レイロウの背にはあの伝説の剣・"竜牙刀"が掛けられていたのでした。
カルラはいつもの飄々とした様子とはうって変わり、慌てふためいてせっかく帰ってきたレイロウを連れてアジトからとても離れた所まで連れて行き、言ったのでした。
「お前、無事なのは良かったが、その背の物は何だ」
「"竜牙刀"だ。ウインロウ氏がどこにも居なかったから、代わりに貰ってきた」
「……ひとつ聞く。いいか?あの日の大爆発の原因は、その剣だな?」
「そうだ」
「やはり……あの"持つ者に竜の力を与える"、という伝説は本当なのか」
「本当だけど、それだけではない」
「どういうことだ?」
「この剣が、持つ者に竜の力を与えるのは本当だ。その代わり」
「その代わり?」
「この剣は、持つ者の命を奪う。その命を代償に、竜の力を与えるんだ」
「……」
レイロウの返答に、カルラは絶句しました。
そうだとすると、この剣を引き抜こうとした手にした潜水夫が二人とも急に絶命した理由も分かるのです。
そして、レイロウだけがそれでも"生きて帰ってきた"ことが。
「確かか?」
「確かだ」
「そうか……お前は海底でその剣を抜いて、振り上げた」
「うん」
「そしてその剣の"竜の力"で大爆発が起きた」
「うん」
「その代償に、その剣に命を吸われた」
「うん、吸われた」レイロウは頷きました
「しかし不死人なので、死ぬことはなくまた蘇った。そういうことか」
「ああ、そうだ」
レイロウは屈託のない笑顔でそう応えました。
まるで新しい玩具を与えられた、無邪気な子供のような明るい表情です。
しかしそれは玩具ではなく、竜のごとくこの世界を支配できる力を持った、恐ろしい代物です。
これは大変な事になったと、カルラは思わず天を仰いだのでした。
~つづく~




