二十八、 超人(サイコ)族
甲板から船内に入ると、そこはよほど広くてガランとしていました。
小さな窓から陽は入りますが、中は薄暗い空間となっています。
そこには三人の女性が待っていました。
ひとりは、ふくよかで全身黒い恰好をして手やら首やらにジャラジャラと貴金属類を付けている派手な中年の女性。
色白でしっとりとした肌質は、"なめくじ"のようです。
女性はゆったりとした揺り椅子に座り、その前の机の上にはまあるい水晶と思われる"玉"が座布団の上に置かれています。
もうひとりは白くてさっぱりとした服を着た、"ふくろう"のように目がやたらにギョロギョロとた背の高い若い女性。
そして最後のひとりは、中肉中背のたれ目でニコニコと人懐こい"たぬき"のような顔をした、壮年の女性なのでした。
この三人に、『この人達だ"違和感"の正体は』とレイロウは思いました。
「へえ。これが"超人族"かあ。初めて見たね」
カルラがそう大仰に言いました。
「ふん、こちらも不死人族なんて初めて見たわ。本当に居るのね」
超人族の"なめくじ"も負けじと言い返します。
どうやらこのなめくじのような女性が三人の中心人物のようです。
なめくじの発言にうんうんと"ふくろう"も"たぬき"も頷きました。
「まあこれから力を合わせて仕事をすのだ。仲良くしてくださいな」
そう老紳士・アガフル氏が気を使って言いました。
そもそも超人族は"族"とは名乗っていますが、そのような人種や民族があるわけではありません。
人間族の中では、"特殊な能力"を持つ者がごくごく稀に生まれます。
それは
手を触れずに物体を動かす『念動力』や、
壁の向こうや裏側を透かして見ることができる『透視』、
遥か遠くにある物を見ることが出来る『千里眼』、
人の心や考えていることを読み取る『読心術』、
自身を瞬時に離れた場所に転送する『瞬間移動』、
自身の姿を透明にする『透過』、
先の未来を読むことが出来る『予知能力』、
など様々な力です。
またそれぞれの"能力"の練度にも強弱があります。
このような力を持つ者は幼少の頃から怪物・異能と呼ばれ周囲からつまはじきにされることが多かったのですが、
その事を知った後の"長"となる人物がそれらの世界中の人々を集めて、"超人族"という集団を作ったのです。
そして"超常の民"として共同生活を行い、時に協力し、時にその力を外へ貸し出し暮らしたのです。
これはカルラが身寄りのない子供達を集めて作った"百足"と似ているのでした。
「こちら、若者の新興勢力"百足"の総統・カルラ氏と、そこに所属する不死人族のレイロウ君」
と、先ほどと同じようにアガフル氏がカルラとレイロウを紹介しました。
そして
「こちらの三名は、超人族である――」
そこでなめくじが急にアガフル氏の発言を止めました。
「いいわ、言わないで」
「はい?」
「私たちの名をこんな輩の大将に、ましてや不死人になんか伝えたくもないわ!やめて頂戴」
なめくじの言い分にふくろうとたぬきもうんうんと頷きました。
「なんだとう!」
その発言にレイロウは思わず激高しましたが、それを横に居るカルラが制しました。
「何で止める?」
「いい、まずは黙ってろ。相手は超人族だ、何をされるか分からん」
これまで数々の諸国を漫遊していたカルラですが、超人族と"直接"会うのはこれが初めてなのでした。
超人族は、それぞれがどんな力を持っているか全く持って分かりません。
やもすると念じるだけで身体を攻撃される恐れもあり、下手に刺激を与えないのが吉なのです。
よって名前が分かりませんので、この三人の女性をそれぞれ
なめくじ
ふくろう
たぬき
とそれぞれ呼ぶことにします。
「さて、では早速ですが今回の"依頼"をお伝えさせてもらいましょうか」
そう言ってはキンバル氏が超人族の三人に目配せをしました。
すると三人はそれぞれ配置につきました。
なめくじは椅子に座りながら前の机にある水晶玉に両の手をかざしました。
ふくろうはそのギョロギョロをした目をきつく閉じ、頭を垂れました。
そしてたぬきが右手をふくろうの背中に、左手をなめくじの背中に置きました。
そしてそのままじっと動かなくなりました。
これが三人の決められた"形"のようでした。
「なぜあなた方をこの海の上に呼び立てたのかと言いますとね、この船の真下、海のずっと底に、古い船が沈んでいます」
キンバル氏がレイロウとカルラに向けてそうゆっくりと口を開きました。
「その船はこの帆船の何倍もあるような、鉄で造られた船です」
「鉄?船が?」
レイロウは思わず言いました。
鉄と言えば、剣の刃となる素材です。
そんな大きな鉄で造られた船が海に浮かぶとは考えられません。
「ええ、その昔は今よりもっと世界全体の技術が進んでいたのです。その鉄製の船は当時最大の運輸船として大切な荷物を沢山積んで、タンテの岬から今のゴンウの港まで向かっていました。しかしその途中、決して沈むことはないと言われていたその船が真ん中で真二つに割れて、沈んでしまったのです。それが今から400年以上も前のお話です」
へえ、とふたりは感嘆しました。
「我々はその話を古い文献や地元漁師たちの噂話、古くから伝わるおとぎ話から読み取り、そして超人族の協力も得て、ついにその場所を特定したのです。それがこの船の真下、なのです。我々はこの場所を特定するのに10年の月日と、多くの費用を費やしています。想定以上にね」
ここまでキンバル青年は熱弁し、その様子に横のウインロウ氏が静かに頷きました。
「……準備できましたわ」となめくじが言うと、
キンバル氏は「ではこちらを見て下さい」となめくじが両手をかざす水晶玉に視線を向けました。
その大きな西瓜くらいの大きさの水晶玉はぼんやりと光だし、そこに何かが映し出されています。
レイロウとカルラが一歩前に乗り出し、目を凝らしました。
~つづく~




