二十七、 大富豪・ウインロウ氏とキンバル氏
渡し船を帆船の横に付けると、帆船の上の甲板からするすると縄梯子が降りてきました。
帆船は梯子が無いと乗れないくらい大きいのです。
その縄梯子を最初は老紳士・アガフル氏が登り、その次にレイロウ、そして最後にカルラが登ったのでした。
そして三人が無事に甲板に登ったことを見届けると、船頭は渡し船をギッコギッコと漕いで来た陸の方へと戻って行ったのでした。
縄梯子を登りきったレイロウはまず、こんな大きな船に乗った喜びより先に、"ある違和感"が襲いました。
この不思議な感覚は……まるであじとの"箱庭"に居る時のようです。
白磁程ではありませんが、人によっては耐えることの出来ないあの"変な空気"に似たものがあるのでした。
それをカルラも同じく感じ取っているようでした。
「ようこそ、我が主の船・眺望丸に」
"眺望丸"、これがこの帆船の名のようです。
カルラとレイロウは、誰も居ない甲板の上を見回しました。
二人ともこんな大きな帆船の甲板は初めてなので物珍しさもあるのですが、それよりもこの"違和感"です。
何事もなくニコニコ作り笑いをする老紳士にカルラがまず言いました。
「……何か居ますな」
その言葉に、レイロウも神妙な顔をして頷きました。
「何か?ああ、主は向こうの船室内におりますが」
「いや、そうじゃない。人間でない、何か"異質な者"も居るのではないか?」
「ほう、何故そうお思いで?」
そう問う老紳士にレイロウが答えました。
「何か変な感じがする」
「それはきっと船酔いですよ、初めての船旅ならば無理もない。ハハ、不死人でも船酔いはするのですな」
「違う、そんなんでない!」
「アガフルさん……」
そう真剣な顔つきでカルラが声をかけました。
「あんた、主の"事業"の事を何も知らないと言っていたが、本当は全て知っているんだろう?とんでもない爺さんだな。言え、この船に何が居る?何か"人ならざる者"が乗船しているのではないか?それを隠すと言うならーー」
「隠すと言うなら?」
「我ら二人は依頼を断りすぐ帰るぞ」
「ははは!渡し船も戻ったと言うのに、この沖に浮かぶ帆船からどう帰るというのか!」
カルラの言い分に、老紳士は大声で笑いました。
しかしカルラもレイロウも何も笑いません、至って真面目な顔をしています。
その表情に老紳士は何かを感じ取り居直りました。
「おぬしら……だいたい、"人ならざる者"であれば不死人の方がまったくもって"人ならざる"であろうに」
その時、向こうの船室の扉がギッと開いて中から人が出てきました。
立派な出で立ちをした歳の頃は五十ほどの紳士と、そのお付きの若き青年なのでした。
歳の頃はカルラと同じ位でしょうか。
「アガフルさん、ようやく戻られたのですか」
青年がそう声を掛けました。
「ええ、旦那様、若様ただいま戻りました」
そうかしこまる老紳士を見て、この若様と呼ばれる青年の方がよほど立場が上なのだとふたりは理解しました。
「ああ、こちらから船内に向かう所でしたのに何も甲板にお出にならなくともーー」
「よい、外の空気が吸いたかっただけだ」
今度は立派な出で立ちの紳士が尊大な態度で応えました。
「紹介しよう、こちらが今回の依頼の主・ウインロウ氏だ」
老紳士・アガフル氏からそう紹介されてもウインロウ氏は微動だにせず、レイロウとカルラを目だけを動かしてギロリと見ました。
その顔立ちやいで立ちはまさに男盛りの精力に満ちており、これが"世界有数の富豪"と言われる人間なのだとレイロウは思いました。
「そしてその側近であられるキンバル氏だ」
「どうも」
キンバル氏と呼ばれるその青年は、ウインロウ氏とは違い人懐こい顔をカルラとレイロウに向けました。
しかしその表情にどこかウインロウ氏の面影があり、このキンバル氏はウインロウ氏の息子なのだとふたりは直感したのでした。
「こちら、若者の新興勢力"百足"の総統・カルラ氏と、そこに所属する不死人族のレイロウ君」
今度はキンバル氏が二人をこう説明すると、ほうと言った様子でウインロウ氏が目を見開きました。
そして傍にいるキンバル氏にそっと耳打ちをしました。
それを受けて、キンバル氏がこちらに向かって言って来たのです。
「不死人族の働き手が居ると聞いて雇ったのであるが、そなたがそうなのか。年齢は幾つだ、そんなに子供だとは思っていなかかった。と仰っておられる」
そうです、やはりこの世界有数の富豪・ウインロウ氏もそうなのでした。
賤民である不死人とは直接口を聞かない、
お付きの人を通じて間接的に語りかける、そんな大人のひとりなのでした。
「この二人でなはないな……」
カルラはとなりにいるレイロウに聞こえるだけの声でそうつぶやきました。
レイロウも微かに頷きました。
確かにこの二人はとんでもない金持ちではありますが、唯の人間のようです。
するとこの"違和感"の主はこの船の中に別に居ることになります。
「ウインロウ様、この二人が何か"違和感"を覚えたようでそれをしきりに気にしていますが……」
その老紳士・キンバル氏の言葉に大富豪の親子は顔を合わせました。
その表情は少し驚いているようにも見えます。
「二人ともですか、アガフルさん」
「はい、ふたりともそう申しておりますが」
「へえ、不死人は兎も角、百足の親方も感じるとは、やはり"唯の人"ではないのですね」
そう言うキンバル青年に、カルラが思わず口を挟みました。
「"唯の人"とは?」
「いやいや失礼、我らのような"力"を持たぬ者は特に何も感じないのでね。"異能力者"同士はやはり惹かれ合うようです」
「あなた方は一体何を仰っているのか」
「いえ、予め先に言っておきましょう。あなた方にとっては、とても心地が悪いものなのでしょう?どうせすぐに顔合わせをするのです」
その言い様に、今度はカルラとレイロウは顔を見合わせました。
「この先の船内に、"超人族"の方が居ます。それも三名ね。恐らくその方々の纏う"気"をあなた方は感じ取っているのですよ」
「超人族だって!?」
"超人族"、それはこの世界に1000人も居ないという"異能力"を持つ人々の相称なのでした。
~つづく~




