二十六、 旅へ
二十六、 旅へ
すぐにカルラとレイロウは老紳士・アガフル氏の乗ってきた六頭立ての豪華な馬車に乗り、出発しました。
その馬車の四隅をそれぞれの馬に乗った四人の兵士が守ります。
レイロウの仕事は当面ルユールがひとりで受け持ってくれることになりました。
その事よりも馬車に乗っていくには武器となる剣を置いくしかないと言われたので、仕方なくお師匠の官給剣はアジトに置いて行くことになりました。
大事に保管してもらうように白刃会の代表・ダイラーにお願いしたのでした。
「おう、剣は任せておけ」
「気を付けてな!まあ気を付けても付けなくても、不死人だから死ぬこともないか!」
「はは、違いない」
そんな軽口を白刃会の皆に叩かれながら、レイロウはカルラと旅路に出たのでした。
思えばここ百足のあじとに来る前もカルラとレイロウは二人で旅をしていて、なんだかもう懐かしいような気がしたのでした。
「これからの行先は秘密でな、本当はずっと馬車の窓掛けをして行かねばならないのだが、それでは長い道中つまらんだろう。ところどころ窓掛けを開けて外を見てるようにしてやるよ。その代わり着いたら内緒でな」
またこの老紳士はそんな適当な事を言って馬車の中でカルラとレイロウと同乗しているのでした。
これは単に自分が道中退屈なので外を見たいだけだろうとレイロウにも分かりましたが、夜以外はほぼ開けたままだったのには本当に呆れてしました。
馬車は十日ほどもずっと進み続けました。
途中、窓からは街角の書店であったり刀剣を扱っている小道具屋が見えたものですから、レイロウは思わず降りて行っても良いかと聞きましたが、
これにはさすがに老紳士も首を縦には振りませんでした。
断られたレイロウは、でもまた今度白磁に乗ってこの辺りに来てみようと思ったのでした。
馬車で何日もかかる道のりも、白磁であればひとっ飛びだからです。
道中、老紳士は幾度も「お前たちが一生かかっても乗れるような馬車ではないのだぞ」とこの豪華な馬車を誇りましたが、
レイロウにしてみれば馬車なんかよりも大空を滑って進む白磁の方がずっと早くてずっと素敵な乗り物なのでした。
そうしてまた幾日も馬車は進みました。
そして遂に辿り着いたその先は、なんと"海"なのでした。
「ほう、海か」
とカルラは意外そうな声を出しました。
海、レイロウはボタ山の書架にある御本で知ってはいましたが、見るのは初めてです。
海とは、この世界の表面の大部分を占める塩水で満たされた広大な水域で、かつては多様な生態系を育んだと言われます。
これは単なる大きな水たまりではなく、生命の源がこの世界を形成する重要な役割を担っているのだとか。
その"海"のあまりの荘厳な景色と規模、そして独特の"潮"の匂いにレイロウは圧倒されてしまいました。
空は蒼々と晴れ、その下の翠玉色の海との対比も実に美しかったのです。
その海の淵に桟橋があり、そこではまた人が待ち構えていたのでした。
「アガフルさんお待ちしましたよ」
「ああ。こちらの二人が今度の客人だ」
そういうと老紳士はその人にカルラとレイロウを紹介しました。
「私はお二人をお連れするよう主に言い付けられた船頭でございます。これからお二人を主の待つ"場所"までお連れします。道中揺れますのでお気を付けを」
そう言うと船頭は桟橋の端に付けてある、渡し船を指しました。
とても古い木造の小舟で、ところどころがギシギシしていて、尾に"櫓"が付けられているのでした。
どうやらこれに乗って、ギコギコと櫓を漕いで沖にまで出るようです。
先ほどの豪華な馬車とは一転、みすぼらしい船での移動となりカルラは辟易しましたが、一方はじめての"船出"にレイロウの心は躍るのでした。
ぐらぐらする渡し船にカルラとレイロウと老紳士。アガフル氏が乗り込み、船頭が櫓を漕いで船は沖へと向かいました。
「何だい、あんたも乗るのかい」とカルラが言いました。
てっきり、この老紳士は陸に残るとばかり考えていたのでした。
「行くさ、主に直接引き会わせると言ったろう?」
そう言ってまた小瓶の酒をグイと飲みました。
老紳士は馬車で行く先々で兵士にその地の酒を買ってこさせ、この小瓶に注いでいたのでした。
「そうか。まあこれで海上で大っぴらに襲われる心配も無くなったな」
「はは、大事な客人だ。そんなことはしないさ」
そう、カルラとアガフル氏は不適に笑いあいました。
元々の依頼は、不死人であるレイロウだけの派遣です。
無理に付いてきたカルラはその道中で引き剝がされたり殺されることも念頭に置いて実は気を張っていたのでした。
この小舟であれば全部をひっくり返せば不死人のレイロウだけが生き残りそれを捕らえる算段も考えらますが、
老紳士が乗ることでそのような手も使えないのです。
そこまでこの"食えない老紳士"に道中ずっと警戒をしていたカルラなのでした。
そんな気も知らないレイロウは、小島の間に見えた巨大な"帆船"の姿に「わあ」と声を上げたのでした。
沖に浮かぶその帆船の立派なこと、まるでちょっとした小島のようです。
あそこが今回の依頼の主の待つ帆船なのでした。
世界有数の大富豪・ウインロウ氏、はどんな人なのでしょう。
レイロウは"お金持ち"によい印象はありませんでしたが、こんなに遠くから自分に会いたいという人がおり、それが世界有数の大富豪とのことなので、きっと立
派な人であればいいなあと淡い期待を心に秘めていたのでした。
~つづく~




