二十二、 森の民・森窩(シンカ)のルユール
それからのレイロウの"百足"での生活は、殆どがルユールと共ににありました。
カルラが大仰に"白磁隊"だなんて言うので、どれほどの組織なのかと思って聞くとルユールとレイロウの二人部隊、
つまりこれまでルユールひとりだけの組織なのでした。
それを知った時、「なあんだ」とレイロウは少しがっかりしたのですが、逆に言えばそれだけ未知の生物"白磁"の扱いが難しいという証拠なのでした。
何せ合わない人間は白磁に近づくだけで頭が痛くなったりするのですから。
白磁隊の目的は、一匹でも多くの白磁を"魔虫の森"で捕まえては持ち帰り、
"乗り物"として利用できるように手なずける事でした。
レイロウはアジトの上の方のひとり部屋を与えられ、朝になると崖上の"箱庭"に向かい、ルユールと白磁のお世話をします。
お世話というのは、白磁の寝床を綺麗に掃除したり、人間に慣れさせる為に一緒に箱庭内を駆けまわったりじゃれ合ったります。
そしてそれらが終わると二匹の白磁の背中に乗り、ここから何百里も離れた"魔虫の森"に飛んで行って、そこで新たな白磁の子供を捕まえる算段をします。
(白磁のごはんはあじとでは調達できない為、魔虫の森へ行った時にそこに自生す特別な植物の新鮮な茎を食べさせたりします。
そして夕方にはまた白磁に乗ってあじとに帰って来るのです。
ここ"百足のあじと"にルユールがカルラに連れてこられたのがおよそ一年前。
その時、ルユールが森の里から持ち帰った白磁が一匹。そしてこの一年間で捕らえて手懐けた白磁は一匹のみでした。
そしてレイロウが"百足のあじと"に連れてこられて一ヶ月ほど経ちましたが、この間で既に二匹の白磁を捕まえたのです。
魔虫の森の中で生まれ、森の民・"森窩"の娘として育ったルユールよりも、レイロウの方がわずかな時間で成績をあげたのです。
しかしこれに対してルユールは快く思わない所か、むしろレイロウを心から賞賛したのでした。
それほどまでに白磁を捕まえるのは難しく、まさしく大したものなのでした。
ある夜、あじとの最上階にあるカルラの部屋にサンタンがやってきてここ一月ばかりの報告を行いました。
サンタンは手元の資料を見ながら、
農業林業、畜産、技術・技能、運搬、清掃、教育、飲食、衣料、医療、法務、
それぞれの組織のここ一か月に成果の説明を終えた後、最後に"白磁隊"の報告を述べたのでした。
「え?この一か月で二匹も捕らえた?」
これにはさすがのカルラも驚きを隠せないのでした。
「お頭、レイロウが白磁狩りの才能があるのを分かって白磁隊の所属にしたのでは?」
「いや……何となく白磁ともルユールとも相性が良さそうだとは思っていたが、まさかそこまでとはねえ」
驚きながらもにやにやと笑っているカルラ。
その様子を見て、サンタンはこの"勘の良さ"や"運の良さ"もカルラが持つ特殊な能力であるなと思ったのでした。
「でもまあ、これでいつでも自由に白磁に乗って出かける事が出来るな」
「いや、捕えたばかりの二匹にはまだ乗ることが出来ないと思いますよ。そこまでは手なづけてないかと」
「何だって!?ではすぐに乗れるようにしたまえ!それが急務だ!」
そうわざとらしく叫ぶカルラに、サンタンは少し呆れたような顔をしました。
カルラは大事な白磁をルユールに内緒で勝手に乗って出かけてしうので、
よく小言を言われていたのでした。
「で、レイロウは変わりないのかね。ルユールとは仲良くできてる?」
「あんがい仲良くやってるようですよ」
「ほお、あの気難しい娘とね」
「"森窩の娘"と、"不死人の少年"。境遇が似ているので気が合うのではないですかね」
そうなのです。
ルユールは"魔虫の森"と呼ばれる、甲殻獣の巣となる広大な樹海の中に住む、少数部族の娘なのでした。
その部族は森の民・森窩と呼ばれています。
基本的に、"魔虫の森"に人は誰も立ち入りません。
その中に住む甲殻獣は不可思議な力を持つ為、慣れない人間は安易に近寄ることも出来ないし、
またその中には人を丸飲みしてしまうような大きくて狂暴な甲殻獣も棲んでいると言います。
しかしあえてその中に住み、暮らす者達がいるのでした。
それが"森窩"です。
森窩は、元は人間社会で悪さをした者を"魔虫の森"へ追放した罪人の末裔だとも言われています。
人間社会で生きていくことを辞め、森の中で甲殻獣との共生を選んだ人たちです。
森窩は森の中を甲殻獣の背に乗って移動し、甲殻獣の抜け殻を加工した刃物や道具をこさえてはそれを外界の人間に売ったり物々交換をして生活しているのでした。
そんな人間社会から隔離された部族の子供ということで、レイロウとルユールは境遇が似ていると言われたのでした。
「レイロウ君はルユールさんに、"なぜ顔をいつも隠しているのか、顔を見たい"と言ったそうですよ」
「はは、世間知らずのレイロウらしい。で、なんて?」
「"夫婦となったら、見る事ができるかもね"と言われたそうです。それで、私に"めおと"ってなんだと聞いてきました」
「はは」と、カルラは苦笑しました。
森窩の若い娘は常に独特な覆面で顔を隠し、自分の家族以外には素顔を見せない掟でした。
つまり、顔を見せるには家族になる、夫婦になるしかないのです。その事をルユールは言っていたのです。
ルユールは森窩の中でも進んだ考えを持つ娘で、この自由に顔を出して生活もできない、
世相を離れた世界でしか生きられない堅苦しいオキテやシキタリに反発の心を持っていました。
そこで偶然、"魔虫使い"の仲間を探し求めていたカルラと出会い、勧誘され、ここ"百足"の一員となったのでした。
しかし、それでも他人に素顔を見せられないという部族の因習は、彼女を根深く侵していたのでした。
「ここに来てもまだ心を開き切れてないルユールさんに対して、何も物怖じしない性格のレイロウ君、確かに面白い組み合わせかと」
「はっ、殺しても死なないような奴が物怖じなんかするもんかい」
そう嘯くカルラですが、しかしレイロウこそがルユールの"覆面"を剥がすきっかけになると踏んだのでした。
カルラが百足を結成しておよそ5年、この二人が百足を更なる組織へと変化させえる礎になると予感したのでした。
~つづく~




