十七、 死合い(二)
「冗談じゃない!今すぐここを出ろ!神聖な我が道場を穢しやがって!!」
エリク師範が激高しました。
三人の師範の中で一番冷静で理知的に見えたエリク師範が怒号を上げることに、レイロウは驚いてしまいました。
「おい、お前は本当に不死人なのか?」
「……はい」
「ああ、なんてこった!」
「貴様、なんだ不死人族の分際で!すぐに出ていけ!!」
そう言ってダダリ、ロットの両師範も急にその態度を変えました。
レイロウは一体何が起きたのかきょとんとしています。
「でも今は試合中では」
「関係あるか!」「そんなものはもう無効だ!」
「そんな!」
そこでカルマが叫びました。
「では、ダダリ師範殿は"参った"ということでよろしいかな?」
「は?何を言う、もう試合どころではない、お前もすぐに出ていけ!」
「そうおっしゃるならば、そうしましょう。しかしそれはそちらの"試合放棄"で、この勝負はレイロウの"勝ち"でよろしいですね」
「馬鹿を言うな!そんなわけがなかろう!」
「一方的に打ちのめしていたのはこちらだ!」
「不死人との試合なんて、そんなものが成り立つわけが――」
「あれ、そんな約束はしませんでしたよね?勝敗は、どちらかが"参った"というか"立てなくなる"までのはず。
レイロウはこうして立って剣を構えているのですから、この状態で試合を終わらせるのはそちらが"参った"ということでしょう」
「違う!何を言う!」
「こんな汚らわしい物を我が道場に立たせやがって、貴様騙したな!」
「騙すも何も、こちらは何も聞かれていませんからね」
この師範三人とカルラの会話を聞いて、レイロウが自分は"不死人族"であり、世間から忌み嫌われる下賤の一族であることをにわかに思い出したのでした。
「そちらがこの試合を終わらせると仰るなら従いましょう。しかしそれはダダリ師範が"参った"した事に他なりませんから、この少年剣士・レイロウが勝ったということで収めさせてもらいます」
「貴様……」
「審議!審議だ!!少し待っておれ!!」
エリク師範はそう言って他の二人の師範を呼びつけると、闘技場の隅に集まり何かを話し合い始めました。
この思いもよらない緊急事態に、三人で相談をしているのです。
その様子を、レイロウは闘技場の真ん中に立ちながら不安な表情で眺めていました。
隅でスクラさんと並んで立っているカルマは何やらしたり顔です。
「どうする?」
「まったくしてやられた」
「これでは留守を任してくれてた若先生に顔向けできない」
「道場に不死人を立たせた事実は、もう消せない。しかしーー」
「これ以上、失態を重ねるわけにはいかんだろう。こちらから試合は降りられない」
「だが、あの子供は不死人だろう?噂では首を跳ねても死なないと聞きくぞ」
「だったら幾ら殴って痛めつけても際限がないではないか」
「いったい何でこんなことに」
「いやしかしーー」
そこでダダリ師範が含みを持たせて言いました。
「あいつ、"痛み"は感じているぞ」
「何だって?」
「なぜ分かる」
「分かるさ。二回とも殴る直前に身をこわばらせている。もし無痛の不死身であるならば、奴は何も反応しないはずだ」
「ほう」
「しかし、殴る前に必ず反応しているということは、それなりの痛みはあるのだ」
「成る程、であれば」
「嫌というほど殴り続ければ、"参った"はするわけか」
やがて師範三人による審議は終わり、ダダリ師範と審判であるロット師範はレイロウの居る闘技場の中央へ、
エリク師範は隅のスクラさんとカルラの側に戻ってきたのでした。
「おうおう、長々と何を話してた?」
と、煽るカルラをエリク師範は黙殺しました。
「ダダリ師範とレイロウ少年の試合を続行する!」
ロット師範のその宣言に、レイロウの顔はパッと明るくなりました。
レイロウはてっきり、不死人族である自分の事を、師範たちが剣士として認めてくれ、
それで試合を続行してくれたのだと思ったのでした。
レイロウはダダリ師範に向け
「よろしくお願いします!」と大きな声であいさつしました。
しかしダダリ師範はそれに何も反応することはありません。
「では、はじめ!」
そうロット師範が声を上げた瞬間、ダダリ師範がまた恐ろしい速さでレイロウに向かって来て、正面から拳でレイロウを殴り飛ばしました。
その勢いは、先ほどの2発とは比較にならない程の強さで、
拳に憎しみや怒りのような感情が込められているのが感じ取れる程です。
レイロウは口の中が切れて血があふれ出し、折れた歯が口の中でゴロゴロと散らばりました。
顎の骨も折れて口が閉じず、血とよだれと折れた歯がボタボタと地面に滴り落ちました。
「きゃあ!!」
「ああ~、ありゃ酷い!!」
スクラさんが目を反らし、カルラは驚き呆れました。
今度はなかなか起きられないでいるレイロウの元にダダリ師範は近づき、見下ろしながら言いました。
「お前が不死人だと分かった以上、こちらも手加減はしない。これから始まるのは"地獄"だ、早く"参った"することだな」
その目はレイロウに対する害意と侮蔑に満ちていました。
これまでの2発のげんこつは、全く本気ではなかったのでした。
~つづく~




