十四、 試合い(一)
ドスドスと怒りにまかせて歩く師範たちに続き、カルラとレイロウは建物の奥にある剣技場に辿り着きました。
「わあ」
と、レイロウは思わず声をあげました。
剣技場はとても広い円形をしており、天井はなく高い空が見えていました。
そしてその土の地面は踏みなさられており、先程まで多くの剣士がここで激しく稽古していた様子が見て取れるのでした。
カルラ、レイロウの後にスクラさんもオドオドとした様子でついてきました。
いつも冷静沈着で優しい師範たちが声を荒げながら少年・レイロウと試合うというので、心配で仕方がなく来たのでした。
「さて、まだまだ陽が高い。ここで勝負をつけようか少年」と、ロット師範が言いました。そして
「お前、この三人のうち誰と試合うのだ?選ぶがよい」とのダダリ師範の声に、レイロウは少し戸惑いました。
「ええと、三人ではないのですか?」
その返しに、思わずカルラが噴き出しました。
「こりゃあいい、三対一か!!これは舐められたものですな、師範さんたちよ」
師範たちはまた怒りで静かに肩を震わせていましたが、レイロウは至って真面目に続けました。
「だってお師匠が、敵は目の前の一人とは限らないから、常に三人は居るように考えて動くように言われたよ」
成る程。これが道場の試合でなければ、"確かに"です。
戦では、どこに敵が潜んでいるかは分かりません。常に目の前に見える相手だけでなく、他にも複数人いることを想定するのは道理に叶っています。
しかしここは戦場ではありません。
ダダリ師範が、少年を諭すように言いました。
「レイロウ、これは道場での試し合いだ。どちらの剣術が上かを、相手と向き合い競うものだ。一対一での勝負にしなさい」
「分かりました。では……ダダリ師範でお願いします。」
「なぜ俺に?」
「一番身体が大きくて、強そうだからです」
「相手が一番強いと、お前にとっては損ではないのかね」
「……よく分かりませんが、お師匠の薦めた剣術道場であるならば、そこで一番の剣士と手合わせ願いたいからです」
「ふん、成る程な」
なかなかの剣士ではあるな、とダダリ師範は思いました。
思えばレイロウのお師匠はこの道場の創始者・大先生の同胞であり、昔気質の剣士の心意気を引いているのでしょう。
しかし言い換えれば現代の洗練された剣術ではなく、前世代の"時代遅れ"の剣であるとも言えます。
先ほどからの少年のずれた発言も、少しばかりは多めに見ようと思いました。
「あい分かった、私がお相手しよう。ではスクラさん、この少年に合う木剣を倉庫から持ってきてもらえますかね」
「はい、分かりました」
そうスクラさんが返事をした時、慌てたようにレイロウが言いました。
「木剣なんて要りません、私にはこの剣があります」
そして例の、お師匠から譲り受けた官給剣を掲げたのでした。
それに慌てたのは師範たちです。
「待て、お前はそれで試合をするというのか?」
「流石にそれは看過できぬぞ」
「いえ、でも僕にはこの立派な剣がありますので」
「しかしそれは"真剣"だろう」
「はい、いけませんか?」
「良いわけがないだろう!」
「道場内で真剣で試合うなんて聞いたことがない!」
「いいからこちらが用意する木剣を使いなさい」
「でも、私にはお師匠から授かったこの剣がありますので、今更"木"を振るつもりはありません。それに」
「それに?」
「こんな立派な道場の師範と立合うのに、木剣では失礼かと」
「……」
ダダリ師範は先ほどの考えを訂正しました。
"時代遅れ"だなんてとんでもない、大先生と同期なのであれば、この少年の師匠は先の大戦を経験した本物の"剣士"です。
その剣士の直弟子であれば、自分よりも"より純粋な剣術"を承った者となります。
"純粋な剣術"とは、"人を斬り、殺す目的の剣術"に他なりません。
現代のような健全な精神を鍛え、礼節を重んじるような"習い事"ではありません。
立派な殺人術に他ならないのです。
ダダリ師範はごく僅かながらこの少年剣士に畏怖しましたが、すぐにその心根を正しました。
いくら心意気が純粋であろうとも、齢10歳ほどの子供なのです。何を気後れする必要がありましょう。
聖都剣術指南所の師範長は、気を取り直して褌を締め直したのでした。
~つづく~




