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無碍なる塔の前世持ち    アンチ光属性 底辺からの異世界職業行脚 或いは人牛の件  作者: いちめ
アンチ光属性 格差社会で教育計画 或いはラミア―の件

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15 基本問題 身につけよう

「抗う者、選ぶ者、紡ぐ者。西の都に災いの降る。紡ぐ者よ、舵をきれ。安住の地を得たくば、偽りの姿を捨てて真実の者を神に捧げよ」


 大変!西都に、アタシの故郷に災いが!予言なんて良く分からないけど皆のために出来ることがあるのなら!……んフッ、んな訳ねえだろ。鼻で笑っちゃったぜ。大体「災い」って何なのさ。予言に出てくるワードがアレ。ほんわかイージーに漠然とさせてどこかしらに引っ掛かる表現だ。こっちはクソ親の元に生まれた時点で災厄まみれよ?自然災害や都市間戦争ならば、6才児にやる事なんかない。最近ほかにと敢えてあげるなら公娼制度に姦淫法とか?つまり全部アタシにどうこう出来る問題ではないのだ。ジャンボとかギャンブル系の当たる奴ならアタシも大興奮だけど、不随意じゃあね。あれ、若くて綺麗な女がふらつくだけだからいいけれど、白目向いて漏らしたり、大男が昏倒して周囲の人を押し潰したら大惨事よ?と、まあアタシは指さして笑うくらいの気分なんだが、世間は勝手な事を言う訳で。あの日も興奮した聴衆に囲まれて(そっちの方が明らかにヤバい)力業のエイジハラで脱出を図った。

「し、失礼ですよッ!」

「えぇー?大人の女の人はオバチャンだよねぇ?主様ぁ?」

 紫の巫女のシンパは神輿にしようと思った予言の受け手がクソガキで「?」「……」眉を顰めるか呆然。野次馬はマヌケなアタシにゲラゲラ笑う。大声でオバチャンを連呼するおバカな子設定で居た堪れなくなったメリナに「い、行きますよッ」急かされながら退場。勿論止められませんでしたよ。あちらさんも喜捨の使用内容なんか明かしたくは無いだろうしね。

竜車に乗ってから猫を脱いだ。

「……アレ、神の加護で間違いないな」

「ええ」

 あの異様な雰囲気はクラテスにアタシの事を探られた時と同じだった。あの場の皆が感じたように「抗う者、選ぶ者、紡ぐ者」は残念ながらアタシで間違いないだろう。アタシの中身を触られたようなぞわりとした感覚は確かにクラテスと同質だった。ってか、ゼフィロスを探しに行っただけなんだけど、何でアタシかね。あの場に足を運んだのは板絵芝居屋を辞めていたゼフィロスにワンチャン会えるかと思っただけだが、会えない上に余計なものに巻き込まれた。あと何か引っ掛かっているのだが出てこない。何だろ…ぬう。竜車は歩いた方が早いような速度で進む。まだ考えているとメリナに聞かれた。

「クロノ、あの予言あなたどうするの?」

「え?何もしないですよ?」

 予言ってそういうもの。少し前にアカシックレコードなんて話をした。宇宙の始まりから終わりまでの全ての記録。非常に運命論的なそれ。あの予言がその未来視ならば、アタシが何をしようがしまいが必ず当たることになる。逆に未来は定まっていないと言うのならば、あの予言は単に最も有得そうな未来の一つに過ぎない。確率が高かろうが低かろうがアタシはアタシがしたい事しかしない。クソ親の搾取に抵抗するのなど、生まれも法的にも是認されていて本来どうしようもない事に抗っているのだ。結論。予言に振り回される必要は一切ない。アタシは「選ぶ者」だと言ったのはそもそもあちらさん。 放置プレイ確定だ。

 でもさ、どこかの国のトップと違って予言などに振り回される気は無いが、癇に障るワードは幾つかあった。「偽りの姿を捨て」?ほっとけよ。いや、マジで。

「アタシにあの予言が為されたって言う事は、真実の者ってのはクラテス様かな?」

「おそらく」

ほかに思い当たる節がない。

「神に捧げよって生贄かよwwwアタシそういうシュミ無いけど」

それを笑い話にしようと思ったところで水を差された。

「クラテス様ならそのような事も」

「え?」

メリナは冗談は言わない。

「ミネルヴァの加護は、個が揺らぐのよ」

「あははっ、揺らいで消滅しちゃうとか?」

まだ茶化そうとするアタシにメリナは言った。それは神の加護とは何かという話だった。

「クラテス様は、あの加護は、使う事が過ぎれば存在が薄れてしまうのだと思う」

は?笑った形のままアタシの顔はかたまる。存在が薄れる?消えるって?そんな事があるのだろうか?明らかに物理法則に反する。だが、ここは「前」の世とは違う。それこそ物理法則に反する神の加護と呼ばれる異能が存在するのだ。そして実際にクラテスの加護に触れた時、アタシも感じたのだ。霞がかかって霧散してしまいそうな儚さを。儚は人の夢と書く死の婉曲表現でもある。だけど……。

「………」

黙り込むアタシにメリナは続けた。その加護が発現して間もない頃、クラテスは家族と共に度々真贋を確かめるために加護を用いたのだそう。思い出話をするような他愛のないものだったが、あの揺らぎを感じさせたあと、それは起こった。異変を感じた彼の母の手がクラテスを突き抜けたのだ。

(「僕と同じものになる」)

何時だったかクラテスが言った。世界そのものに同化するのだと。その場の皆で必死に呼びかけた所為か実体が失われかけたクラテスは戻って来た。

「見たの。私も見たのよ」

それを。石畳のおうとつに尻を蹴り上げられる衝撃が続く。以前にもミネルヴァは人の身には過ぎた加護だと耳にしていた。

「それを神に捧げると言うのなら、そういう事だと思うわ」

(神に)

ぐにゃりと脳が歪む感覚。アタシは何か勘違いしていたかもしれない。加護とは世界に働きかける能。神とは理。世界そのもの。「可哀想なあなたにスキルを授けましょう」そんな人間臭い相手ではない。超越的な人格でもない。

ただ、在る。

思った。神様なんか居ない。アタシが思うような神は。

 尻切れの会話はそのままに竜車は施療院へ着いてしまった。考えることがあり過ぎてちょっとブレイクが欲しい所だ。問題は施療院に本家の使者が待っていた事ね。噂って奴は竜車より早くつくらしいよ。要するに街道市での騒ぎを本家に走って知らせた奴が居たのだ。で、正門でアタシ達の帰りを待ち構えていた使者から門の脇で叱責ですわ。神様云々加護云々は全て保留でとんだブレイク。メッチャ叱られました。寄り道するな、バカ曝すなってさ。うへーい。でも、あれは高度な計算であって本当は……ウソです。ごめんなさい。レーナは毟られてるし、こちらの都合はまるきり無視だしでムカついたんでケンカ売っただけですわ。ついでに労苦を報われた慈愛の母のイメージもぶち壊しといた。どちらかと言えばその所為かもしれない。あの騒ぎの結果、施療院の奴隷は躾がなってないとか幼すぎるとか言われているらしい。まんまその通りだわ。情報入手のためにアタシを飼ってる本家としては手の内を曝すことは無いけれど、世に侮られるのも癪ってところね。で、更に叱られてる間に二人目の使者が来て予言って何だ、報告しろだって。つまりお小言二倍。いや、予言とかホント迷惑。




 西都の上から下まで今や話題の紫の巫女。アタシの都合に関係なく二回目の予言も瞬く間に広がった。前の奴「王を葬る」が剣呑なもので、次の予言はそれを挽回するものだったのも大きい。その解釈に皆盛り上がってしまっているのだ。午後は正門近くにいるからアタシも話しかけられるしさ。もう、バッカじゃねえの?6才児に何ができるのか考えてみろよって言いたい。アタシそんなに暇じゃないのよ(偽)。

「施療院の奴隷の子どもってお前の事だよな?」

ディオとアイギースが連れ立って現れたのが翌日。早えよ、お前らもか。しかもディオは何やら興奮しているし。

「お、俺も協力するから!俺達で西都を救うんだ!」

いや、救わねえから。達って言わないで。予言の何かが男子的琴線に触れちゃったらしいが、一回振り返ってみよう。「救う」とか「解決する」とかは一言も入っていないのである。話を良く聞け。アイギースは大人だから施療院に移った経緯も含めて心配してくれた。

「本気で水上都市に来ることを考えた方が良いんじゃないのか?金なら出すぞ」

 アイギースは海の暮らしに適応した魚人だ。アイギースの西都常駐は国情を探り本国に伝える目的もあるから外交大使としての色合いも強い。世話にはなっている。「前」世云々の話をしたことは無いが、最初にアタシが普通の子どもではない事に気付いた一人。加護持ちかと誤解させて利用した経緯(現在進行中)もあるのにそのアイギースが「金なら出す」とは。よくよく甘い御人だ。だからアタシのようなのに関わってしまうし、この西都で嫁も貰えたと言える。

「今現在アタシの値段は最高値だ」

医を司るティタ家に買われたアタシの値段はエリトゥラに居た頃の1・5倍。予言を受けた者として更に上がっていると考えていい。それが判らないアイギースではない。西都に降りかかる「災い」が何であるのか判然としないが、それに関係すると予言されたクソガキを魚人が都から連れ出すのは問題がある。下手したら水上都市との外交問題だ。だから一度断ればアイギースは食い下がらなかった。まあそれくらいドライな関係が良いと思うよ。

「それはそうと、水飴事業は追従者が出てるぞ。手を回すか?」

 売上の一部がアタシの懐に入る麦芽糖水飴事業である。飴湯の形でも販売しているから原材料にピンときた奴もいたのだろう。

「予想より早いが構わんよ」

秘匿して職人を攫われてもつまらないから、そもそもそんな値段設定にしなかったのだ。この先も板絵芝居の客寄せで一定の売上があればいい。何故って?

「次があるのか?」

ニヤリ。

そうそう。ちゃんと考えてますとも!アタシは予言とか不確かなものに振り回されている暇はないのだ。新商品開発に決まって……おっと、新たな教育計画です。

「アイギース、鉄にくっつく石って手に入る?あとさ、正確な地図って売れるかな?」

マグネタイト。天然に存在する磁鉄鉱はこちらでどう呼ばれているか分からないのでそういう表現になる。

「何始める気だ?」

「皆が計算できるようになったから学舎で測量教えようと思ってさ。正確な地図とか羅針盤って売れそうじゃない?」

アイギースは目を見張った。ディオはお土産に持ってきてくれたチクワと薄切りレモンを水飴に浸けた小壺をアタシに渡しながらうげーと声をあげる。ふふ。四則演算で生活するのに十分だから反対の声は上がるだろうと思ってましたよ。小壺をあけてレモンを一切れ摘まみながらアタシはディオの腰かける木箱に尻を移す。「な、何すんだよ!」とか言いつつ逃げないのな。

「ディオは」もう御者できるようになった?」

ディオが見習いをしている竜車屋の話である。

「毎日世話してっからメーテルって騎竜なら言う事聞かせられるんだぜ!」

ほかのはまだとかごにゃごにゃ言っているが構わない。「アタシもっ!」ディオの肩にアタシの腕を密着させて「!!」ぐいぐい「ディオのためにっ」押す。「地図作ろうと思ったんだっ」西都は街区溝があり、それにつながる側溝や橋が幾つもある。大通りは問題ないが、竜車が入ってゆけない道が沢山あるのだ。だから西都の道路を頭に入れているのが優秀な御者になる。地図があるなら記憶や経験に頼らなくてもいい。

「ディオにはお世話になってるからねっ!」

で、ぱくっとレモンを咥えて

「ん!垂れちゃう!ぺろってして」

水飴が滴り落ちそうな顎を突き出せば、ほらもうドッキドキ。「はばばばばば!」ディオは狼狽えに狼狽えて

「お世話⁉うえっ?し、舌ぁ!」

いやいや、その言い方は語弊があるでしょ。そちらはお世話になってもしてもねえ。で、本当に垂れる前に「!」食っておく。そんなに肩を落とすくらいなら早く来い。次はポッキーゲームならぬチクワゲームか?

「ディオの協力、欲しい、な」

むぐむぐ言えば、ディオが地面に向かって叫ぶ。

「わっ、わかった!」

はい、作業員1確保ちょろナリ。大工3とゼフィロスも確保の予定なんだよね。恐る恐るというようにアイギースが聞いた。

「……ラシンバン、とは?」

「海とか平原とか目印無い所でも星が出てなくても方角が分かる道具。遠洋航海に必要じゃない?」

瞬きも出来なくなったアイギースが問を重ねる。

「……正確な地図、とはどの程度?」

「そのまんまの図だよ。五千分の一縮尺とか。船乗りなら正確な海岸線が記された地図があれば良いかなって。街道図もアリ」

アタシは街道市のアイギースの露店で地図を見せて貰ったことがある。都市の位置関係や海岸線が描かれたものだったが、西都から見える範囲ですら距離感等修正が必要な気がしたのだ。そのままの形でアイギースが固まっている。んー、何かヤバい系の話だったらしい。アイギースは戻って来るのに暫くかかりそうだ。

「ところでディオ、ゼフィロスが板絵芝居屋に居なかったんだけど」

どうしたのと聞くとディオが言った。

「そうなんだよ。ちょっと前から学舎に来なくなってさ。住んでる所も仕事も知らねえから訪ねられないし。でもさ、タッソが貴族街で見かけたって言うんだ」

アタシが知っているゼフィロスは娼婦のヒモだからキッズが訪ねるのはお勧めしない。

「貴族街?」

タッソは海産物を卸す大店の息子だ。貴族街に配達に行くこともあるのだそう。その際あるお屋敷の敷地でゼフィロスを見かけたのだそうだ。貴族の邸宅であるから勝手な事も出来ず声もかけられなかったが。

「あいつ綺麗な顔してるからお貴族様に買われたのかな……」

ゼフィロスは計算もできたから地図作りにも使いたかったが、仕方ない。予言の集会にもわざわざ足を運んだが、貴族街に居るのならゼフィロスの件は急ぎではないだろう。ディオとぎゃあぎゃあやっていると漸くアイギースが解凍された。近くに人が居ないか目を走らせている所を見るに本気で聞かれてはならない話だったらしい。

「……クロノ、お前がやろうとしていることは国家事業になる」

うえ?アタシ的には掛け算割り算の次は図形で角度と三平方の定理を実践的にやろうと思っただけなんだけどね。

「計算できればそこまで難しくないよ?」

イメージしているのは伊能忠敬の『大日本図』。道具を幾つか作る必要はあるが「前」の夏の自由研究で調べたからいける気がしている。そこで羅針盤ね。「前」世の三大発明と言えば火薬に羅針盤に活版印刷(紙を含めて4大もあり)だけど、アタシの立場で出来そうなのはコレ。アイギースが眉間を揉む。

「正確な地図が欲しくない国は無い。戦にも使えるから」

ああ、戦争かぁ。それは考えていなかった。測量は平面で考えていたが、高さ、等高線が入った物も作ることは出来る。地形図が戦に有利なのは言うまでもない。

「戦って近場でやってるの?」

「南部は帝国以西は小国が固まっているし、レナ川の上流は領土拡張で二都市が揉めてる」

流石にアイギースは国際情勢に詳しいが、ぬう。こちらは建築用とか街道整備にいいんじゃない位だったんだけどな。

「そんな物を作ったら職人ごと秘匿される。天文学者か数学者が国の依頼で行う事業だ」

誘拐、隔離に監禁、殺害もありそうだな。そう言うのは望んでいないからやり方から考えないと拙そうね。今はまだ早いかな。

「その……羅針盤、に使うのか?くっつく石というのは聞いたことがあるが」

 西都からはプラタイアを超えてさらに北になる国、ドニアの海沿いにそういう山があるらしい。サンダルの金具がくっつく石があるのだとか。魚人の船乗りの間ではその辺りは評判が悪い。船乗りを惑わすセイレーンが出る海として有名な場所だという。それよ、それ!多分磁鉄鉱の露頭がある。天然の磁鉄鉱が方位を示すほどの磁石になるには大きな電流を流す必要がある。「今」世で言うなら雷だ。高い山や岬の突端ならその条件にあう。アタシは「前」世の山口県の須佐高山にそういう場所があるのを知っていた。方位磁石が狂うのだ。

「それとな、魚人は方角が分かる」

体質?体内磁石か。渡り鳥やイルカやクジ、長距離移動する動物に備わる能力だ。魚人にもそれがあって長期の航行の時には魚人を船に乗せる事もあるのだそう。あ、セイレーンの話ってそういう事なんじゃないの?強力な磁場で体内磁石が狂う。いや、陸と海ではちょっと遠いかな。

「じゃ、魚人には売れないかな?」

「いや、羅針盤は欲しい」

むふーん。だよね。そしてその販売を独占管理したい筈だ。これだって十分に国家事業だがアイギースや水上都市主導なら問題は無い。船乗りには確実に売れる。陸でも都市間交易の隊商や砂漠や山間部を行く人は欲しいだろう。デカい事業になりますよ~。む!これちょっと高額設定しても良くない?古代中国の指南魚は木片に乗せた磁石を水に浮かべるシンプルなものだった。羅針盤になると船の揺れにも耐える構造が欲しい。細工も意匠を凝らしてみようか。ああっ!脳内でステキな音がする。チャリンチャリーン。これってアタシの基本にして恒久的な問題一挙解決じゃね?いえっふー!予言とは裏腹に「今」世最高に希望に満ちた気分だわ。え?皮算用?え?身に付かず? そんな事は……。



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