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巻き込まれオカマの異世界放浪譚  作者: 雪柳
ガリエガンド編
21/21

ハルバディア武闘大会、開催3


太陽が頭上で眩く輝き、白い石で出来たリングを照らす。

反射する太陽光が眩しくて、久しぶりにレイバンのサングラスを付けながらアタシはフォルナーと対峙していた。

始まる前からバチバチと激しい火花を散らしそうな程にアタシを睨みつけるフォルナーの手には、2振りの剣が握られていた。

本戦からは武器や自前の防具の使用が可能になったということで、アタシはもしもの時のためのシャグラン・ラ・ローズを装備しつつ、ギリギリまで紅の水母亭の女将に譲り受けた【魔導師の杖】を使うことにした。

魔導師の杖の先端には無色透明な水晶がはめ込まれており、それにより魔力が増幅し強大な魔法も使えるが、あまり酷使すると水晶が壊れてしまう、というデリケートな武器だ。

しかし、杖自体はとても強靭で硬い、と言われるローズウッドで作られており、それで殴るのも結構なダメージになるらしく打撃用の武器として装備してきた。

手首を柔らかく回して杖を一回転させてからぱしり、と掴むとしっくりと掌に馴染む。

魔力を流し込めばそれに反応するように水晶が青く光った。


『それでは、本戦第一回戦、フォルナー選手VSユーリ選手、はじめ!!』


銅鑼の音が鳴り響くと同時にフォルナーが双剣を抜いてアタシに向かい駆け出した。


「やるからには全力で闘え!ユーリ=シザキ!!」


抜き味の刃の放つ輝きに研がれた様な鋭い瞳。その腕から放たれる斬撃は鋭く、一陣の風を起こす。

太刀筋を見切ってから右へと避けようとするが、そちらからも斬撃が襲い掛かって来るのを感知して後ろへと飛んで避ける。

凄まじい勢いで連撃するフォルナーと、避けるばかりのアタシ。

まるで詠唱はさせないとばかりに攻めてくるフォルナー。魔法使い相手だとその戦法は間違っていない。

まるで踊るかのように特異な足運びをしながら斬りつけてくるフォルナーの動きは素早く、身体能力にも剣斧の才能にも恵まれていることがわかる。

ただ、アタシにはジーク仕込みの体術と、元から培っていた武道がある。

双剣の剣舞の隙を狙って杖を振るい片刃を弾き飛ばす。

腕が痺れている間に距離を取って杖に込めた魔力を開放する。


「ウォーターボール!」


怒涛の水撃がフォルナーを飲み込もうとするが、直線上のその魔法を躱すように横飛びしたフォルナーの動きを予想していたアタシは飛び出してくる方向に先回りして杖に新たな魔力を込めて魔法を展開していた。


「目をくらませる炎、スパークルファイア!」

「ぎゃん!」


間近で閃光魔法を食らったフォルナーは両目を抑えてそれでも戦意は失わずにアタシに斬りかかってくる。

鼻がきく種族だと聞いた灰犬族は、匂いだけでアタシの正確な位置を把握してくるから油断がならない。

更に距離を取って閃光の効果が薄れるのを待ちつつ新たな魔法を展開しておくと、頭を振ったフォルナーがようやく見えるようになった目でアタシを睨む。


「ユーリ…貴様…」

「怖い顔してるとブスになるわよ」

「くっ……貴様はそうやっていつも私をあしらう!!たまには本気になれ!!」

「本気にねぇ……」


『おっとぉ!?この2人にはどうやら因縁があった模様です!!』


実況席は盛り上がっているようで何よりだし、ジークがここにいる、と言っていた辺りに目をやれば、無茶な戦い方をしていないアタシに満足げに頷いてるのが見えるし、何故かその隣にツドスとカロンが座っているのも見えて授業参観されている子供の気分になった。

このまま戦っていてもいいが、また傷を負えば昨日の二の舞なのはわかっている。


「余所見をするとは余裕だな!」


切っ先が髪を掠り、鋭さに切り取られてぱらぱらと散っていく。


「余裕はないわよ」


殺す気で迫ってくる刃を杖で防ぎ、躱しながら反撃のチャンスを窺う。

ツドスの様なパワーファイターではなく、スピードと小回り重視で攻めてくるスピードアタッカーのフォルナーに同じ戦法は効かない。

ならばどうするべきか。答えは最初から一つだった。

大魔法を使うこと。それが、怪我を負わずにこの勝負に勝つ方法だった。

腹を括り、距離を取るように飛び退る。


「……本気、出してもいいけど、死なないでちょうだい」

「は、何を……」

「あなたが望んだことよ、だから、アタシも本気で向き合わなきゃやっぱり、失礼だから」


ぐるり、と杖を回して空中に魔力の光の軌跡を残す。

はっと気付いたフォルナーが剣を振り上げてアタシに斬りかかるけれど、杖で受け止めてそのまま押し戻す。

ツドスには力比べで負けたけれど、それに比べればフォルナーの剣は軽い。

杖でいなしながら魔力の光が文字となり奇怪な文様となり空中に留まり、魔法陣が完成していく。

詠唱呪文の方が簡単に発動できるしラグもないが、それでは本気とは言えない。かと言って、アブソリュートゼロを使えばこの子は簡単に死んでしまうだろう。

それでは意味が無い。

ティーズが教えてくれた、古代の魔法。アタシと共にレベルを上げて、思い出した太古の記憶から見つけた、古い古い魔法。


「ティーズ、おいで」


中指にずっと嵌めていたアクアマリンの指輪に優しく声をかければ、そこから青い光が飛び出してくる。

魔力は石に宿る。精霊も、石を住処にする。これはイフリートから聞いたことだった。


「あまねく空に宿りし雨の精よ、願わくは我にその力を貸し給へ、我は希う、幾多の恵を齎す慈悲を、全てを洗い流す浄化の無慈悲を!アヴェルス召喚!!」


杖の先端が眩い青の光を放つと同時に、魔法陣が発光しそれが何らかの形を作っていく。

膨大な魔力を吸われるために、扱える者がいなくなり途絶えた古代の魔法は、召喚魔法。

現在のアタシのMPの1/3を持っていかれて軽く眩暈はしたけれど、まだまだ闘える。

魔法陣から出ようとしているそれがもはや精霊の域を超えているのを察したのか、フォルナーは召喚者であるアタシに攻撃を仕掛けてくるけれど、そう簡単に斬られてあげるほど優しくはない。

魔導師ならば魔導師らしく、魔法で戦わねば、とイフリートにも言われてアタシは反省したのよ。


「死なないように、頑張ってねフォルナー」

「ふっざけるなぁぁぁ!!!」


激昂して襲い掛かる刃を防いだのは、水。

見上げれば、美しい女人の姿をした水の塊がアタシの前に立って攻撃を防いでいた。

にわかに降り出した雨は見る見るうちに激しさを増して豪雨となりアタシ達に降り注ぐけれど、アタシは何故か濡れていない。

アヴェルスの特異能力だと知ったのは、心に響いてくる声がそう伝えてきたから。

ティーズは、アヴェルスをこの世にとどめる触媒のようなものになっていた。

それでも確かに、ティーズの意識も感じられて、このアヴェルスはティーズと同位体だということが解る。

恐れなど無い。目の前にいるのは、アタシの可愛いティーズ。


『これはどうしたというのだー!?ユーリ選手が魔法陣を描きそこから美しい女人が現れたかと思ったら急激な雨だー!!観客たちはずぶ濡れ、私もずぶ濡れ、しかしマイクは無事!!実況は続けられます!!』


実況席から飛ぶ声に思わず笑いが漏れてしまいつつ、アタシはフォルナーと向き合う。

突然現れた精霊に驚きながらも戦意を失わない強い目。


「いい目してるわね……アヴェルス、力を貸して」


頷いて美しく笑う雨の精霊は長い髪をゆらりと揺らしてその姿を消したかと思うと円形のリングの端に現れ、そこを脚で軽く蹴る。

すると、突然水の柱が吹き上がった。アヴェルスはアタシ達を囲むようにとん、とん、とリングの上を蹴って4つの水柱を立たせて、そして指をパチン、と鳴らした。

途端に足元から水が吹き出して、水柱から青い光が放たれて柱同士を結び、四角形を描いた。

その光はどうやら水を通さないらしく、本来なら流れていくはずの水が溜まり始める。


「……水槽?」


呟いたアタシに正解、と言わんばかりにコロコロ笑うアヴェルスは空高く舞い上がり、更に雨を降らせる。

あまりに激しい豪雨に前もろくに見えない。水はどんどん溜まり、膝の上まで水が来た。

アヴェルスはひらひらと舞いながら戻ってくるとアタシの腕を掴んでまた空へと飛び上がる。

水の檻はフォルナーの腰まで水位を上げていて、あれではもう自由に動くことは難しい。

アヴェルスが指先で雨を動かす。円錐形の水の玉形成されて、動けないフォルナー目掛けて放たれた。


「ちっ!」


舌打ちして水を掻いても、迫り来る水の玉からは逃げられずにその背中にどん、という鈍い音とともに当たり、弾けて水となって戻る。


「ぐはっ!」


衝撃に浮いたフォルナーの小さな体はそのまま水の中へと沈んでいく。

追い討ちのように次から次へと放たれる水の弾丸は小さな体を殴打していく。

このまま続けると死んでしまう、と止めるように魔力で水の弾丸を打ち消すとアヴェルスはきょとん、とした顔をしていた。


「手を離して、アヴェルス」


アタシの言うことを聞いて手を離されると空中にいたアタシは落下する。落下しながら体勢を変えてプールの飛び込みのように水面を割って水の中へと潜った。

フォルナーを探して必死に水槽の中を泳ぎ回り、ようやく見つけたフォルナーは荒れ狂う水流に飲まれてもがいていた。

このままでは溺れ死んでしまう、と急いで水面から顔を出して杖を天へとかざす。


「理に導かれ、理へと還れ、アヴェルス」


魔力の供給を断つように杖の水晶に浮かんでいた魔法陣を引き裂くとアヴェルスはすっと消えた。

それと同時にリングの上に出来ていた巨大な水槽も、土砂降りの雨も止んで一気に空が晴れた。

水も消えてアタシはなんとかリング上に着地すると、流されていたフォルナーを探す。

水の流れに翻弄されていたフォルナーは、リングの外でずぶ濡れになって倒れていた。


『しょ、勝負あり!!勝者は、ユーリ選手だぁ!!』


観客席からは歓声が上がるけれど、それを無視してアタシはフォルナーの元へと駆け寄る。

うつ伏せになって倒れる身体を仰向けにして呼吸を確認する。聞こえない呼吸音に青ざめながら、腹に手を当てぐっと何度か押すと、水を吐いて咳き込み、呼吸をしだしたのを確認してほっと息を吐く。

頬を叩いて目を覚まさせると、フォルナーはアタシを確認して飛び起きて剣に手をかけた。

しかし、今ここがリングの外ということと自分が気を失っていたということを思い出したのか、すぐさまその剣を下げて、へたりこんだ。


「…私、は、負けたのか」

「そうね」

「……お前にだけは、負けてはならなかった、負けたく、なかったのに」


ずぶ濡れになりながら、まだ幼さの残る顔を歪めて泣きそうになるフォルナーに、アタシはなんて声をかけたら良かったのか分からなかった。

ただ、迷子の子供のような顔をしてアタシを見ているから、このまま放り出すことだけはしたくなくてその手を掴んで引っ張り立たせる。


「手加減して、負けた方が良かったかしら?」

「そんなこと!!そんなことは、絶対にない」

「アタシは本気を出した。アナタも本気だった。それで戦ってアタシが勝った。これが勝負の世界でのすべてよ」

「…分かっている、分かっているんだ、そんなこと」


遂に泣き出してしまったフォルナーに、アタシはどうしたらいいのか本気でわからなくなってしまった。

実況席ではなんかアタシが泣かせたとかうるさいし外野もブーイングを飛ばしてきてうるさい。

あんまりにも五月蝿いから実況席まで翔空の術で飛び上がるとマイクを奪い


「ごちゃごちゃ抜かすとテメェらも水槽に浸けるわよ!!」


とドスの聞いた声で言うとシーン、と静まり返った。

まだ泣いているフォルナーの元に降りると、その手を掴んで歩き出す。泣きじゃくるフォルナーは抵抗せずにアタシについてくる。泣いてる少女をこんな所に置いていけるか。


アタシがいなくなった後またわぁっと盛り上がったけれど、知らない。後でツドス辺りに教えて貰おう。













宿に帰ると気の利く女将がお風呂を沸かしていてくれた。

アタシはいいから、と先にフォルナーを風呂に押し込んでから女将が持ってきてくれた着替えを脱衣所に置いて部屋に戻り、服を着替える。

用意してあったのは浴衣のようなものだった。

どうもこの宿には日本文化があるらしく、最初は着方がわからずに四苦八苦していたジークを笑っていたけれど、今では難なく着替える事ができるようになっていてちょっと悔しい。

浴衣に着替えて窓際に用意されている椅子に座ると、ようやく張り詰めていた気が抜けて全身を一気に疲労感が襲う。


「ユーリ、帰るなら一言くらい言え」


がちゃり、とドアを開けて入ってきたのはジークだった。

どうやらもみくちゃにされるのが嫌らしく、変装してはいるものの鍛えた身体はどう足掻いても誤魔化せそうにない。


「ごめん、疲れちゃって」

「また魔力を喰いそうな技だったからな……大丈夫か」


隣に座り、濡れたアタシの髪を撫でる大きな手に安心を覚えて寄りかかる。

このまま寝てしまいたいくらいだけど、それは出来ない、と身体を起こして溜息を吐く。

負けたことに怯えるみたいなあの目は、一体なんだったのだろう。


「アタシは平気だけど、フォルナーの様子がおかしかったから」

「あぁ、話を聞く必要はあるな」


何はともあれ、風呂からフォルナーが出たら聞きたい事がある。


「アンタがヘルメアから居なくなってから何があったのか、聞いてみましょ」


頷くジークの瞳が憂いを帯びたのを見て、アタシはまた溜息を吐いた。







(おまけ)



「どうしよう、着方がわからん…!!」


私は今、窮地に立たされていた。

憎き敵役のユーリに情をかけられ宿まで連れてきてもらい風呂まで入れられ至れり尽せりの待遇に戸惑いながらも、悪い奴じゃないのだと言うことをなんとなく理解したけれど、この、着替えは、わからん。

女将が着方をレクチャーしてくれたけれど、やはりわからん。

しかし着ていた服はびしょ濡れになって洗濯しますねと持っていかれてしまった。


「ユーリ=シザキめ……許さん!」

「風呂場で何騒いでんのよ」

「ぎゃあああ!」

「浴衣の着方がわからない?それはこうやってこうよ」


脱衣場に入ってきて裸の私を見ても動じずに浴衣を着付けて出ていってしまったあの男。

乙女の裸を見た癖に悪びれもしない、敵役。


「やっぱり、嫌いだ」








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