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王女様は平民に憧れる  作者: 涙目


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第七話 決意王女

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

「王女殿下がお戻りになられました」


その報告を聞いた時。

国王は静かに顔を上げた。


「そうか」


短い返答だった。


驚きはない。


最初から知っていたからだ。


娘が城を抜け出していたことも。

護衛隊長が密かに監視していたことも。


「そろそろ頃合いか」


国王は静かに立ち上がった。



翌日。


アリアは玉座の間へ呼び出された。


久しぶりの空気。


料理屋の木の椅子の方が落ち着く。


そんな自分に少し苦笑する。


「アリア」


国王が口を開いた。


「北方伯爵家との婚姻の件だ」


アリアの表情が固まる。


「先方も乗り気だ」


「お断りします」


即答だった。


国王の眉が僅かに動く。


「理由は」


「お会いしたこともありません」


「王族の婚姻に感情は不要だ」


拳を握り締める。


少し前までなら。


何も言えなかった。


だが今は違う。


料理屋で働いた。


様々な人と出会った。

様々な人生を見た。


そして。

自分で選んで生きることの尊さを知った。


「私は納得できません」


玉座の間が静まり返る。


「誰かいるのか」


びくりと肩が揺れた。


しまったと思った。


顔に出た。


完全に出た。


国王は深くため息を吐く。


「そうか」


それだけだった。


しかしアリアには分かる。


もう誤魔化せない。


王女としての未来。

自分自身の未来。


選ばなくてはいけない。



その日の夜。


アリアは庭園にいた。


誰もいない。


夜風だけが静かに吹いている。


星空は綺麗だった。


だからだろうか。


涙が零れた。


「最悪……」


ぽろり。


頬を伝う雫。


嫌だった。


王女だから。


王族だから。


それだけで人生が決まることが。


苦しかった。


悔しかった。


泣いてはいけない。


そんなことは分かっている。


王女なのだから。


けれど。


『知らなかっただけです』


不意に思い出す。


『知った後にどうするかが大切です』


そして。


『俺達の仕事は貴女を守ることです』


『そこには貴女の心も含まれていると、私は思っています』


レオンの声。


あの時の言葉。


それを思い出した瞬間。


さらに涙が溢れた。


「何を泣いているのですか」


聞き慣れた声だった。


アリアは慌てて頬を拭う。


「な、なんでもないわ」


振り返らない。


見られたくなかった。


だが。

隣へ座る気配がした。


「な、何で隣に座るのよ」


「座ってはいけませんか」


「そういう問題じゃなくて……」


途中で言葉が止まる。


レオンの指が。

そっと頬へ触れた。


涙を拭う。

驚くほど優しく。


「辛かったら」


静かな声。


「泣いたっていいんだ」


唇が震える。


「私は王女で」


「関係ない」


即答だった。


「でも」


「関係ない」


夜空を見上げながら。


レオンは静かに言った。


「王女である前に」


風が吹く。


「貴女は一人の人間だ」


その瞬間だった。


限界だった。


涙が溢れる。


止まらない。


みっともなくても。

情けなくても。


どうでもよかった。


今だけは。

王女ではなく。


一人の少女として泣きたかった。


レオンは何も言わない。


ただ。

優しく抱きしめた。


子供をあやすように。


静かに。


優しく。


どれほど泣いただろう。


やがて落ち着きを取り戻した頃。


アリアは小さく呟く。


「……貴方は」


「はい」


「私を攫ってくれる?」


沈黙。


レオンは少しだけ考える。


そして。


「貴女がそれを望むなら」


そう答えた。


胸が熱くなる。


レオンは続ける。


「私は山も海も好きです」


「……?」


突然何を言い出すのだろう。


「浜辺で焼く貝や甲殻類は美味しい」


「何の話?」


レオンは少しだけ笑った。


あの優しい笑顔だった。


「貴女が失敗した時は」


アリアが顔を上げる。


「貴女を攫って海沿いに住みましょう」


息が止まった。


「……っ!?」


「そして」


レオンは続ける。


「料理屋でも開けばいい」


「……」


「貴女は接客が上手です」


「貴方は?」


「魚くらいなら獲れます」


真顔だった。


本気なのだろう。


だからこそ。


アリアは笑ってしまった。


少しだけ。

本当に少しだけ。


未来が怖くなくなった。


失敗するかもしれない。

全てを失うかもしれない。


それでも。


もしそうなったとしても。


一人ではない。


そう思えた。


そしてアリアは決意する。


逃げない。


王女としてではなく。

一人の人間として。


自分自身の人生を選ぶのだと。

お読み頂き、ありがとうございます。

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