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王女様は平民に憧れる  作者: 涙目


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第四話 羞恥王女

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

その日の夜。


アリアはベッドの上で転がっていた。


(人前で泣くなんて……!)


枕へ顔を埋める。


思い出すのは夕暮れの路地。


騎士達の会話。


自分の浅はかさ。


そして。


『貴女は人の気持ちを察することができる人だ』


「うぅぅぅ……」


『人は誰でも知らないことがあります』


「うぅぅぅぅぅ……」


『俺達の仕事は貴女を守ることです』


ごろごろごろごろ。


ベッドの上を転がる。


やめてほしい。


思い出したくない。


しかし勝手に思い出してしまう。


『そこには貴女の心も含まれていると、私は思っています』


「~~~~~~っ!!」


毛布を頭から被る。


顔が熱い。

胸が苦しい。

恥ずかしい。


なのに。


嫌ではなかった。


今まで。


王女として見られたことは何度もある。

王女だから褒められたことも。

王女だから叱られたことも。


けれど。


アリア自身を見てくれた人がいただろうか。


分からない。


少なくとも。

思い出せなかった。


「……ずるい」


小さく呟く。


「本当にずるい人」


そのまま枕を抱きしめながら目を閉じた。



翌日。

料理屋は今日も忙しかった。


「アリアちゃん、お茶お願い!」


「はい!」


「こっちのお皿下げて!」


「今行きます!」


慌ただしく動き回る。


以前なら失敗だらけだった。


だが最近は違う。


身体が自然と動く。

客の顔も覚え始めた。


「ありがとねぇ」


常連の老婆が笑う。


「いえ」


自分も笑う。


その時だった。


店の扉が開く。


何気なく視線を向ける。


(あ)


レオンだった。


別に珍しいことではない。


最近は時々店へ顔を出している。


なのに。

なぜか一瞬だけ胸が跳ねた。


(何よ)


自分で自分に言い聞かせる。


(別に何でもないじゃない)


仕事へ戻る。


だが。

気付けば目で追っていた。


老店主と話している。

何か確認している。


真面目な顔。


いつも通り。


別に気になる訳ではない。


そう思った。


思ったのだが。

仕事が終わり、店を出た後も。


なぜかその姿を探してしまった。


そして。

通りの向こう側。


見つけた。


レオンだった。


(あ)


向こうはまだ気付いていない。


そのまま歩いていく。


市場へ入る。

魚屋へ立ち寄る。

八百屋でも誰かと話している。

露店の店主とも言葉を交わしていた。


(買い物……ではなさそうね)


魚を買う訳でもない。

野菜を買う訳でもない。


ただ話している。


店主達も真面目な顔だ。


(見回りかしら)


騎士の仕事は剣を振るうだけだと思っていた。


だが違うらしい。


街を歩き。

様子を見て。

人々の話を聞く。


知らなかった。


そんなことを考えながら。

気付けば後を付いていた。


そして。

不意にレオンが立ち止まる。


(え?)


振り返った。


(えっ)


真っ直ぐこちらを見る。


(え!?)


そして。

こちらへ歩いてくる。


(ええええっ!?)


慌てて建物の陰へ隠れる。


遅かった。


足音が近づく。


どんどん近づいてくる。


(嘘でしょう!?)


心臓が暴れる。


足音が止まった。


真横で。


「何をしているのですか?」


「ぴゃっ!?」


変な声が出た。


勢いよく振り返る。


当然。


レオンがいる。


「な、なななななな」


「落ち着いてください」


「どうしてそこにいるのよ!」


「こちらの台詞ですが」


真顔だった。


腹が立つ。


「先程から付いてきていますよね」


「そ、そんなことありません!」


「市場」


「……」


「魚屋」


「……」


「八百屋」


「……」


「露店」


「……」


全部見られていた。


アリアは顔を押さえる。


帰りたい。

今すぐ帰りたい。


「それで」


レオンが尋ねる。


「なぜ付いてきたのですか」


答えられない。

自分でも分からない。


なぜ気になったのか。

なぜ後を付けたのか。


必死に理由を探す。


そして。


「あなたがちゃんと仕事をしているのか見張っていたのです」


言った瞬間。


(馬鹿ぁぁぁぁ!!)


心の中で叫んだ。


もっとまともな言い訳はなかったのか。


沈黙。


終わった。


そう思った。


だが。


「……ふっ」


レオンが小さく笑った。


アリアは固まる。


笑った。

初めて見た。


あの無愛想な男が。


「な、何がおかしいのですか!」


「いえ」


レオンは少し肩を震わせる。


「そうですか」


まだ笑っている。


そして。


「それで」


穏やかな声で言った。


「私の仕事ぶりはいかがでしたか?」


どくん。


心臓が大きく鳴る。


意味が分からない。


ただ。

妙に顔が熱かった。


「ま、まあまあですわね」


何とか答える。


レオンは満足そうに頷いた。


「それは良かった」


ただそれだけ。

ただそれだけなのに。


胸が落ち着かない。


レオンは再び歩き出す。


アリアはその背中を見つめていた。


『貴女は人の気持ちを察することができる人だ』


昨日の言葉が蘇る。


『俺達の仕事は貴女を守ることです』


また思い出す。


そして。

今日初めて見た笑顔も。


頭から離れない。


「……何なのよ」


呟く。


だが答えは分からない。


ただ一つ確かなのは。


アリアはもう。


レオンのことを「嫌な人」だけでは済ませられなくなっていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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