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王女様は平民に憧れる  作者: 涙目


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第二話 我儘王女

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

「いらっしゃいませ!」


元気よく言った。


つもりだった。


しかし店内は静まり返った。


客が全員こちらを見ている。


老店主が頭を抱えた。


「お嬢ちゃん」


「はい!」


「声が大きい」


「はい!」


「だから大きいんだよ」


店内に笑いが起きる。


アリアは顔を真っ赤にした。



料理屋で働き始めて三日。


アリアは壁にぶつかっていた。


給仕は難しい。


想像していたより遥かに難しい。


客を席へ案内し。


注文を聞き。


料理を運び。


食器を下げる。


城で学んだ礼儀作法より何倍も難しく思えた。


「魚定食を一つ」

「はい」


「追加でスープお願い」

「はい」


「あたしお茶ね」

「はい」


数分後。


アリアは固まった。


(誰が何を頼んだの!?)


完全に混乱していた。



昼営業が終わる頃にはへとへとだった。


机へ突っ伏す。


「疲れた……」


「まだ三日目だからねぇ」


老婆が笑う。


「皆最初はそんなもんさ」


「本当に?」


「本当さ」


少しだけ救われた気がした。


その時だった。


店の扉が開く。


アリアは露骨に顔をしかめた。


(また来た)


レオンだった。


最近毎日来る。


客ではない。


食事もしない。


ただ様子を見て帰っていく。


正直鬱陶しかった。


「問題はありませんか」


レオンが老夫婦へ尋ねる。


「今のところはね」


店主が苦笑する。


「お嬢ちゃんも頑張ってるよ」


「そうですか」


レオンの視線がアリアへ向く。


そして。


小さくため息を吐いた。


「何ですか」


思わず睨み付ける。


「別に」


「今ため息を吐いたでしょう」


「吐きました」


「失礼ではありませんか?」


「そうでしょうか」


淡々とした口調。


ますます腹が立つ。


「では失礼します」


レオンはそのまま店を出ていった。


(感じ悪い)


本気でそう思った。



その日の仕事が終わった後。


店を出ると、

路地の入口にレオンがいた。


「……何をしているのよ」


「お待ちしていました」


嫌な予感しかしない。


「少しお話を」


アリアは顔をしかめる。


しかし店の方を見ると、

老夫婦が店を片付けている最中だった。


レオンも店へ視線を向ける。


「ここでは話しません」


その一言だけは評価した。


少なくとも、

この男にも人目を気にする程度の常識はあるらしい。


二人は店から少し離れた路地へ移動した。


人通りはない。


それを確認してから、

レオンが口を開く。


「貴女は王女です」


「またその話?」


思わず苛立ちが滲む。


「重要な話です」


「私には関係ないわ」


「あります」


即答だった。


「今は侍女よ」


「いいえ」


また即答。


「王女です」


その瞬間。


何かが切れた。


「分かったような口を聞かないで!」


レオンは黙っている。


「貴方に何が分かるの!」


「……」


「私はずっと王女として生きてきた!」


「……」


「好きなことも選べない!」


「……」


「結婚相手も選べない!」


「……」


「将来も選べない!」


胸が苦しかった。


「だから少しくらい自由になりたいと思って何が悪いのよ!」


沈黙。


しばらくして。


レオンが静かに口を開く。


「自由になりたいのであれば」


アリアは睨み返した。


「せめて護衛が見失わない範囲でお願いいたします」


「……は?」


真顔だった。


本気で言っている。


数秒固まる。


「何よそれ!」


「私は真剣です」


「意味が分からないわ!」


「私も困っているのです」


「知らないわよ!」


「知っていただきたいのですが」


「嫌よ!」


即答だった。


レオンは額に手を当てた。


「本当に面倒な方だ」


「失礼ね!」


「事実です」


「嫌な人!」


「よく言われます」


反省の色が全くない。


それがまた気に入らない。


「本当に嫌い」


ぽろりと本音が漏れた。


レオンは少しだけ目を瞬かせた。


「そうですか」


それだけだった。


そして踵を返す。


去っていく背中を、

アリアは睨み続けた。


頑固。

融通が利かない。

説教ばかり。


人の気持ちを分かろうともしない。


(大嫌い)


城にいた頃よりも。

実際に話した今の方が。


よほど嫌いだった。


だからこの時のアリアは知らない。


レオンが毎日自分を探していることも。

老夫婦へ頭を下げていることも。

国王の叱責を覚悟していることも。


だから今は。


ただ一つ。


(本当に嫌な人)


それだけだった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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