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第63話 相棒と戦う舞台

お読みいただき、ありがとうございます。

どうぞ、今回の旅もお楽しみください。

 ガロンの次は、剣士だった。

 エドガーは左腕に浅い傷を負い、相手の剣を舞台の継ぎ目へ噛ませて、ようやく降参を取った。

 手当をさせるため牢から出された薬師見習いが、布を巻いた。頭上では、その間にも次の紹介が始まっている。

「休ませる気はねえのか」

「休むと、客が席を立ちますから」

 衛兵は、自分が考えた答えではないように言った。


 フレイアの前へ出されたのは、三人の槍兵だった。

 中央の男が構えたまま、小さく言う。

「動かないと、俺たちが罰を受ける」

「ならば、武器を壊す。手を離せる時に離せ」

 鐘が鳴った。

 三本の穂先を黒い魔力が絡め取る。押し返した一人が足を滑らせ、フレイアは肩を支えてから槍を折った。

 残る二人も、折れた柄を手放した。


「降参する」

「聞いた」

 彼女は道を空けた。

 短い試合に、客席から不満が飛ぶ。

「もっとやれ!」

「倒れるところを見せろ!」

 槍兵の一人が、場外で自分の手を何度も握り直した。

 次の組は出てこなかった。

 劇団員たちが、対戦表の前で言い争っている。


 次の試合を待つ間に、道具の運搬係が戻った。兄の名と五年前の別れを本人が答えたと聞き、フレイアは靴を託した。渡す相手を間違えぬよう、老人にも芸名と劇場をもう一度確かめた。


 エドガーが控えの壁へ背をつけた時、運搬用の扉が二度鳴った。

 舞台職人が、空の道具箱を引いて入ってきた。衛兵に中を見せ、修理だと言って車輪を持ち上げる。

 彼はエドガーに向かず、小さく話した。

「ルークはいた。兄の荷も見せた。あの靴は、自分のためのものだと言ったよ」

 エドガーは包帯を握った。

「会わせてもらえないのか」

「お前たちを外へ出す権限はない。本人が、裏の搬入口まで来る」

「遺体は?」

「役者用の安置室に運ばれた。弟が名前を付け直すと言っている」


 板が一枚、箱の底で鳴った。

 職人は音を隠すように車輪を回した。

「ガロンの妻と娘も、隣の棟にいた。教わった名は二人とも合った。娘は父親の傷の位置も言った。看守は、配膳の者を中へ通している」

「連れ出せるのか」

「戸は開けられる。そこから先は、まだだ」

 職人は、二人を見た。


 夕方の決勝に二人を出す、と通達が来た。

 優勝者には、国王から特権が与えられる。

 フレイアが、札を読む。

「願いを聞く、とある」

「ここの連中を出せ、って言うのか」

「ああ。聞けば、外へ出すための命令を出せる者が誰かも分かる」

「断られたら?」

「搬入口から出る。日没まで、という約束は変えぬ」


 エドガーは職人と、使える道を確かめた。

 人を運ぶ荷車は二台。薬師見習いと老役者は長く走れない。ガロンは自分で歩けると言ったが、家族と合流するまで離れないという。

 ほかの牢にも人はいた。

 別の棟へ移された者の数も、戸を開ける順も、今は分からなかった。

「分かる所から出す。だからって、全員出したことにはしねえ」

 エドガーの言葉に、職人が頷いた。

 自分のいた牢の場所だけでも残す、と、道具箱の木片へ印を刻んだ。


 フレイアは、エドガーの腕を見た。

「次は我に任せよ」

「相手はお前だろ」

「棄権すればよい」

「終わるのが早すぎたら、裏の人数が揃わねえ」

 職人は首を横に振った。

「だからって、殺し合いはするな」

「しねえよ」

 エドガーは二丁の銃を確かめた。

「見せるための勝負はする。終わりは、武器を足元じゃなく遠くへ置いて、両手を上げる。それで止める」

「承知した」

「相手を騙して降参したふりはしない。そこだけは、変えたくねえ」

 フレイアは一度、彼を見た。

「我もだ」


 決勝の扉が開くと、日が傾いていた。

 国王は最上段の席にいた。客が手を振ると、笑顔で返している。

 司会者が、二人を恋人とも仇敵とも呼んだ。

 エドガーはフレイアと顔を見合わせた。

「忙しい関係だな」

「本人に聞けば済むものを」

「聞いたら、困るんだろ」


 フレイアは先に、客席との間へ薄い障壁を張った。

 司会者が光の演出だと叫ぶ。

 彼女は訂正せず、エドガーがいる床の周りを確かめた。射線の先には、人のいない石壁がある。

「腕は動くか」

「ああ。これで駄目なら、すぐ降りる」

「では、来い」


 鐘が鳴った。

 最初の弾を、フレイアは半歩動いて避けた。

 エドガーは続けて撃たず、彼女が歩く先へ銃口を移す。首を傾けるのを見てから、二発目を放つ。

 黒い膜が弾を包み、床へ落とした。

「それ、避けるより楽なのか」

「貴様が狙い直すよりはな」

「腹立つな」

 フレイアは口元だけで笑った。


 エドガーは壁際へ下がった。

 脚は重かった。腕の傷が引きつる。

 それでも、前の相手の時より、視線を動かす余裕があった。

 フレイアが、自分の終わりの合図を待つことを知っていた。


 三発目で、空の舞台幕を留める金具を外した。

 布が二人の間へ落ちる。

 フレイアはその端を掴み、投げ捨てようとした。

 エドガーは撃たず、逆へ走った。

「正面からじゃ無理だな」

「今分かったのか」

「最初から分かってる」


 彼は一丁を床へ落とした。

 両手は上げない。

 フレイアも、それを終わりとは取らなかった。

 布の向こうで、落ちた銃が靴に弾かれる音がする。彼女がそちらへ顔を向けた瞬間、反対側からエドガーが踏み込んだ。

 狙いは、手に残していたもう一丁だった。


 至近で銃口が上がる。

 フレイアは弾を止めた。だが、伸ばした指の間を、膜の端が遅れて走った。

 紅い髪が、数本だけ切れて落ちた。

 エドガーの息が止まる。

 彼女の目が、驚きに開いていた。


 撃つ直前まで、もう少し余裕があると思っていた。

 エドガーは銃口を下げ、落とした一丁を拾った。手に持っていた銃とともに、自分から離れた所へ置く。

 両手を上げる。

「降参だ」

 フレイアは魔力を消した。

「聞いた」


 観客が叫ぶまで、二人は互いを見ていた。

「悪い。思ったより近かった」

「我も、見誤った」

「無事か」

「髪だけだ」

 フレイアは切れた毛を指で払った。客席から降る紙吹雪に、紅い一筋が混じった。

「次は、その手を使わせぬ」

「次は、こんな場所じゃなくていい」

「ああ」


 勝者の鐘が鳴った。

 搬入口の上で、小さな灯りが一度だけ隠れた。

 六人が揃った合図だった。

 エドガーは息を吐き、フレイアへ頷いた。

 王の使者が近づいてくる。

 願いを聞く席を用意した、と言った。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

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